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第12話 幸運の前借り

1.人界魔界間ゲート


 タイトとの死闘を終えて、俺は人界魔界間ゲートを訪れていた。

 何故か?それは装備を新調するためだ。

 哀れなことに、タイトの刀は俺の片手剣をベコベコにしたのだ。


 既に片手剣は鞘に収めることもままならず、これでは広告部隊で新兵器を手に入れる前に死んでしまうだろう。

 それに加えて、実は、軍内では武器は貸出制なのだ。(当たり前だが)

 いずれ返すことになる武器に全面の信頼を預けるなんて不可能である。


「はーい、処理が完了しました!快適な人界の旅をお楽しみくださいませ〜。」


───ども。


 魔族に見送られ、俺は生まれ故郷の人界へと戻るのであった。


2.バゼリ王国-穀倉地帯


 どうやら、俺が初めてブーンと会った所に転移させられたらしい。

 翼を使って街中へと移動する。


3.バゼリ王国-街内


 俺はバゼリ王国へと戻ってきた。

 もちろんだが、翼は鎧の中にしまっている。

 実はこの蝙蝠羽、アークデーモンであるブーンのモノで、そのこともあってか変形性も高いのだ。

 すっごく柔らかい。ヨガとかできるくらいに。


───まずは…。


 俺は知り合いであるラマンダを探してみることにした。


(お、ログインしてるっぽいな。フレンドリストのチャットを使って…。)


 アーサー>今会いませんか(5分前)

 ラマンダ>いいぞ、今どこだ?(3分前)

 アーサー>バゼリ王国の街です。(2分前)

 ラマンダ>曖昧だな…。(2分前)

 アーサー>初めて会った所ですあそこ(1分前)

 ラマンダ>おk(30秒前)


 2分くらい待ってると、ラマンダが俺を見つけた。


「おーい!こっちだ!こっち!」


 俺はラマンダについて行った。


4.バゼリ王国-教会


「久しぶりだな、アーサー。」


───お久しぶりです。


 ラマンダはあまり変わりなかった。

 俺は改造されたけど。


───じつは、聞いてほしいことがあって…。


「いいぞ。」


 俺は、今まであったことを一通り話した。

 人魔混合兵のこと、片手剣のこと、改造されたこと…。

 ラマンダは少し目が遠くなっていた。


「守秘義務とかって無いの?」


───無いんです。バレる事前提です。


 罰則とか規定とか特に無かったし。


「そっかぁ…。」


 ラマンダは得難い情報を簡単に得てしまったようだ。俺のせいで。


「まぁいいや。片手剣だよな?情報代だ、サービスしてやるよ。」


───奢りすか?


「おう、もちろん。…あーでも。」


───?


「ちょっと身体検査させてくれないか、研究者が知り合いにいるんだ。」


───そんな事、訳無いです。もちろん承りますよ!


「助かる。ただ…覚悟しておいてくれよ。」


5.ザマル合衆国-バザー


 俺はラマンダによって、バゼリから遠く離れたザマル合衆国まで連れて来られた。

 なんでも、【テレポートストーン】とかいうのを使うと周囲の環境が戦闘状態とかでは無い限り、安定的に長距離に移動できるようだ。


「ここに俺の知り合いがいるんだ。ちょっと待っててくれ。」


 ラマンダはザマル合衆国の街中にある、大きな建物の中に入っていった。


───しかし、ザマルってのはすげーデカいところだな〜。ニューヨークな感じがする。


 想像するなら、1900年代のニューヨークだろうか。

 でかい建物が間隔を開けて立ち並んでいる。


───とんでもねぇなぁ〜。


「おーい君、ザマルは初めて〜?」


 田舎者を演出していたら、黒髪の少女が話しかけてきた。


「お土産屋だよっ!お役立ち商品、いっぱいあるよ〜!」


 短パンとジャケットを着た、髪型をショートにした女の子だ。


───見てこうかな。


 この時俺は、彼女の美貌に惹かれた蛾のようであった。

 冷やかしが通じる相手では無いと、初めに感じ取っておけば良かったのだ───。


6.ザマル合衆国-路地


「こっちこっち、はい、この店舗でーす。」


 ラマンダが入って行った建物より、ちょっと右側にある路上店舗だ。

 あまり建物から離れなかったので、少し安堵した。

 ここならラマンダも俺をすぐ見つけられるはずだ。


 …商品を見れば、全て値段が高いものだった。


(俺、金持ってたっけなー…。)


