第十話 モブじゃないギルド長
コロナでちょっと寝込んでました。
いたって健康体なので大丈夫です。
次の日。パルティアの街は今日も良い青空。
宿屋で朝食を済ませ、冒険者ギルドに向かった。本当は俺一人で十分かと思っていたけど、日向子も一緒に登録すると言いだした。正直、日向子は冒険者向けじゃないと思うのだが本人は『問題ない』の一点張り。何か策があるのだろう。
ギルドに着き、扉を開けた。人は疎らだが厳つい顔した人たちがこちらを向いた。険しい視線が向き続けているなか、一人の男が立ち上がり俺らの方に来た。
「おいそこのお前。ここは託児所じゃねぇんだよ。良い子はさっさと帰れ」
テンプレ展開きた。まさか身を持って実感するとは思わなかった。
「はいはい、分かった分かった。日向子、行こうか」
「う、うん。そうだね」
おっさんの忠告をサラッと流し、受付カウンターに向かった。もちろん、おっさんは切れた。
「おい、人の話を無視すんじゃねぇぞ!!」
おっさんは大きく腕を振り上げた。大振りなパンチは容易に躱せる。むしろその間に魔術を何十発も打てる。おっさんには悪いが、スキルの試し台になってもらおう。
「【身体強化:パワー二倍+ノックバックレベル5】」
「ブゴォフ!!」
おぉ、なんとなくだがスキルの使い方が分かった気がする。スキルは強く念じれば発動するようだ。
今回は俺の超越スキルの統合リストにあったパワー増強とノックバックを選んだ。このスキルはゲームのとき、近接戦闘のために身につけたものだ。専門職には少々劣るが、それなりには近接でも戦える。
それにしてもやりすぎたかもしれない。おっさんは吹き飛び、扉を破壊して大通りまで飛ばされていた。正直言って、そこまで強く強化したつもりはない。全盛期になったら、パワー100倍+ノックバック・レベル20とか余裕でかけれると思う。それなのにこの威力。
それに、この場所のような高ランク領域に住む冒険者なら、対処できるほどの知能と能力があったはずなのに。やっぱりゲームのときに比べ、弱体化しているのかもな。
「か、海くん。流石にやりすぎだよ。登録初日に問題児にされちゃうよ」
「全くの同感だ。どうすんだ、この状況」
ギルド内が静寂に包まれているなか、二階から傘寿を超えてそうな爺さんがおりてきた。
「ふぉふぉふぉ。何やら楽しそうなことをしておるのう、若造よ」
……見たことある気がする。誰だっけ?
答えはすぐに分かった。ギルドの受付嬢が名前を言ったからだ。
「モルスギルド長!」
「モルス? モルス……あぁ、思い出した」
モルス・モーガン。ストーリーモードで登場するギルド長の一人。
ゲーム内のギルド長はモブキャラ同然だが、このモルスギルド長は数少ない重要人物だ。ようはモブじゃない。
「……ほほう。これはこれは、興味深い若造がおるのぅ」
見てる、おじいさんがめっっっちゃ見てるぅ……。
これはまさか、『お前たち、只者ではないな』的なパターンか。
そもそも、モルスは正体見破れる系の人だったっけ? ストーリー上、ほんの一部しか登場しなかったから分からない。
「そこの若造よ」
「……俺のことか?」
「そうじゃ、お主じゃ」
何言われるか分からないし、想像もできないから逆に緊張する。
「お主、儂と一つ、勝負してみんか?」
「はい?」