第五話 パーティを組んでみた
一夜明けた。
相変わらず【ラベル草原】は平和だ。第八エリアなのに戦っている音など聞こえない。
体を起こし背伸びをする。一生ここにいてもいい、そんな気持ちになる。
日向子はまだ寝ていた。寝癖が気になる。
ちっちゃい時からずっと一緒だったが、まさか寝癖がこれほどとは思わなかった。これはこれで新たな発見と言えるだろう。
早速、朝ごはんでも作ろうか。昨日、日向子が料理スキルを獲得し、その様子を見ていたお陰か、俺も使えるようになった。しかも格段にパワーアップした状態のを。
名前は【究極料理】と言う。俺も知らなかったスキルだ。
【究極料理】はすぐに【超越】に統合された。一応はいつでも使えるらしい。早速使ってみようか。
……すごい。スキルってすごい。
初めて料理するとは思えないほどの手さばき、これはプロすぎる。作っている最中でもいい匂いがする。つまみ食いがしたいと初めて思った。
そろそろ出来上がるころ、いい匂いにつられ日向子が起きた。
幼馴染の起床姿ってそんな感じなんだな。
「おはよう、海くん」
「あぁ、おはよう日向子。とりあえず、着崩したその格好をどうにかしてくれ。手のやり場に困る」
「へぇ?」
日向子は自分の今の格好を見た。胸がもうちょいで見えそうになっていた。
慌てて日向子は背を向いた。
「……み、見えちゃった?」
「……ちょっと胸が大きくなったんじゃないか」
「か、海くんのエッチぃ!!」
料理中の俺をビンタした。か、かなり痛い。幼馴染だからかな?
・ ・ ・
「なぁ。そろそろ機嫌を直してくれて良いんじゃないか」
「フン! この朝ごはん、私が作った時よりも美味しいじゃない。余計に不機嫌になったわ」
こうなった日向子は中々許してくれない。こういう時は……。
「俺は日向子のほうが美味しいと思うよ。長年の経験には勝てないなぁ」
「……そ、そう?」
「ホントだよ。今後は日向子に作って欲しいな」
「……いいわよ! 今後は私が丹精込めて作ってあげるわ!」
幼馴染だからこそ知っている、日向子のおだて方だ。褒めれば褒めるほど伸びるタイプはこうすれば機嫌は直る。
無事に朝ごはんを終えられそうだ。
・ ・ ・
日向子が上機嫌のまま、朝ごはんを終えられた。
早速、街に向かうことにした。
「そんじゃ、街に行こうか」
「うん、そうだね。それと海くん、お願いがあるんだけど」
完璧女子・日向子が俺に頼み事なんて珍しい。
俺が頷くと日向子はちょっと恥ずかしそうに……
「私とパーティ組んでくれない? ほら、私って今はレベル2だから、第八エリアの魔物にサクッとやられちゃうじゃ。だから……」
日向子の言いたいことは分かる。
俺とパーティ組んだら、俺が魔物を倒して、その経験値を分配される。ようはレベル上げがしたいようだ。
たしかにこの世界ではレベル上げは大事になってくる。どんなに武術を極めてもレベルが低ければ、威力がないのと同じだ。
「い、いいぞ。俺も初めてパーティ組むけど、よろしく」
「海くん。もしかして、ずっとソロプレイで?」
「そ、そうだよ! 俺はソロプレイが向いていたからな。決してボッチではない!」
「じゃ、フレンドリストには何人いた?」
【NAW】マルチモード。世界中のプレイヤー達と一緒に冒険したり、好きなことができるゲームモード。
ストーリーモードとの最大の違いは、他プレイヤーと一緒にプレイできるのと、エリア区分の概念が消えるというこの二点。エリア区分は無くなり、大陸名や国名で分けられることになる。
ただ、マルチモードをプレイするにはストーリーモードを一度クリアしなければならない。
だから、マルチモードでもエリア区を呼ぶプレイヤーが大半となった。その方が分かりやすいからだ。
そのマルチモードの機能に、フレンドリストというものがある。
文字通り、他プレイヤーと友達になれる機能で、チャットできたりパーティを組んだりできる。
当然ながら、俺はソロプレイヤーだ。フレンドリストにはゲーム仲間のあの三人しかいない。
しかし、今は何故かそれはリセットされていた。どうなってるのやら。
つまるところ、ボッチということだ。
「……三人はいた。今は消えて、いないけど……」
「その三人って、あのゲームオタクたちのことでしょ?」
「……うん」
「でしょ〜。だから私が仲間になるわ。ほら、同じプレイヤー同士なんだし」
「そうだな。よろしく頼む、日向子」
「うん!!」
この日、久々にフレンドリストが更新された瞬間となった。
ついでに俺は初めてパーティを組んだのだった。