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第3話 最果ての地


 【ビクトリア】で特に人気な職業は【蛮族】となっている。

 筋力、俊敏に特化したステータスを持ち、上位職業の【狂戦士(ベルセルク)】にランクアップすれば【轟撃】という、【剛撃】の強化版である強力無比なスキルアビリティを得ることができるからだ。


【剛撃】…攻撃の際、筋力値が1.5倍される。

【轟撃】…攻撃の際、筋力値が2.5倍される。


 あまりにもスキルアビリティの汎用性が効く故に、【蛮族】にあらずんば近接攻撃職にあらずという風潮も生まれてきている。


1.最果て-沿岸


《条件を満たしたので、称号スキルが付与されます。》


《取得称号スキル:【辿り着きし者】》


《【辿り着きし者】…あらゆる難関を踏破した証。地形ダメージを10%軽減する。》


 このゲームにはもちろん、体力がある。

 いわゆるヒットポイントというものだ、それがなくなると粒子となって死ぬ。

 端的に言えば、俺の体力は0に近かった。

 何時間も海の中にいたために、体力を奪われていたようだった。


───ほんま、助かります。


 そのため、体力を回復しようと、俺は焼き魚を食っていた。


「いえ、困った者を見過ごすわけには行きませぬ故。」


 正体不明の赤鎧の大男と、だ。


「私の名はリロ。よろしく頼む。」


───アーサーです。よろしくお願いします。


「私はナイトケから来たが、貴公は?」


───バゼリからきました。


 お互いに挨拶を交わす。

 俺は魚を食い終わった。体温が上がっている感覚がある。

 リロが松明を一つ、たき火から抜いた。


「では、探索するとしようか。バゼリの。」


 彼は長槍を砂から引き抜く。


───え?ここ、人いないんですか?


 俺はこの後驚嘆することになる。

 この島が、どれだけ世界にとって重要なのか、そして…自然の恐ろしさを。



2.最果て-森林


 沿岸から、島の中央部に向かうために森林へと入る。

 この島は中央は山、端っこは沿岸と、同心円状の形で作られているようだ。


「気をつけなされよ、ここの魔物は大陸のものとは訳が違う。」


 『ビッグサーペント』…人間20人分ほどの大きさを誇る大蛇が当たり前のように横たわっている。

 顔の大きさだけでも人間1人分くらいか?

 『ビッグサーペント』は動きそうにない。


───こいつ、腹に青痣があるぞ。


「誰か他の者に倒されたのであろうな。急ぐぞ、バゼリの。」


───うす。


 俺はリロに連れられて、さらにこの島の奥へと入っていった。


(松明一本持って樹海を冒険するなんて、映画でしか見たことないな〜。)


 なんか冒険っぽくて楽しかったのもあって、俺のテンションは少し上がっていた。


3.最果て-山岳地帯-麓


 誰か他の人が居たことを示すかのように、森林を抜けるまで多くの魔物の死体と遭遇した。


 たまーに、生きている『ビッグサーペント』に会うこともあったが…。


「【光陰生視】。」


 【光陰正視】…自身の俊敏値を1.2 倍、動体視力、思考速度を5倍にする。


 なんかリロがつえースキルアビリティで無双している。

 出会い頭に長槍で串刺しだ。尋常な技じゃない。


───とんでもないな。


「…これくらいはやれないと、中央部では太刀打ちできんぞ、バゼリの。」


───すまん、俺、実は漂流者なんだ。あんまり強くない。


「───故に、か。良い。ここまで来れば一連択生。最後まで見せよう。」


 俺たちは奥地へと歩みを進める。


4.最果て-山岳地帯-中腹


「───ここだ。」


 並々ならぬ危険な登山を経て、リロは俺に言った。

 ドラゴンとかの翼が生えた魔物が襲いかかってきたが、基本、リロが投槍して撃ち落としたりしたので俺は無事だ。


───ここが、目的地なのか?


 急斜面を登ったと思えば、次に来たのは岩の平地だ。

 奥に、洞穴がある。


「ああ。ここが最果て。現時点で無条件に【ランクアップ】を望める、唯一の地だ。」


───【ランクアップ】?


「…ふむ、わかった。バゼリの。貴公には詳細な説明が必要なようだな。」


 俺たちは洞穴へ向けて歩き出した。


5.最果て-中央部-洞穴


 ランクアップとは、人族の場合、【職業】の位階を上昇させることである。(魔族プレイヤーの場合、上位種族へとランクアップする。)


 例えば、【枢機卿(カーディナル)】は【経営者】という職業がランクアップした場合に得られる上位職業である。


 ランクアップには基本的に条件があり、ランクアップするための条件は自身のステータスの詳細欄に記述されている。


 これも、【枢機卿(カーディナル)】で例えを出すと、10万人以上の人員が存在するギルドに所属していることが条件となる。


「だが、最果ての地ではそのような条件を諸々吹っ飛ばしてランクアップを行うことができる。」


───大丈夫か、それ。


「上位職業で手に入るスキルアビリティは強力故、大変なことだ。こちらのランクアップはキャラ毎に一回限りなのが幸いであるな。」


───リロはランクアップしに来たのか。


「───まさか、バゼリの。貴公、本当にこんなことも知らずにここに来たのか?」


───漂流したって言ったでしょ!


