エレノアバスター
ドナと名乗るピクシーが信用ならない、と気付いたものの、今はまだ別れるわけにはいかなかった。
とにかく俺は情報が欲しい。
生き残るためには、なんだってする。
性悪なのは確かだが、ドナはアビリティー・ドレーンという有益な魔法を教えてくれたのも確かなのだ。
「で、ドナ。ドレーンで得たスキルはどうやって見ればいい?」
「・・・見る?」
「いや、ほら、ステータス魔法とか、そういうの、あるんじゃないのか?」
「・・・ステータス?なにそれ?食べれるの?」
どうやらないらしい。
「俺は、その燃えカス男から、魔力と何かを得たんだろう?」
「そうね。魔力の総量は、さっきよりも増えているわね。あんたには感じ取れないだろうけど、慣れれば、そのうちわかるようになるんじゃない?」
「お、そうか。まあ、なんとなく魔力総量が増えた感じはする」
「あらそう。良かったわね」
「それで、スキルというか、俺は、一体、この男から何を得たんだ?」
「さあ?そういうのは、なんとなく自分でわかるはずなんだけど・・・」
「自分で・・・?」
俺は腕を振ってみる。
うん、よくわからん。
というか、そもそも俺はエレノアの体に慣れていない。
何かが変わった、と言われても、元の方がどんなだったのか、あまり詳しくないんだよな。
けど・・・。そうだな、なんだか腕の動きがいいような気がする。
ひょっとして・・・
俺は男の側に落ちていた剣を拾い上げた。
ずっしりとした重さを感じる。
これが本物の剣の重さか・・・。
振り払う。
ひゅっと空気を切る。
剣が勝手に動いた・・・?
いや、まるでゲームのソードスキルのようだ。意図しただけで剣が動き、鋭い切り込みが起きる。
いや、もちろん、エレノアが剣を動かしている。
傍から見れば、そう見えるだろう。
だが、そのエレノアである俺からすれば、剣の方が勝手に動いて、俺の腕が剣に操られているように感じられたのだ。
「なるほどね」
ドナが頷いた。
「何がなるほどなんだ?まるで剣が勝手に動いてるみたいだが?」
「そう感じるのも無理は無いわね。そもそも鉄製のソードを子供のエレノアが自由に振り回せるわけがないでしょう?魔法の力よ。魔力でソードをコントロールしているの」
魔力で、剣を?
もう一度、振ってみる。
ひゅっと空気を切り裂く。
そうか、そういう・・・。
一振り一振りに魔力が消費されるのが感じられた。
これで素振りでもしようものなら、数分で魔力切れを起こしかねないな。
俺は、筋力では無く、魔力で剣を振っていたのか。
「これが・・・アビリティー・ドレーンで得た力・・・」
「そうね。その男から得た力は、魔力でソードを操る力みたいね。まあ、魔力切れしない程度に試しておきなさい。それから、そのソードは貰っておいた方がいいわね。鞘は・・・ああ、あんたが炭にしたんだったわね」
俺は、死んだ男の方をちらっと見たが、すぐに目を逸らした。
鞘は男と一緒に燃えてしまっていた。使い物はならない。
まあ、鞘のことは、そのうち考えよう。
改めて剣を眺める。
ショートソードとでも言うのだろうか。
刃渡りは50センチくらいか?子供の体になってしまっているので長く重く感じるが、短めの剣だ。
なじみが深いところでいうなら、日本刀の脇差くらいか?
かなり荒っぽい作りで、デザイン性は微塵も感じない。全長70センチ強の鉄の棒を加工して作った、と思われる。
柄の部分も、中身は刀身から続く鉄の板だ。その板を挟むように木の柄がついている。鍔の部分も取り外しは出来ない。
いや、かなり出来の悪い武器だな。
これで私を一刀両断にしたのだから、相当の腕力か、腕がいいのか・・・。
「うわ・・・」
急に体が震えた。
これは・・・恐怖だ。
切り裂かれた感触が、まざまざと蘇ってきた。
この剣は、俺を斬った剣、そのものなのだ。
「く・・・く、ちくしょう・・・」
ドナが不思議そうに眺めてくる。
「なにしてるの?うじむし」
「う、うるせえよ」
俺は剣を握りしめたまま、嫌な汗をかいていた。
ふう・・・。
落ち着け、俺。
落ち着け、エレノア。
言い聞かせるようにして、剣に視線を戻す。
おそらく、まともな鍛冶師が作ったようなものではない。
何か別の物、鉄の棒状の何かを加工した剣のようだ。
盗賊の武器らしいな・・・。
ふ・・・。こんな出来の悪い武器で・・・。
「エレノアバスター・・・。この剣の名前はエレノアバスターだ」
「は?何そのネーミング。センス悪・・・」
「いいんだ。俺は二度と殺されない。そのための自戒だ」
俺は外套から腰ベルトを外した。
それは、丈夫な布製で、充分に幅があった。
エレノアバスターを布で包み、余ったベルトで肩掛けを作った。
これで、背中に剣を背負える。
「さあ、いくか」
誰に言うとも無く、俺は歩き出した。
ドナは何も言わなかった。
近くの街まで行けば、何か手掛かりが得られるはずだ。
エレノアは、このあたりを治める領主の娘だ。
例え、煙たがられる存在であっても、表立って拒否されるようなものでもないはずだ。
街まで辿り着けば、食べ物も手に入るだろう。体を休める場所も手に入るかもしれない。
その後のことは・・・。
その時に考えればいい。
俺は、その時、とことんしぶとく生き残っていこう、と心に決めたのだ。
この世界に、俺は、そしてエレノアは歓迎されていない。
だが、それがどうしたというのだ。
勝手に転生に巻き込まれ、勝手に子供の体に放り込まれ、あっという間に切り殺された。
今日だけで、どんだけのダメージを受けたかわからん。
正直、ぐるっと回って吹っ切れたわ。
俺は、しぶとく生きていく。
歓迎されなくても、それが俺の唯一の目標だ。