第七話 街に着いた ①
この世界に来て、初めて魔物を倒した。
やはりゲームと違って、血の匂いが漂う。この匂いに慣れるには少し時間が必要みたいだ。
俺は【フレアウルフ】の死骸をアイテムボックスに仕舞った。
さらに歩き続けて一時間、魔物が出てくる気配はなかった。
俺は内心ホッとした。日向子は相変わらず、俺の腕に掴まっている。
そろそろ街につく頃、少し落ち着いた日向子が話しかけた。
「さっきの戦闘、凄かったよ。さすがはオタク君ね」
「だから俺はオタクじゃないって」
「オタクだよ。だってさっきの魔術、どうやって放ったか覚えてる?」
そりゃ覚えてるとも。頭の中で魔術の魔法陣を浮かべるだけの簡単なことだ。
そのことを日向子に話した。この発想は誰でも思いつくだろう。
これで、俺のオタク疑惑ははれるだろう。
「やっぱりオタクだよ」
「だから俺は……」
「だって、このゲームのエリア名覚えるだけで一苦労なのに、魔術の魔法陣の形と名前を覚えてるなんて、オタクじゃないとできない芸当だよ」
俺は反論できなかった、日向子の言葉は、全くの正論だからだ。
だが、俺は自分のことをオタクだと認めない、認めたくない。ここで『うん』と頷くわけにはいかない。
こうなったら……
「さぁ! さっさと街に行こう!」
「あ! 海くん逃げたね。絶対にオタクと認めさせるんだから!」
俺は小走りで歩き、日向子はその後を追いかけた。
・ ・ ・
「ここが数少ない第七エリアの街、パルティアか」
「おっきいね〜」
ようやく、パルティアの街に着いた。
目の前には高さ10mほどある外壁がそびえ立っており、そのど真ん中に門があった。
早速、街に入ろうか。
・ ・ ・
「ねぇ海くん。なんで私たちはここで閉じ込められているの?」
「俺に聞かないでくれ」
門番の人に話しかけて入ろうとしたら、なぜか地下牢に入れられた。俺たちが何をしたというのだ。
衛兵と思われる男性から、ちょっとそこで大人しく待ってろ、と言われた。
という訳で、大人しく待っているのだが、中々戻ってこない。
「暇だから、ちょっと遊ぶか」
「遊ぶ? なにを?」
「そうだな。魔術の練習もしたいし、アレでも作ってみようか。ちょうど今、寒いだろ」
「え、うん、そうだけど……」
俺は早速、作業に移った。
ー・ー・ー・ー
唐突だが、私の名前はカラ=パルティアと言う
このパルティアの街を統治している統治官だ。いわば領主とも言う。
今日も、何事も問題なく業務が終えられそうだ。
この書類にサインすれば、今日はもう終わ……。
コンコンコン
扉を叩く音が聞こえた。私は『入りなさい』と言った。
入ってきたのは、この街の衛兵長だった。名前はヘリオスという。
「失礼します、統治官。すこしお話が」
「なんだ、言ってみなさい」
「実は……」
ヘリオスが言ったことを要約すれば、【暗黒領域】の方面から二人組の旅人が来たと。怪しかったから一応、地下牢に閉じ込めていると。
……はぁ!? あり得ない。私はこの街に住む人や冒険者達には、【暗黒領域】の方向には行くなと言っていた。
いたとしても、衛兵に止めるよう言っていた。それなのに来た。
これは、私自ら聞いてみないと落ち着かない。もしかしたら、魔族である可能性がある。
私はすぐさま向かった。
これは一体どうなっている?
地下牢に来てみれば、そこには何故か牢屋の中にお湯が張っていて男女二人組が足をお湯につけていた。
これは一体どーゆー状況なんだ?