第9話 旅立ちと、試練
人魔混合兵は基本、素体となる人族プレイヤーを連れてきた魔物プレイヤーが監督することになる。
アーサーの場合、監督者はブーンとなる。
1.人魔混合兵修練場
…円形の壁に囲まれた、闘技場のような空間。
アーサーと、ライオンのような魔獣が剣呑な雰囲気の中、対峙する。
(……【剛撃】、オン。)
【剛撃】…攻撃の際、筋力値が1.5倍される。
《【剛撃】がセットされました。》
[g r r r r r r r r…]
魔獣の唸り声は人に恐怖を植え付ける。
汗が頬を伝った。
ゆっくりと、魔獣は舌舐めずりしてアーサーの周囲をまわる。
………静寂。
剣を、強く握る。
ごくり、と、息を呑めば───
[g u o o o o o o o o o o o ! ! !]
大地を揺らしながら魔獣が突進してくる!
時に、四足獣は基本低姿勢ではあるが、どんな生き物でも、突進を当てて転倒させさえすれば牙を届かせることができる。
唯一、この結末を避けれるのは地に足をつけぬ鳥のようなもの。
アーサーはその考えに倣い、羽を使って後退を兼ねて飛翔───獣は梯子を外されて壁へぶつかる。
その隙を見逃さず、背に剣で斬りつける。
───うらぁぁぁぁぁ!!!
肉をかき分ける嫌な感触を無視して、必死に命を裂く。
[g a a a a a a a a a a a ! ? ! ?]
獣はけたたましい断末魔を残し───粒子と化した。
此処である程度暮らしてみた結果、ある程度、魔界の事が分かってきた。
魔界は人界に攻められていて、魔物プレイヤー達は戦況を打開するために策を模索している。
だから、俺のように、人族の新規プレイヤーを拉致して自分側の戦力にしてしまおうという計画、【人魔混合兵】計画が進められたらしい。
「ふむ、アーサー。そろそろ君もレベルが上がってきたようだな。」
ブーンが俺に近づいてくる。
そうだ、実は俺は数日、ここで修行していたのだ。
至ったレベルは45、相当なものになってきている。
スキルアビリティは、こんな感じ。
【魔法弾】…魔族が持てるアビリティ、属性が乗った魔力の弾を出せる。
【魔法剣:光撃】…剣が光る。悪魔族に効く。
【かばう】…かばえる。
【殿の心得】…一人でいると、防御力が上がる。
【ヘイトブレード】…敵の魔物の気を引く。
他にもあるが、ほぼ使わないので省略だ。
【周囲断絶】とかはバリアを貼る技なんだが、魔力ステータス依存の防御となっていて、【ナイト】のステータスと相性が悪い。
「アーサー。君もそろそろ、スキルアビリティがかなり充実してきただろうから、次のステップに入ろう。」
───次のステップ?
「アビリティコネクトだ。危ないから、脇に避けて。」
どうやら、ブーンは実演して威力を見せる気らしい。
「これは、1戦闘に1回しか使えないシステムでね。本来は一つしかセットできない、スキルアビリティ、人族は確か…職業アビリティだったか?…それらの中から2つ選択し、合成する。」
「私の場合は、【魔法:大爆裂】と、【魔法:豪炎】だな。」
ブーンの手の中に、恒星を思わせる程の眩い光が現れる。
「───【大魔法:爆烈焔】。」
空中に放り投げられた光は、脈動し、拡散。
花火を思わせる勢いで大きく爆発した。
(音が一瞬、消えるほどの、とんでもない衝撃だ…!)
軋む、軋む、軋む。
地が、空が、身体が。
とても破壊的な一撃だった。
破壊の標的にされた修練場は、粉々に破壊されてしまった。
「───わかったかい?アビリティコネクトの強さ。」
とんでもない補正がかかっている、とブーンは語った。
───いや…すごいっす…。めっちゃ…。
俺はというと、少し迫力に気圧されてしまったみたいで、あまり大した返事ができなかった。
「アーサー君は、この技術とかを駆使して、そろそろ任務に出てほしい。」
───えっ、任務?俺がすか?