「漂流してここに流れ着くなぞ、ほぼあり得ぬ話だと思うが…。」


 洞穴の中では、やけに声がこだまする。

 ずっと俺たちは下り坂を降りていた。

 リロの赤鎧が、動きを止める。


「そろそろだ。見えるか?バゼリの。」


 リロが指を差した先には、ある女神像があった。

 それはどこか、神聖に感じられる光を放っていた。


6.最果て-中央部-昇華の間


 女神像の周囲は、なめらかな石で作られた神殿のような場所であった。


 近づくと人影が五人。

 男2人、女2人、ロボ1人のグループだ。

 女神像をやたらめったら殴っている。


───やめろお前らーーーッ!!


 俺は女神像の破壊をやめさせようと声をかける、が…。


「───やはり、追手がいましたか。」


 弓使いの女がこちらに狙いをつけた。

 弦が"きりり"と引き絞られる。


(やべー!殺される!間違った!)


 俺はこの段階でとんでもない過ちを犯したと感じた。


「まぁまて、なぜ女神像を破壊しようとするのだ?事情によっては、私達も貴公らに協力しよう。」


 だが、リロが弓使いを制止した。

 明らかにただものではないリロを見て、弓使いの女は武器を下げる。


「…仕掛ける気がないなら、話します。」

「いいですか?ボス。」


「もちろんだ。話をしてきな。」


 ボスらしきデカいロボの許可をもらってこちらに近づく弓使い。


「では、簡潔に説明します。我々は《壊し屋》と呼ばれるグループで、今回は依頼を受けてこちらの女神像を破壊しにきました。以上です。」


 簡潔な説明だった。

 だが、アーサーは情報量が足らないなと感じた。


「弓使い殿。」


「アクリナです。」


「アクリナ殿、依頼主は答えなくても良いが、女神像を壊せる目処はあるのか?」


 リロが弓使い…アクリナへと質問する。


「今のところは…。このオブジェクトには、耐久値が存在しませんので、破壊のしようがありません。」


 耐久値とは、プレイヤー含め、この世界のすべての物質に設定されている値だ。

 この値が一定を下回るとオブジェクトが破壊されたり、四肢が切断されたりする。


「我々はランクアップをしにきたのだ。それは許してもらえるか?女神像破壊の邪魔はする気はない。」


「…どうぞ。破壊以外の事は承っておりませんので。」


 リロは交渉の末、ランクアップの許可を得た。


「バゼリの。事後承諾になって悪いが、破壊作業の中止は諦めてもらうぞ。」


───おれがランクアップできるなら別にいいです。


「…顔色ひとつ変えず言うのだな。まぁ、私も同意するが。」


 俺たちは女神像の前まで歩いていく。

 壊し屋のメンバーは隅に固まって休憩を取っていた。


 俺は正直言うと、急展開の連続で少し感受性が麻痺していたが、【ナイト】のランクアップについては興奮を覚えていた。


 【ナイト】のランクアップってなんだろうな、【パラディン】とかか?


 いわゆる盾持ちジョブの上級職なら、少しは騎士っぽいロールができるスキルアビリティが手に入るはずだ。


 できれば敵の攻撃を盾で受け止めながら味方に『───無事か?』とか言ってみたいなぁ。


《 ランクアップしますか? 》


 おおっ!きたきたきた!


《 はい/いいえ 》


 コマンドウィンドウが目の前に出てくる。

 もちろんだが、はいを押す。


《条件を満たしましたので、ランクアップを行います。》


 こっ、これは!

 俺の身体が青い炎に包まれた!

 これがランクアップの演出なのか!


「───貴公、燃えているが、大丈夫か?」


───え?これ、普通じゃないの?


 リロを見てみると、燃えていなかった。

 むしろ燃えている俺が変質者だ。


「普通ではないな。何か心当たりはあるか?」


 俺はステータスウィンドウを見てみた。


 アーサー 男性 種族:魔神王

 レベル61

 職業:【ナイト】

 体力値(HP) 449/568

 魔力値(MP) 34/121

 筋力値 125

 耐久値 300

 敏捷値 100

 技能系スキル:【魔法剣】【剣術】

 肉体系スキル:【体力増強】【筋力増強】

 称号スキル:【極光】 【辿り着きし者】 【壁殴り】


 …ん?

 種族:魔神王?

 あー、そういえば、ザスターがなんか言ってたような…。


『実験の結果、君は魂とコアが融合し、新しい生命体になったんだ。【魔神王】だよ。まだ原種に比べれば貧弱極まるが…粒子生産を通常のプレイヤーより能動的に行える種族だ。』


 たしか、要約すると種族が追加されたってことだったな。

 でも、それと【魔神王】になんの関係が…?


《 ランクアップ:【魔神王】→【不滅の魔神王(ディ・イモータル)】 》


───オイィィッなんで【魔神王】の方がランクアップしてるんだよォォォォッ!!!


(おれは【ナイト】の上級職が欲しかったのにいいいいいい!!)


「えっ、【魔神王】ってなに。」


 壊し屋の一人の茶髪男が呟いた。


「知らないな。トリト。何か分かるか?」


「部外者がいるので話せません。」


 黒髪の女に聞かれた壊し屋の青年は、リロの方を見る。


「ふむ、知ってはならぬことのようだな。」


《 ランクアップ中…ランクアップ中…。 》


《 おめでとうございます。ランクアップが終了しました。 》


 それきり、アナウンスは終わった…。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


不滅の魔神王(ディ・イモータル)】…【魔神王】の上位種族。プレイヤーを10万人殺害するとランクアップする。種族・職業により、頭につく語と、覚えるスキルアビリティが異なる。(例:【蛮族】の場合、【狂乱の魔神王(ディ・オルランドゥ)

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