第八話 街に着いた ②
衛兵が戻ってくる間、暇だったので俺は魔術の練習をした。
今回作るのは足湯だ。この街は寒い、だからこそ足湯が良い。
まずはお湯が漏れないように、土属性魔術・第二階位の【ロック】で周りを囲んだ。
魔術は成功。ちょっと魔法陣を忘れかけていたが、思い出せてよかった。
次に水属性魔術・第一階位の【ウォーター】で水を張り、火属性魔術・第一階位の【ファイヤー】で一気に沸かす。
完成!! 俺特性の足湯が出来た。湯加減も丁度いい。
先程使った魔術は初歩中の初歩の魔術。俺はよく高位の魔術を使っていたので、殆ど使わなかった。
故に魔法陣を忘れかけていた。だけど、初めの方で確認できてよかった。
「やっぱり足湯は気持ちいいね」
日向子も満足しているようで良かった。
しばらく温まっていたら、日向子が話しかけてきた。
「ねぇ海くん。私にも魔術を教えてよ」
「まぁいいけど」
「やったぁ!」
ついでに日向子にも魔術を教えた。と言っても、魔法陣を覚えてもらうだけなんだけどね。
・ ・ ・
しばらくしたら、足音が近づいてきた。
ようやく来たようだ。それなりに時間が経っていた。
「な、なんじゃこりゃ!!」
「な、何をしている!?」
年いったおっちゃんが叫び、先程の衛兵は驚いていた。
なにも驚くことはないだろう。ただの足湯なんだから。
「えっと、誰ですか」
二人共固まっていたので、俺が声を掛けた。
おっちゃんの方が先に正常になった。
「あ、あぁ。私はこの街の統治官をしている者だ」
「へー。ん? あれ、あんた、カラ爺か?」
カラ爺。俺はそう呼んでいた。ゲーム内でも邪神討伐に協力してくれた人だ。
「ちょっと君! 私はまだ50代だぞ! まだ爺さんではない!」
「あぁ、すまん。カラさんでいいかな?」
「ぜひ、そう呼んでくれ」
カラ爺と話していたら、日向子が小さい声で話しかけてきた。
「海くんすごいね。あの人、モブ的存在だったけどよく覚えていたね。やっぱりオタク……」
「オタクじゃない!」
日向子は事あるごとにオタクというようになった。
俺は何度でも言うぞ。俺はオタクではない!
「ごほん。えーと、早速聞きたいことがあるのだがよろしいかな」
「はい。なんなりと」
「ではまず、君たちは何故【暗黒領域】方面から来た」
そこからくるのか。もちろん、俺は言い訳を考えていた。
「気付いたらこの街の近くまで来ていた。ようは記憶がないんだ」
秘技・記憶損失戦法。都合が悪くなったら、これで通用する……はず。
さぁ、どうだ。通じるか。
「なるほど、わかった。では次だ。この辺り周辺は魔物が多い。当然、襲われたはずだ。では、どうやって回避した」
ここは、ありのままのことを言えば良さそうだ。物証もあるし。
「普通に倒したぞ。ほれ、これがその魔物だ」
俺はアイテムボックスから【フレアウルフ】の死骸を出した。
さぁ、これはどうだ?
「フレアウルフじゃないか! しかも丸焦げ」
今度は衛兵が反応した。たしかに、こいつは地味に強いからな。
「なるほど、実力があるのは分かった。では最後だ。君たちは人間か?」
何を言っているんだ、このおっさんは。
一体、何を警戒してるんだ?
「人間だ」
「……そうか。もうわかった。釈放しよう」
衛兵さんが牢屋の鍵を外してくれた。ようやく外に出れる。
「ありがとうございます」
代表して、日向子が感謝の言葉を言った。
今まで喋ってなかった日向子がようやく喋った。緊張していたのか? 日向子らしくない。
それでも助かった。陰湿な俺は感謝を告げることが苦手だからな。
「ちょっと待ってくれ。最後に君たちの名前はなんだ?」
「カイバです」
「ヒナコです」
「カイバ、ヒナコ。ようこそ、パルティアへ」
俺たちはようやく、街に入ることが出来た。