「もう強さは十分だとも。私にだって一太刀入れられる程はあるはずさ。君は【ナイト】だと言っても、侮れないくらいの実力だよ。」
修行は、終わりか。
(ちょっとだけ、寂しいな…。)
ブーンとマンツーマンで修行していた日々は、今日で終わりなのだ。
「…まぁ、最後だし。私とやっていくか?」
ブーンは妙なことを言い出した。
俺が?ブーンさんと?戦う?
───え?いや、あの。その。
「いや、やろうか。なに、卒業試験さ。そう思いたまえ。」
ブーンは俺から離れ、構えをとった。
「初めに君と私が会ったときよりかは、戦えるとも。自分を信じろ。アーサー君。」
…。
そうだよな。
俺、強くなったんだ。
だったら、それを───証明しないと。
───いきます。
「きなさい。」
フォークの様な槍を構えるブーン。
あちらから仕掛ける気はないようだ。
さて、身長280cmに対し、どうしかけるか…。
(よし、───【剛撃】。)
【剛撃】をセット、剣を上段に構えて斬りかかる。
また俺は強く、剣に魔力を纏わせるイメージを行う。これによって【魔法剣】のスキルの効力を少しでも高める腹づもりだ。
「甘いな。」
ブーンは簡単に槍にて防ぐ。
暫しの拮抗───俺が押し負ける。
地面へと倒れ込もうとする身体。
レベルの差だろう。今の俺の筋力では勝てないのだ。
体格の差もちょっと厳しい。
(───【魔法弾】。)
左手を剣から離して、ブーンの顔面へと炎属性の魔力の弾を飛ばす。
炎属性の魔法弾をブーンは槍を動かして防ぐが、それは───隙だ。
(アビリティコネクト。)
背中が地面に着くまでの刹那に、剣を振る。
(【剛撃】×【衝撃波】。)
スキルアビリティ:【衝撃波】…前方にダメージを与える衝撃波を放つ。
スキルアビリティ:【剛撃】…攻撃の際、筋力値が1.5倍される。
「【撃滅衝波】───!」
倒れかけながら左足を軸足とし、強引に回転することによって、回転切りを放つアーサー。
(ぐぬううううううう!!!!)
もちろん、体幹に非常に負荷がかかっている。
その分得られるリターンは大きい。
アビリティコネクトによって補正を受けた、筋力値依存の強大な一撃が、ブーンへと迫る。
光り輝く白刃の衝撃波は空間を切って進み、あらゆる鎧を断つだろう。
なので、避ける。
「【テレポート】。」
アーサーは見た。
地面に展開されていた術式を。
眩く光る魔法陣を。
「勝負を逸り過ぎたな。」
アーサーの背後からブーンの慰めが聞こえる。
だが。
まだ。
斬撃は、終わってない。
───いえ、これで終わりです。
これは、左足を軸とした"回転切り"である。
すなわち、アーサーの全方位に向け、【撃滅衝波】は飛んでいく。
【衝撃波】の性質を受け継いだために。
背後に回ったとしても、避けることはできないのだ。
「───。」
すらりと、攻撃を防がんとする槍ごと悪魔は両断された。
アーサーの剣は、悪魔の胴を切り裂いたのだ。
「うまいな。」
───ブーンさん。
「…アーサー君、君はいいプレイヤーになれる。」
「センスがあるよ。約束する。」
───……。
【テレポート】は準備期間が長ければ長いほど長距離に移動できる。
その性質があったが故の勝利であった。
「もう、行きなさい。」
「これを。」
ブーンは腰の袋から石を取り出し、アーサーへと渡した。
「使い切りの転移石だ。魔族軍の本部に繋がっている…。話は通しておいたから、すぐ任務につけるだろう。」
───先生…。
「はは、らしくないな。私が先生とは。」
「…幸運を。」
…ブーンはそう言い残し、粒子と化して消えた。
───勝った…のか…。
立っていたのは、アーサーだけだった。