 …残高を確認してみると、あんまり無い。

 いや、その、実はブーンとの修行の際に戦った魔物を換金していたので、少しはあるのだが。


 サラの顔を見れば、みるからに疑ってますよという鋭い目つきを俺に向けていた。残高を確認してる時に不安そうな顔をしていたのがいけなかったのだろうか。どうしよう。笑顔だけどめちゃくちゃ怖い。


 …まけてくれないかな〜。


───お願いがあるんだが。


「…どーしました?お兄さん。」


───少し値段をまけてくれないか。

───金は…これだけあるんだが、少し足りなくてな。


 俺は店の中で一番安い商品(30000円)を指差して、金貨袋を懐から取り出した。

 それは、黒いグリップのようなもので、見方によっては懐中電灯にも見えるものだった。


 金貨袋には取り出した金の量に応じ、ラベルが表示されるようになっているため、相手からはこの金貨袋の中に26582円(俺の全財産)分が入ってるとわかるだろう。


「へー、古びた剣の柄…ね。」

「…。4000円分足りないのか。いいよ。でも名前書いてね。」


 俺は少女から渡された紙に名前を書かされた。

 アーサーと書くと、ステータスとか色々追加で表示される。


 なるほど、この紙、署名をすると同意したと見做されてステータスが全部筒抜けになるやつだな。

 当然、俺が魔物との混合物であるのもバレることになった。

 サラは思わぬ情報に衝撃を受けたようだった。


「───…うーん。これ、ちょっと予想外。間抜けだね〜、キミ。」


───面目ない。


「謝られても困るんだよ。まさかね…魔族軍にザスターが裏で関わってたなんて思わないよ。今はナイトケがパトロンについてるって聞いてたけど、魔族に浮気したのかなぁ。」


 今、ナイトケとかザマルとか言ってわかりにくいと思うので、色々補足する。


 ビクトリアは4つの大国で構成されていて、バゼリ(日本サーバー)、ジオマ(ロシア・ヨーロッパサーバー)、ナイトケ(中国サーバー)、ザマル(アメリカサーバー)で内訳されている。

 それぞれのサーバー毎で色々個性があるらしい。


「キミ、【組織】に入った方がいいよ。いずれ狙われるから、身内になっといた方が襲われないで済む。」

「…いや、もうボクが手続きしておくから、入っておいてよ。それでお金はチャラってことにしてあげる。」


 俺はなんかまた名前を紙に書かされた。

 すると、紙に書かれた魔法陣から端末が出現する。

 少女が言うには、その端末へと定期的に上納金を送らなければ、俺は殺されてしまうらしい。


(なんか、とんでもないことになっちゃったぞ。)


───急展開すぎないか?


「キミのせいじゃないか。」


───そうなんだ…。


 【組織】とやらについての説明も、少女から受けることになった。


「【組織】ってのは、端的に言うと【ビクトリア】の情報とかを独占する組合だよ。称号スキルの解放条件とか、特殊なNPCとか、一部のイベント発生条件とかを独占してるんだ。」


「【ビクトリア】だけじゃなくて現実でも動いてて、ネットとかに情報が上がると数秒も経たないうちに削除しちゃうんだって。」


───へー。


「でもキミは【組織】の一員になったから、そう言う情報もお金さえ払えば手に入れられるのさ。よかったね。」


───それ、上納金とは別?


「別だよ。」


───がめついな。


「当たり前じゃん。情報一つ得るためにネットに張り付いてる人だっているんだよ。むしろ幸運なんだって。」


───そうなのか…。


 色々、【組織】について語ってもらったので、そろそろ商品をもらってラマンダのところに戻ろうと、アーサーは思った。


───じゃ、これはもらってく。君の名前は?


「サラ。フレンド申請してくから、受け取ってよね。キミ、結構やばい代物だから長い付き合いになると思うよ。」


───了解した。その時は頼む。


「次はお金払ってよね?アーサー。」


───…貯めておく。


7.ザマル合衆国-バザー


「おっ、アーサー。ちょうどいい。来てくれないか?」


 サラの店からすごすごと逃げ帰ると、ラマンダが建物の前で出迎えた。


「なんとか話を聞いてもらってな、最新品を融通してもらうことになった。」


───最新品を?そんなにやばい情報なのか?おれ。


(全然市販の片手剣でよかったんだけど。)


