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37.Espoir le cadeau -希望の贈り物-

卒業も迫る中、バレンタインの時期がやってくる。


御影のことが少し気がかりな六花は

梨桜に茶化されながらも

みんなで餞別を渡すことに……


「一体どういうつもりだ。こんなくだらない脅迫状なんかで、僕を呼び出して」


眉間に皺を寄せ、怒ってる感まるだしの御影さんがいう。

そんな彼の喧騒に思わず、ごくりと唾を飲み込んだ。


なぜ、私はここにいるんだろう。

来る2月14日、私達は自宅学習期間ということに目をくれず、再び集まった。

というのも彼ー御影さんに餞別を送るためでもある。


みんなで一緒に選びに行き、決まったところまではまだいい。

餞別を送ろうと言い出したり、当日のことは自分に任せろと梨桜に言われてから薄々嫌な予感はしていたけど……

なんともあろうことか、彼女は『来なければ貴様の正体をバラす』、なんて内容で御影さんを呼びつけてしまっていて……


「す、すんませ〜ん、御影さん。それ、違う人に入れるつもりだったのを梨桜が間違えたみたいで! ほんと、梨桜らしいっていうか……」


「堂々と宛名に僕の名前が書いてあるのだが?」


「そ、それはぁ……」


「……すみません、梨桜に頼んだ私たちが疎かでした。梨桜、謝って」


「だってぇ、これくらいしなきゃ御影っちきてくれないでしょぉ? そんな怖い顔せんでよ、二人とも!」


梨桜が言っても、楓と御影さんの顔色はすぐれない。

なんでこんなことになってるんだろう。そもそも私がいけないのか?

いや、大丈夫。私は送りたいなんて一言も言ってないし、梨桜の企みにはめられた被害者にすぎない。

にしても物を渡すだけで、どうしてこんな険悪にならなきゃいけないんだろう……


「はい、そんなわけで! 御影っち、今日は何の日か知ってる?」


「………ウァレンティヌスが処刑された日、だろ」


「そーそー、処刑され……って! 何その物騒な話! バレンタインってそういう日なの!?」


「だからなんだというのだ。ろくに意味も知らないくせに、僕を呼びつけるとは……人間とは、どこまでも愚かなものだな」


呆れているのか、彼ははぁっと深くため息をつく。

どこを見ているかわからないその瞳はやはりどこか悩んでいるようで、切なそうで。

その表情を見た途端に、どうもできない自分が情けなく思えてー……


「じゃなくて! バレンタインよ、バレンタイン! 大切な人に物渡す的な一大イベント! 今日来てもらったのは、御影っちに渡すために決まってるでしょーが!」


「……僕に渡すため、だと?」


「ほら、あたしら卒業しちゃうじゃないっすか。色々あったけどさ、せっかくだし餞別でも送ろうって梨桜が言い出して」


「それぞれ四人で選んで、よかったものを一つだけ選んだんです。たくさんあっても、受け取ってくれない気がしたので」


蛍と楓がいい終わると、私の背中をそっと押す。

ふうっと一息つきながら、不機嫌そうな彼へ右手を伸ばし……


「さすがにこの前のことがあったんです。ちゃんと受け取ってくれますよね? 御影さん」


とわざと不満げに告げた。

なぜ私が渡しているのか、理由は一つ。

それぞれ選んだ結果、楓はシャープペンシル、蛍は手袋とよさげなものを選んでいた。

ただ一人、梨桜はよく分からないパーティーグッズだったり、いらなさそうなおもちゃだったりで話にならなかったけど。

結果、3択になった物から選ばれたのは、なぜか私が選んだものでー……


「………これは?」


「しおりです、本に挟んだりする」


「御影さん、本とかすごく読みそうじゃないっすか! 六花が選んだんすけど、一番それがしっくりきて!」


「それだけじゃないよ〜一押しポイントは、描かれてる柄なんだ〜♪ ね、六花ちん!」


話を振られ、うっと答えにつまる。

やはり言わなきゃダメなのか……嫌々ながらもゆっくりと言葉を発し……


「アヤメって言うんです、その花」


「………あや………め………?」


「アヤメって、吉報とかしらせ的な花言葉があるんですけど、イリスって人がギリシャ神話の中で神々の伝令役だったみたいで、そこからついてて……なんか御影さんっぽいなぁって思ったっていうか、別の花言葉に神の使いって意味もあるらしくて、なおさらっていうか……」


