表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/18

エレノアバスター

 ドナと名乗るピクシーが信用ならない、と気付いたものの、今はまだ別れるわけにはいかなかった。


 とにかく俺は情報が欲しい。

 生き残るためには、なんだってする。


 性悪なのは確かだが、ドナはアビリティー・ドレーンという有益な魔法を教えてくれたのも確かなのだ。


「で、ドナ。ドレーンで得たスキルはどうやって見ればいい?」

「・・・見る?」

「いや、ほら、ステータス魔法とか、そういうの、あるんじゃないのか?」

「・・・ステータス?なにそれ?食べれるの?」


 どうやらないらしい。


「俺は、その燃えカス男から、魔力と何かを得たんだろう?」

「そうね。魔力の総量は、さっきよりも増えているわね。あんたには感じ取れないだろうけど、慣れれば、そのうちわかるようになるんじゃない?」

「お、そうか。まあ、なんとなく魔力総量が増えた感じはする」

「あらそう。良かったわね」

「それで、スキルというか、俺は、一体、この男から何を得たんだ?」

「さあ?そういうのは、なんとなく自分でわかるはずなんだけど・・・」

「自分で・・・?」


 俺は腕を振ってみる。

 うん、よくわからん。

 というか、そもそも俺はエレノアの体に慣れていない。

 何かが変わった、と言われても、元の方がどんなだったのか、あまり詳しくないんだよな。

 けど・・・。そうだな、なんだか腕の動きがいいような気がする。


 ひょっとして・・・


 俺は男の側に落ちていた剣を拾い上げた。


 ずっしりとした重さを感じる。

 これが本物の剣の重さか・・・。


 振り払う。


 ひゅっと空気を切る。

 剣が勝手に動いた・・・?


 いや、まるでゲームのソードスキルのようだ。意図しただけで剣が動き、鋭い切り込みが起きる。


 いや、もちろん、エレノアが剣を動かしている。

 傍から見れば、そう見えるだろう。


 だが、そのエレノアである俺からすれば、剣の方が勝手に動いて、俺の腕が剣に操られているように感じられたのだ。


「なるほどね」

 ドナが頷いた。

「何がなるほどなんだ?まるで剣が勝手に動いてるみたいだが?」

「そう感じるのも無理は無いわね。そもそも鉄製のソードを子供のエレノアが自由に振り回せるわけがないでしょう?魔法の力よ。魔力でソードをコントロールしているの」


 魔力で、剣を?


 もう一度、振ってみる。


 ひゅっと空気を切り裂く。


 そうか、そういう・・・。


 一振り一振りに魔力が消費されるのが感じられた。

 これで素振りでもしようものなら、数分で魔力切れを起こしかねないな。


 俺は、筋力では無く、魔力で剣を振っていたのか。


「これが・・・アビリティー・ドレーンで得た力・・・」

「そうね。その男から得た力は、魔力でソードを操る力みたいね。まあ、魔力切れしない程度に試しておきなさい。それから、そのソードは貰っておいた方がいいわね。鞘は・・・ああ、あんたが炭にしたんだったわね」

 俺は、死んだ男の方をちらっと見たが、すぐに目を逸らした。

 鞘は男と一緒に燃えてしまっていた。使い物はならない。


 まあ、鞘のことは、そのうち考えよう。


 改めて剣を眺める。


 ショートソードとでも言うのだろうか。

 刃渡りは50センチくらいか?子供の体になってしまっているので長く重く感じるが、短めの剣だ。

 なじみが深いところでいうなら、日本刀の脇差くらいか?

 かなり荒っぽい作りで、デザイン性は微塵も感じない。全長70センチ強の鉄の棒を加工して作った、と思われる。

 柄の部分も、中身は刀身から続く鉄の板だ。その板を挟むように木の柄がついている。鍔の部分も取り外しは出来ない。


 いや、かなり出来の悪い武器だな。


 これで私を一刀両断にしたのだから、相当の腕力か、腕がいいのか・・・。


「うわ・・・」

 急に体が震えた。


 これは・・・恐怖だ。


 切り裂かれた感触が、まざまざと蘇ってきた。


 この剣は、俺を斬った剣、そのものなのだ。


「く・・・く、ちくしょう・・・」

 ドナが不思議そうに眺めてくる。

「なにしてるの?うじむし」

「う、うるせえよ」

 俺は剣を握りしめたまま、嫌な汗をかいていた。


 ふう・・・。


 落ち着け、俺。

 落ち着け、エレノア。


 言い聞かせるようにして、剣に視線を戻す。


 おそらく、まともな鍛冶師が作ったようなものではない。

 何か別の物、鉄の棒状の何かを加工した剣のようだ。


 盗賊の武器らしいな・・・。


 ふ・・・。こんな出来の悪い武器で・・・。


「エレノアバスター・・・。この剣の名前はエレノアバスターだ」

「は?何そのネーミング。センス悪・・・」

「いいんだ。俺は二度と殺されない。そのための自戒だ」


 俺は外套から腰ベルトを外した。

 それは、丈夫な布製で、充分に幅があった。

 エレノアバスターを布で包み、余ったベルトで肩掛けを作った。


 これで、背中に剣を背負える。


「さあ、いくか」


 誰に言うとも無く、俺は歩き出した。

 ドナは何も言わなかった。


 近くの街まで行けば、何か手掛かりが得られるはずだ。

 エレノアは、このあたりを治める領主の娘だ。


 例え、煙たがられる存在であっても、表立って拒否されるようなものでもないはずだ。


 街まで辿り着けば、食べ物も手に入るだろう。体を休める場所も手に入るかもしれない。

 その後のことは・・・。


 その時に考えればいい。


 俺は、その時、とことんしぶとく生き残っていこう、と心に決めたのだ。

 この世界に、俺は、そしてエレノアは歓迎されていない。


 だが、それがどうしたというのだ。


 勝手に転生に巻き込まれ、勝手に子供の体に放り込まれ、あっという間に切り殺された。


 今日だけで、どんだけのダメージを受けたかわからん。

 正直、ぐるっと回って吹っ切れたわ。


 俺は、しぶとく生きていく。

 歓迎されなくても、それが俺の唯一の目標だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] エレノアバスターって命名には笑う、嫌いじゃない、そのセンス。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