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転生

 濃い森の中。


 続く馬車道。


 日は暮れかかっている。


「はあ、はあ、はあ・・・」


 血まみれの体。


 破れたドレス。


「はあ、はあ、はあ・・・」


 割と少ない体力。


「どうしてこうなった・・・」


 心臓が早鐘を打つ。

 ついさっき、自分の体になったばかりの・・・心臓が。


-----------------------------------


『あなたは死にました。これから転生してもらいます』

 え?まさか・・・これって・・・。


 ついさっきトラックに撥ねられたんだが?


『ですが・・・、手違いがあったようで、あなたはあそこで死ぬはずではありませんでした。用があったのは、あなたが助けた少女の方で・・・。なんで助けようとしたんですか?正直迷惑ですね』

「え?」

 確かに、俺は制服を着た女子中学生を助けようとした。

 自分でもよくわからない。目の前で、気を失って車道に倒れた女の子を、無意識に助けようとして、それで、ついトラックの前に飛び出した。

 ただそれだけだ。

『とはいえ、我々も目的は達していますし、無関係のあなたを見捨てたとあっては、心証が悪い。主に、彼女の』

「彼女って・・・あの女の子のことか?」

『ええ。彼女はあなたのことを気にかけています。自分のせいで死んでしまったのだ、と』

「ああ・・・そうか。助かったのだな、その・・・名前も知らんけど・・・」

『知る必要はありません。それに元々、彼女には死んでもらう必要はありませんでした。彼女は異世界転移をしてもらうため、交通事故を装っただけでしたから。あなたが助けになど入らずとも死んだりしませんでしたし』

「は・・・。そうか・・・俺は無駄なことをしたんだな」

『ええ。まったく無駄なことをしてくれたものです。ですが、彼女の頼みですから、あなたには生き返って貰います。本当は元の体で生き返らせたいのですが、あちらには魔法が無いでしょう?全身を強く打って死亡された体を修復する手段がないのです』

「全身を強く・・・って、うわあ・・・俺の体どうなっちゃったんだ・・・?」

『あなた方の医学ではどうすることも出来ないのが一目でわかる状況です』

「最悪だ・・・」

『なので、適当に生き返って貰います。そのあたりのサラリーマンでいいですよね?年齢と性別は同じくらいがいいですか?生きるのに苦労しない程度に裕福な人間にしておきますから』

「あ、うん・・・ん?え?いきなり大人?赤ん坊とかじゃなくて?」

『なんですか、それ。赤ん坊からやり直したいんですか?それでも構いませんが。ですが、それだとランダムですよ?人として生まれ変わるかどうかも未確定ですが・・・まあそれでも前世の記憶は保持されますが・・・』

「な、いや、人間で、人間じゃなきゃ嫌だ」

『じゃあ適当なサラリーマンで我慢してください。選べますから、そこの窓から適当な人間を選んで貰えますか?』

「え、選ぶって・・・。いや、だって、あの人達だって意識があるっていうか・・・いやサラリーマンって、あいつのこと?知らない人間になるの?いきなり?」

『当り前じゃないですか・・・あなたが体を乗っ取る形になりますけど、まあ、構わないですよ。我々、神にとっては取るに足らぬ事です。じゃあ、あの者などお勧めですよ。地方在住。地主の息子で、近々結婚する予定です。相手は美しい娘ですよ?もちろん性格もよい。いいでしょう?あなた好みの娘と結婚できますよ?』

「な・・・。そ、そんな、他人の幸せを奪うような・・・そんな・・・というか、そいつはどうなるんだ?あの男は、俺が乗っ取ってしまったら・・・」

『・・・どうでもいいでしょう?』

「良くない!良くない!」

 俺は、確かに正義感に溢れた人間じゃなかったと思う。むしろ他人の幸せよりも自分の幸せの方が大切だったと思う。

だが!

さすがに他人の幸せを盗みたいとは思っていない。

というか、さすがにそんな人生は・・・無理だ。精神的に狂いそうな気がする・・・。


「無理だ・・・。誰かと入れ替わるなんて!」

『じゃあ、人間諦めるとか』

「それも無理!」


『・・・ふう。仕方ありませんね。じゃあ、元の世界は諦めましょう。こちらの世界で転生する。それでどうですか?』

「・・・それも誰かの人生の横取りか?」

『嫌ですか?あなたにとっては見知らぬ異世界ですから、そんなに罪悪感は感じないでしょう?』

「いや、感じるから・・・元のやつの人生を奪ったっていう・・・」

『・・・では、死んだばかりの人を探しましょう・・・。それなら奪ったことにはなりませんよね?ただし、性別、年齢、一切希望は通りませんよ?あと、生き返った後のフォローもしませんから。なんとかならなくてすぐに死んでも、責めないで下さいよ?提案はしたんですからね?』

「死んだばかり・・・?」

『こちらの世界には魔法がありますからね。死んで、魂が転生するフェイズに入った状態の亡骸を魔法で生き返らせます。通常、そういう蘇生死体は魂の抜け殻となりますが、そこにあなたの魂を吹き込むのです。なので誰かの人生を奪うことにはなりません。厳密には、死ぬはずだった人間が生き続けるので多少の歪みは発生しますが・・・。まあ、致し方ないでしょう』

「・・・なるほど・・・」

『では・・・ああ、丁度良い死体がありますね。もう面倒なのであれでよいでしょう。魂も未練も無く転生フェイズに入ったようです。もうあの死体は捨てられた廃棄物のようなものです』

