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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

隠しすぎた俺は辺境に飛ばされる

作者: 士口 十介

 僕の名前はトゥバン・アルカロイド・ケルダール。こう見えても王国の貴族、それも伯爵様だ。


 何故”こう見えても”と言ったのか?


 それは僕が今いる場所に由来する。僕が今立っている場所は人の進出を拒むような魔境、ケルダール大森林にいるからだ。

 ケルダール大森林は何十mもある巨木が立ち並び、日もまばらにしか射さない程の場所だ。少し遠く離れたところから魔獣の遠吠えや動物の声が聞こえるだけで人の声は全く聞こえてこない。

 僕の今いる場所もジメジメした場所に生えるコケ類が地面を覆いシダ植物が所々に生えている。まさに大辺境!まさに人外魔境!と言われる場所なのだ。


 そんな場所に僕一人。しかしどうしてこうなった?


 ----------


 僕が生まれた時、突然夜空に星が輝きあたりを照らした。おそらく超新星爆発の光だろう。


 何故知っているのか?


 簡単な事だ。僕が異世界転生者だからだ。

 転生前の僕は土木工学の教授昇任で喜び、お祝いの席でしこたま飲んで酔っ払った上、冬の寒い日に公園のベンチでごろ寝して凍死したらしい。

 気が付いたら神の庭園という場所にいた。庭園にいた神様曰く僕の行いはそこそこ良かったらしい。

 神様によると生まれ変わるまでの間は庭園で魂を休め新たな世界に転生するのだそうだ。


 僕は神様に言われたとおりに魂を休め……とはならず、毎夜毎夜のどんちゃん騒ぎをやっていた。

 正に”天国良い所、酒は美味い、ネーチャン(齢X千歳だが)は綺麗”である。

 時々神様に酒をやめろと小言を言われたが気にせずどんちゃん騒ぎを続けていた。


 そんなどんちゃん騒ぎをやり始めて一ヶ月、神様がキレた。


「お前、まだそんな事やってるんか!お前のような奴はいらーん!でてゆけぇぇぇぇー」


 そして僕は神様に蹴飛ばされ気がつくと赤ん坊に転生していた。

 何事も派手にやると駄目なということだ。神様に注意されたのだから隠れてこっそり飲むべきだったのだろう。


 生まれ変わったのは公爵家の三男。しかもイケメンと美女を両親に持つので将来はイケメンになることは間違いなし。公爵とは王家につながる家であり大抵大金持ちだ。

 ”大金持ちでイケメン”僕は人生勝った気分でいたが、自分の能力を見た瞬間に逆転した。

 ”収納”の能力なのだがとんでもない能力だったのだ。


(不味い。この能力が判明すると碌な事にならないぞ。出る杭は打たれる……小説では大抵迫害され、場合によっては死ぬ。これは何とかして隠すほかは無い……)


 隠し通す為に僕は無能を演じることにした。

 元々転生者であるのと転生前は大学の教授(昇任したばかりだが)だったので数学や科学の知識はこの世界の研究者とは比べ物にならないぐらいの差があった。だからやりそうな間違いをすることはお手の物である。東に芝居小屋が立てば言って応援し。西に絵画展があれば言って絵を購入する。日も高いうちから美女を囲っての宴会尽くし。まさに“異世界良いとこ一度はおいで”だ。後は適当に仕事をサボっていれば問題は無いだろう。


 公爵家となれば命を狙われることは多々ある。そんな時でも大怪我しそうな時には能力を使って回避し、”運よく回避できた”とか”その場にいなかった”と言事で難を逃れた。

 その努力の甲斐?あってかも公爵家なのに婚約者もいない無能の三男ということになっていた。


 そんな無能生活の日々の中、僕は父親に呼び出された。

 父親と言っても血縁関係があるというだけで月に数回しか顔を合わせない程度の人間関係だ。

 その父は謁見の間で手には公爵投手の証である錫杖を持ち椅子に座っていた。


「トゥバンよ。お前は領地についてはどう考える?」


 突然父は領地について僕に尋ねた。領地経営についてだろうか?

 現在王国領で行われているのは輪作が行われているが完全なものではない上、灌漑の技術もまだ発展途上である。

 真面目に答えても良いが、僕の回答は兄たちやその支援者に目を付けられるだけで利点はないだろう。

 なら、答えはこうだ。


「領地ですか?領地は兄たちが経営するもので僕には関係ないと思いますが?それより街に面白そうな芝居がやっているそうですよ」


 無能を絵に書いた三男なら合格点を上げても良いのではなかろうか?

 しかし、僕の返事を聞いた父は額に手を当て大きく首を振った。


 ……何か間違えた?


「お前は成人になろうというのに何一つ学んではおらぬ。口を開けば芝居だ、絵画だ……。生まれた時は点に大きな光が輝いていた。これは神の啓示だと我々は大いに期待したが……。どうやらお前は期待はずれだった様だ」


 そう言うと父は手に持つ錫杖を僕に向けた。


「お前にはケルダール伯の爵位を譲ろう。しっかりと励むがよい」


 ”ケルダール”と聞いて僕は真っ青になった。大偏狭であり人外魔境と言うことで子供でも知っている恐ろしい場所なのだ。

 この地方の親は聞き分けのない子供に”悪い子はケルダールに送るよ!”と叱るぐらいの土地なのだ。


「お、お待ち下さい。父上!次は必ず、次は必ず勉学に励みますから」


「その言葉も聞き飽きた」


 しまった。手垢のついたセリフだったか!ならば現在持てる知識を公開して!


