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アビリティー・ドレーン

 黒焦げ死体に跨るのは、心理的に、不可能と思えた。


 思えたのだが・・・。


 俺は、躊躇いも無くそれに跨った。


 理由は一つだ。

 

 もう死にたくない。


 人間の肉が焼けた匂いは、ひどく気分がわるかった。

 けれど、二度も死んだ経験からすれば、我慢できる程度のことだったのだ。


「跨った・・・。これからどうすればいいんだ?能力を・・・吸い取る?」

 ドナを見上げると、その妖精ピクシーは口の端をいやらしげに歪めていた。

「おい?なんかニヤけてないか?」

「え?なんのことかしら?」

 とぼけて答えたが、ドナの口元から笑みは消えなかった。黙っているとドナが独り言のように呟きだした。

「その男、上向きに寝ているのよ。黒焦げでよくわからないけど。その上に座り込む少女・・・貴族の不幸な少女。ああ、なんてフシダラナ・・・」

「おい・・・」

「し、失礼。念じればいいのよ。たぶん、あんたなら出来るわ。その男の魔力を探ってみなさい。触れ合っている部分に集中して。それから、魔力を感じて・・・」

 俺は目を閉じる。

 男の上に跨っているため、触れている部分といえば、太ももと尻の部分だ。


 今気づいたが、下着は付けていなかった。

 何処で失ったのか、いや、最初に生き返った時には既に履いてなかったのか・・・。


 ・・・自分が少女の姿をしている、ということは自覚している。


 だが、その姿であろうが無かろうが、俺にとって一番大事なことは、強くなることだった。自分の命を自分で守れるようにならなければ、命がいくつあっても足りないのだ。


 パンツを履いているかどうかなんて、今はどうでもいい。


 いや、今は尻に意識を集中する。


 ふわっと、尻が熱くなった。何かが、下着を着けていない尻の向こうで熱くなっている。


 ああ、これは魔力だ・・・。


 魔力が熱さとして感じ取れる。これは、この男の中にある魔力。


 ドナが語り出す。


「その熱さは魔力の荒波。死に行く体内から世界へ放出されゆくもの。エレノア、奪いなさい、その魔力を。自分の体の中へ!奪い取りなさい!」


 俺は、強く願う。

 魔力を、奪うのだ、と。


 熱い魔力が、男の体から湧き上がってくる。

 それは、触れている尻に向かって膨れ上がり、流れ込もうとしてくる。


「ああ!な、ぐうぁ・・・」


 思わず声が出てしまった。

 どうやら、俺の意思に関わらず、漏れ出る声はエレノアの体に合わせた悲鳴になるらしい。


「ああ、あああ!」

 だが、これでは喘ぎ声だ・・・。


 魔力は熱さを伴い、まるで尻の穴からエレノアの体へ流れ込もうとしているように感じる。

「ぐ、いっ・・・」

 もう、止めようと思っても止まらない。

 熱さは、痛みとなり始めていた。


 熱さと痛みを伴い、魔力が尻からエレノアの体へと流れ込み始めた。


 まるでそれは、行き先を探すように下半身の中でグルグルと蠢きのたうつ。

「うぐあぁ・・・あぁ」

 勝手に漏れる喘ぎ声。

「ぐあ、うあ、ああ!」

 魔力は荒れ狂うように尻から体の中へ流れ込む。その荒波のような感触は、鋭い痛みを伴う。

 痛さと熱さ、翻弄するように流れ込む魔力に、嗚咽が勝手に声となって溢れた。


 その苦しみは、数分に渡って続いた・・・。



「どんな気分?エレノア?」

 

 ようやく流れ込んだ魔力が落ち着き、静かになった。

 体には虚脱感。

 何か嵐のようなものが通り過ぎて行ったような倦怠感だった。


 目を開けると、ドナが目の前に浮かんでいた。

 金色の鱗粉をまき散らしながら、いやらしい笑みを浮かべて興味津々といった顔で尋ねてくる。

「ひどく・・・嫌な気分だ。とても汚されたような、不快な気分だ」

 ドナは俺の返答を聞いて、ますます笑みを深めた。

「ふふ・・・あは、あはは!」

 ついには笑い出す始末。

「なにがおかしい・・・?」

「ふ、ふふ、ふふ・・・いえ、なんでも。それより、どう、魔力は。その男、魔法は使えなかったようだけど、この世界の生物は多かれ少なかれ、一定の魔力を持っているわ。その男、かなり逞しい魔力を感じたわよ・・・ふ、ふふ・・・」

「ピク・・・いや、ドナ?お前、何か隠していないか?」

「隠す?さてなんのことかしら?私は、何も隠してなんかいないわ。ただ、魔力は穴から吸収しないといけないっていう嘘をついただけ。おかげでいいものを見れたわ」


 ん?


 それは・・・つまり、跨る必要は無かったってことか?

 まるで、この・・・痴態を演じる必要は無かったと・・・。


「けれど、アビリティー・ドレーンは一度行えば、次からも同じ方法を使わないと行使出来なくなるのよ・・・ひ、ふふ、ふふふ!あははは!」

 堪えきれなくなってドナが大笑いをし始めた。


「な、こ、この野郎・・・」


 言い返す気力も無かった。


 このクソピクシーは、俺に嘘をついて、強くなるために必要な行為を、かなり屈辱的な方法に変えてしまった、ということだ。


 本来であれば、そう、例えば両手を添えて、そこからアビリティー・ドレーンをする、そういう絵的にも平和な、例え痛みや熱さを感じたとしても、それは、決して映倫の規制に抵触するような絵面になることは無い、そう言う・・・平和的な・・・。


 なのに・・・。

 俺は、アビリティー・ドレーンをするたびに、尻の穴から魔力吸収しなくてはならない呪いを掛けられたのだ・・・。


「お、お前・・・ひどくないか?まがりにも、この体、エレノアは少女だぞ?年端も行かない、幼女みたいな少女だぞ?それを・・・」

「でも中身は違うでしょう?お似合いだわ。せいぜい凌辱されるがいいわ・・・ふ、ひっ、ふあははは!」


 俺は思った。ドナは、性格がとても悪い。

 とてつもなく、性悪だ。

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