「・・・言い方・・・」

『一応、貴族ですから、衣食住は確保できますよ。まあ、街に戻れたらですがね』

「え、おい。状況、状況だけでも教えてくれよ」

『いいでしょう。こちらの手続きをしながら説明しましょう・・・。あれは、盗賊どもに襲われた馬車です。従者を含め何人かが死亡しています。生き残ったものは連れ去られました。まあ売られてしまうのでしょう。死んだ従者の多くは、突然死んだことに異論があるようで死後世界に入るプロセスで揉めています。唯一、あの貴族だけがすんなりと死を受け入れている状態です。体の方は、今、再生プロセスの進行中です。体の物理的ダメージは軽いのですが・・・何故死んだんでしょうね?死ぬほどの損傷ではないのですが・・・ああ、精神的ダメージというやつですか・・・困りましたね、これでは魔法の効果が半年くらいは残留してしまいそうですが・・・』

 どうやら、俺が生き返るのは盗賊に襲われた貴族の一団の中にいるらしい。

 視界がポウっと白く光り、何も見えなくなる。どうやら転生するらしい。

『もう少しで目覚めます。目覚めた後のことは自分でなんとかしてください。手助けは期待しないよう。まあ、最後の恩情で魔力を付与しておきますから。それでなんとかしてください。それと、治癒魔法の効果が残っています。半年くらいは不死効果がありますが、過信はしないように。では、ごきげんよう・・・』


---------------------------------------------------


 そうして俺は転生した。


 盗賊に襲われ、乱暴されたショックで死んだ不幸な少女として・・・。

 血まみれで、引き裂かれたドレスの上から、落ちていた泥だらけの外套を着て。


 街を目指して歩いている。


 くそ。

 なんなんだ、この状況。頭の整理が追い付かねえ・・・。

「くっそぅ・・・。誰か状況を教えろよ!」

 思わず悪態をついた。


「お呼びなりましたぁ?」

「ふぇ?」

 変な声が出た。いや、驚いた。目の前に金色の粉のようなものを纏う小さな女の子が浮かんでいた。

 なにこれ、妖精みたい。

「誰だ?」

「私はドナ。ピクシーのドナですよ?」


 意味が分からずに足を止めた。

「いや、ピクシーって」

「えー?神様から不幸な少女エレノアちゃんにガイドをして来いって言われて来たのにー。要らないなら帰るけど?」

 意味が分かるまでに、ちょっと時間が掛かった。

「つまり・・・チュートリアル?」

「チュー・・・ってなんですか?」

「なんでもない。説明してくれるのなら助かる」

「そう?まあ、3日間だけってことだから我慢してきてやっただけだからね。用が済んだら帰るから。済まなくても3日で帰るけど。なんか、あんた、外見と魂に差が有り過ぎて気持ち悪いっていうか・・・う、吐きそう」


・・・ツンなピクシーだな。露骨に本音で話しやがるけど。


そういうのも嫌いじゃないけど。本音を駄々洩れにするのは、嘘で塗り固められた美辞麗句で話されるより数倍いい。

 

「わかった。とりあえず、ここは何処だ?」

「ここは、神聖アゼリア帝国、南部の街フロンティニャンから北へ10キロ程度の位置。最寄りの人家まであと2キロ」

「お、おう。グー〇ルみたいなやつだな。詳細で助かるけど」

「誰ですか、グ〇グルって。そんな名前のピクシー知りませんけど?まるで犬みたいみたいな名前ですね。不愉快ですわ」

「あ、いや、こっちの話だから、気にしないでくれ。それより、知っていたら教えて欲しいんだが・・・俺は誰だ?」


 重要なことだ。


 なにせ、俺には日本で暮らしていた記憶しかない。

 この体、この少女の記憶は一切引き継いでいないのだ。貴族の娘だとかって言っていたが、どこの誰なのかも知らない。


「モンペリア伯爵家六女、エレノア・ディ・モンペリアですわ」

「エレノア、というのか・・・。かわいそうに、こんな、か細い年端もいかない子供なのに死んでしまうとは」

「そうですか?エレノアの魂は未練も無く転生していきましたよ?」

「そういえば、それ、さっきも聞いた気がするな。なんで未練がない?そんなにひどい人生だったのか?」

「そうですね。エレノアはモンペリア家にとって不要な子供、生まれた時から疎まれて育ちましたわね」


 な・・・。

 なんだそれ。不要な子供って・・・。

 虐待か?ネグレクトか?そういうのって、何処の世界でもあるんだな。


「エレノアの母親は、エレノアを産んですぐに死んでいます」

「・・・。出産は命がけだから・・・か」

 俺はため息をつく。昔の出産は大変だったと聞く。魔法の世界といっても、きっと中世ヨーロッパ程度の医療しかないんだろうな。

「いえ、エレノアは安産でした。母親は里帰りから戻る途中、盗賊に襲われ惨殺されました」

「・・・ひでえな」

 思っていたより、さらに悪い。

「エレノアは侍女のハンナによって守られ、モンペリア家に引き取られました。ハンナは以後もエレノアを守りましたが、エレノアが五歳の時に死亡します。その後、従者のメルヴィンがエレノアを守りますが、先程、盗賊の剣に倒れました。エレノアを守る者は、もういませんね」

「・・・おい」

「はい?なんですか?」

「俺は、これからどうしろと?」

「はあ。お好きになさればよいかと」

「いや・・・どうやって生きて行けと?さっき、神とやらは、それなりの待遇を整えてくれるみたいなことを言ってたよな?なのに、エレノアは命を狙われているのか?疎まれた貴族の娘に転生させるってのは、いったいどういうことだ?」

「大丈夫ですよ。だから魔法を付与されたんですよ・・・たぶん」

「たぶんって・・・」

「なんでもかんでピクシーに聞かないでください。ちょっとは自分で考えたらどうですか?」

「いや、それを教えるのがピクシーの役目っていうか・・・」

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