「父上!チャンスを!チャンスを下さい!……そうだ!なにか質問してください!たちどころに答えてみせましょう!」


 父はふと首を傾げ、口を開いた。


「ならば問おう。今の領地の農業で改良するべき点は?」


 やった!専門分野だ!その答えは……。


「てへっ」


 し、しまった!ついいつもの癖で愛想笑いを返してしまった!

 恐る恐る父を見るとこめかみに青筋を浮かべていた。


「この戯けがっ!」


「すみせん!すみません!ちゃんと答えますので今しばらく……」


「時間の無駄だ!お前のような奴は要らぬ。でてゆけー。」


 何処かで聞いたことのある様なセリフとともに僕は光につつまれた。

 この時は気が動転していたのでとっさに能力を使うことが出来なかったのが残念だ。能力を使えば父お説得できたかもしれない。


「とは言え。こんな大辺境に飛ばされたのは仕方がない。今は如何に生き残るかだ」


 まずは食料探しとばかりに立ち上がると同じように食料を探しに来た大蜥蜴の魔物と目があってしまった。


 ……


「魔物の右半分の収納を許可する!」


 僕が手を突き出し叫ぶと目の前に現れた魔物の右半分がその場から消える。魔物は何かにつかまったかの様に手足をその場でじたばたするだけで身動きできなくなっている。


「収納!」


 手を返し、指を鳴らすと先ほどまでその場でじたばたしていた大蜥蜴は残った左半分から大量の血を噴出させ絶命する。


「参ったなぁ……急に大蜥蜴が出るからつい半分だけ収納してしまった。この蜥蜴の肉は不味いし血も臭い。さてどうしたものか?」


 この大蜥蜴、好戦的で格上の相手にもとびかかるほどの魔物だ。その上、肉は食べることが出来るという程度で極めて不味い。それもこの蜥蜴の血が非常に臭い為だ。

 一度臭いが付くと一週間は臭いが取れないと言われている。


「……やはり来たか……」


 蜥蜴の血の臭いにつられて大量の魔物がやってきた。大蜥蜴の血はその臭いで魔物を呼ぶことがありとても危険な魔物なのだ。

 そしてここは人外魔境と呼ぶべき大秘境。大量の魔物がやってくるのは必然なのだ。


「まぁ、それでも何とかなるけどね。我ながら自分の能力を恐ろしく感じるよ」


「この宇宙すべての物を収納する!」


 僕が叫ぶと僕の周囲の物はすべて灰色になり完全に停止する。その様子はまるで白黒写真を見ている様だ。

 僕が持つチート能力は収納の能力。その対象に制限はなく範囲も制限はない。

その為、今の様に世界のすべて宇宙全体を収納する事さえ可能なのだ。

 通常、収納の中は時間が止まっているが自分を含めて収納すると不思議なことに僕自身の時間は止まらない。停まった時の中で一人だけ動くことが出来る。

 しかも、この停止した世界に何年いても僕は年を取らない。

 年を取らないと言う事は細胞が老化しない。細胞が老化しないと言う事は何かを記憶することは無い。記憶することが無いと言う事は経験を積むことが出来ない。……はずだが何故か収納の能力の中では経験を積むことが出来る。これもチート能力である為だろう。

 そのおかげで僕はそれなりの腕を持つ騎士たちと互角に戦えるようになるまで自主訓練で鍛え上げることが出来た。(秘密だが……)


「まぁ、今回は魔物を退治すると言うことが主だな……おっと、この豚の魔物は肉がうまい。こいつは要回収だな」


 僕は懐からナイフを取り出すと一匹ずつ魔物にとどめを刺してゆく。すべての魔物にとどめを刺し終えたのなら元に戻す。


「放出!そして再び動き出す!」


 灰色だった景色は色彩豊かな物になり動植物が動き出す。僕の言葉ですべての生き物に生が与えられた様な風景である。


「まぁ大辺境と言われているけど、この能力があればなんとかなるでしょう。いざとなれば走って王都へ帰ればいいし」


 僕はそうつぶやくと今日の寝床を探すのだった。


―――――――――――――――――――――


「父上、トゥバンを追放したのですか?トゥバンは生まれた時に星が輝いた者。目覚ましい活躍を期待していたのでは?」


その日、食事の席でトゥバンを追放した事を後継者である公爵家の長男であるラージャに告げた。


「仕方があるまい。あやつは何故か真面目に物事を成そうとしない。しかし、辺境しかも大辺境ともなれば何かを成すに違いない。」


「ですが何も成さなかったら?」


「その時は出来の悪い者が死ぬだけのことだ。何も問題はない。」


「逆に大成功を収めた場合は?その場合、我がアルカロイド家が”有用な者を見抜けなかった無能の家”と烙印を押されるのでは?」


「大辺境であるケルダール大森林の開発は王国当初から百年続く悲願だ。たかがアルカロイド家の名誉が失墜しようと問題はない。それにトゥバンに出来なければ誰もできぬよ」


そう言ってアルカロイド公爵は盃に口をつけた。


---------------------


 その後、彼のチート能力以上に厄介な内政チートが炸裂し人外魔境が開発されてゆくとはこの時誰も想像さえしていなかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公トゥバン・アルカロイド・ケルダールが、大魔境に捨てられた形でぽつんといるという描写から始まり、冒頭から一気に引き込まれました。 中盤まで、どうしてトゥバンがそんな場所にいるのかという…
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