 そんなことを思った時には、時すでに遅し。

 せめて、バゼリからザマルに移動する時に気付ければ良かったのだが…。


「やばいんだよ。まぁいいや、とりあえず行こう。」


 俺はラマンダに連れられて、13階建ての建物の中へと入って行った。


8.ザマル合衆国-【塔】


「ここは【ダトム】ってやつが社長をやってるグループの建物でな、魔力技術の最先端なんだ。」


 ラマンダの紹介を受けながら、階段を登る。


「ほら、あいつがダトムだ。おーい!連れてきたぞ〜!」


 階段を登ってすぐの部屋の中には、165cmくらいの金髪の少年が腕を組んで待ち構えていた。


「遅えんだよ!馬鹿野郎!こっちはただでさえでけープロジェクトの管理しなきゃなんねーのによ!」


「ははは、すまんすまん。代理は誰に任せたんだ?」


「部外者がいんのに話せるわけねーだろ!常識的に考えろや!」


「そりゃそうだな。うっかりしていた。」


───えーと、ダトム…さんですか?おれ、アーサーって言います。


 俺はすかさず頭を下げて挨拶をした。


「こいつ、頭を下げたってこたぁ日本人だな?ラマンダ、バゼリにこの技術をやりたくねぇんだけど。」


「解析されるようなもんなのか?それ。」


「されねーけどさぁ…。すげー技術だから、大事にしてぇんだよ。」


 ふーむ。

 ラマンダとダトムって野郎は仲がいいみたいだな。

 どんどん身内の話題で盛り上がっていってる…。


(気まずいやつだこれ。)


 俺が無言でいると、ダトムが俺に向け、話し出した。


「あーごめん。ラマンダがうっせぇからよぉ。ついな、許してくれや。で、えーと?あれか?片手剣…だよな?」


 アーサーは生唾を飲み込んだ。


「実は最新の技術のテストケース兼、商品化に向けてのプロトタイプとしてな、一つ用意がある。これだ。」


───おおっと!?


 ダトムは無造作に鞘がついた剣を俺に投げつけた。


 俺の腕くらいはありそうな剣だが、あまりこれといった仕掛けは感じられない。


「そいつぁ名付けて、自在剣よ!鞘から外して、魔力を通してみろ。」


───おっす。…お?お!おぉぉ!?


 【魔法剣】スキルの容量で、剣に魔力を流し込むと…剣の刀身が巨大化していく…!


 かなり重くなって、持ってられないくらい巨大化した…!


「3mくらいか?試験運用じゃあ2mが限度だったんだがなぁ。」


「アーサーは【魔法剣】スキル持ちだ。そう言うこともあるんだろ。」


「ほー。面白いデータだな。後で調べさせておこう。」


───んぎぎ…!これ、どうやって戻すんですかぁ…!?


「あ、悪い。えーと…魔力を流し込むのをやめると、戻るらしい。」


 剣から手を離して魔力を止めると、どんどん剣は小さくなっていく…。


───伸縮自在…ですね、これ。


「特殊な素材でな、魔力を通すと伸縮するんだ。当然、魔力伝導性も高い。そのうち、この素材の武器をよく見かけることになるだろうよ。」


「…耐久性とか、どうなんだ?」


「折られたりしても伸縮できるから、大丈夫だ!」


「やれやれ、戦いやってる最中に剣折られちまったら、そのままお陀仏だろ?」


「屁理屈ごねやがって…!」


「レベル差があると武器が折られちまうのが当たり前なんだよ。もうちょっと考えてみろ?」


 あーだこーだと口論は続く。

 俺は最早いらない子なので、色々この片手剣で試してみることにした。


(ふむ、魔法剣…【魔法剣:光撃】を試してみるか。)


 【魔法剣:光撃】…悪魔系へのダメージが上がる。


(セット!)


 片手剣に魔力を込めてみると、刀身が光り輝いて巨大化する。

 ほー、これ、騎士ロールする時にうってつけだな。

 聖騎士アーサー!なんてな…。


《条件を満たしたので、称号スキルが付与されます。》


 へ?


《取得称号スキル:【極光】》


《【極光】…自身の、光属性の魔力で出来た武器を持った証。魔力操作に補正がかかり、光属性のスキルアビリティのダメージが1.2倍される。》


 この片手剣は俺の魔力を吸って巨大化する。

 つまり、俺の魔力で出来た武器と、部分的に言えるわけだ。


(…すっげーラッキー…。)


 偶然か、はたまた、必然か…。

 またしても、思わぬところでパワーアップしたアーサーであった。

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