「にしても六花ちん、よくそんな話知ってるよね〜おっしゃれぇ〜♪」


自分でもここまで調べて物を買うことをしたのは、初めてだ。

阿部さんが花言葉で彼を励ましてるのを見てたら、なんとなく興味を持ったというか……

まあこれも、しおりにのってる花をしりたくてただ調べて、たまたまみつけられた知識に過ぎないけど……


花言葉って奥が深い。

それを踏まえて花を選ぶ、なんてことも最近じゃ増えているらしい。

だからどうせ渡すなら意味のある物を、と思ってこの花を選んだけど……


「前も言いましたけど、なんかあるなら話してくださいよ。私、御影さんの力になりたくて……」


「…………そうか………そういう、ことだったのか………」


私の言葉なんて聞いてもないというように、彼は小さい声で何かを呟いている。

何を言ってるのか私には全く聞こえなかった。

すると顔を上げた彼の表情は、いつもと違ってー


「話す必要はない、すでに解決したからな」


「え? それってどういう……」


「感謝するぞ、選ばれし少女達」


その言葉の意味が、表情が、何を意味しているのかは分からない。

ただ今まで胸に引っかかっていた辛そうな顔ではなく、どこか嬉しそうに見えて……

気がつくと彼はすっと身を翻し、私達を残して行ってしまった。

ちらりとみえた横顔はどこか、スッキリしたようにもみえてー……


「なんかよくわかんないけど、受け取ってもらえたし万事オッケーって感じ??」


「御影さんって本当謎な人だな〜解決したってどういうことだ?」


「私もそこまでは……六花、話してほしいとか言ってたけど、何か知ってるの?」


「……ううん、結局何も教えてくれなかった。でも解決したなら、それでいいんじゃないかな」


結局、彼のことがわかることはなく、今の言葉の意味がちゃんと理解できなかった。

けれど表情が変わったことが目に取れて、それがなんだか嬉しくて。

ちょっとでも御影さんの力になれたのかな、なんて自惚れてしまいそうでー……


「あ、そうだ。みんなにもバレンタインのチョコ買ったんだけど……どこかで食べない?」


突如思い出したように私が言うと、3人は驚いたような顔を浮かべる。

顔を見合わせたかと思うと、みんなはすぐに笑顔になり……


「やっぱ考えることは、みんな一緒だなっ」


「え?」


「実は私も買ってたんだ、三人に。そしたら蛍も、梨桜もこっそり買ってたらしくて」


「結果、うちら一人三個食えるってわけ! いやぁ、愛だね〜こんなに愛をくらっちゃ、うち太っちゃうわぁ〜」


そう言いながら、3人はそれぞれ包みに梱包されたチョコレートを私に見せてくる。

事前に言っていたわけでもないのに、みんながみんな同じことを考えていて、シンクロして。

やっぱり、いいな。このメンバーって。


「じゃあ、食べよっか。みんなで」


この時間がもっと、もっと続けばいいのに。

そう思いながら私達は四人で、その場を後にしたのだったー




Ж

陽が、落ちてゆく。

空の色が変わっていく様子を、そこで眺め見ていた。

吹き渡る冷たい風が、髪をかき流す。


「ようやく理解できましたよ。あなたが黄菖とつけた意味が。随分と回りくどいやり方ですね」


その場には誰もいない。

自分の言葉だけが、静かにこだまする。

……はずだった。


『おやおや、やっと僕の凄さがわかったのかい? 大変だったんだよ〜どんな名前や名字をつけても君、全然納得してくれないんだもん』


一つの声がどこからともなく聞こえる。

それに応じるかのように自分ー黄菖御影は、はぁっとためいきをついた。


「御影という名は、死して全てを失った僕に貴様がつけた仮の名前……生前、僕は菖蒲と呼ばれていた。裁きを下すべき多くの人間を殺害し、罪を犯していた……」


『……そう、それが君の本当の正体。どうしたの、急に。思い出すの、あんなに嫌がっていたのに」


奴の台詞と共に蘇ってくるのは、曖昧な記憶ばかり。

どれも不鮮明なものばかりで、はっきりとしたものは一つもない。

ただ、覚えているのは自分が罪を犯した人間ということだけー……


「本来なら地獄に行くべき僕を拾った時から、訳の分からない神様だと思っていましたが……ここまでとは思っていませんでした」


『言うなぁ、君は。でも、君は僕の暇つぶしついでに、色々なものを見てきたはずだ。少なくとも、あの頃とは同一人物だと思えないくらい、考え方も変わったと思うけど?』


「……………」


『そぉいえばぁ、この前悩めるかわい子ちゃんを見つけたんだけどぉ……また審判、やってくれない?』


意地悪そうに笑う、忌まわしい声が聞こえる。

散々振り回されたあげく、また付き合わせようという魂胆が見え見えだ。

まるで、自分がどう答えるか、わかっているとでもいうようにー



《御影ってすんげー名前だな? どっからきたんだ? なあなあ、せっかくだし名前で呼んでいい?》


《こら天馬、初対面でぐいぐい行き過ぎだぞ。ごめんな、黄菖。俺は二渡大地っていうんだ、よかったら校内を案内しようか?》


目を閉じれば、あの時の光景が蘇る。

呪いをとくかどうかを判断する審判、そのためだけにいる存在だった。


それなのに、彼らはいつも自分の心を掻き乱すように話しかけてきた。

何度追い払っても、冷たい言葉を放っても。

どんな人間も、この自分に優しい言葉をかけてきた。

その世界にいることが、自分にとってとても暖かった。


今まで感じたことも、味わったこともないこの感情がなんなのかすでにわかっていた。

呪いという名で苦しめられてもなお、必死に生きようと、戦おうとする人間達の姿をこれまで何度も見てきた。

彼等のように笑って、泣いて、楽しそうにしていた人間達を過去の自分は殺してきたのかと思うと、今の自分に反吐が出る。

ここにいることが申し訳なくて、情けなくて。


罪を犯した身である自分が、ここにいていいのだろうかずっと悩んでいた。

自分はここにいるべきではないと、思っていたからこそ記憶を取り戻そうとも思えない。

それでもどこか離れがたくて、いるべき世界へ帰ろうにも帰れなくてー


《確かに、あなたと私は違う世界の人間かもしれない。でも! ここで暮らしていた、同じ仲間じゃないですか。ちゃんと友達になったんですから、さよならの一つくらい……!》


ここで暮らしていた、同じ仲間。

彼女はそう僕に怒った。

呪われていたというにも関わらず、彼女達は自分だけでなく神すらも怒らなかった。

彼女の贈り物が、自分の名前に繋がっているとは……縁なんて、わからないものだ。


「何を言い出すかと思えば……懲りない方ですね。お断りします。あなたの暇つぶしに付き合うほど、暇じゃありませんから」


日が、落ちる。

その日の星はいつにも増して、綺麗で優しく、彼女達の世界を照らしていたー……


(ツヅク・・・)

御影、には神や貴人の霊魂という意味があり、

神からつけられた仮の名前。

彼の本当の名前、菖蒲には

六花が話す花言葉からももちろんですが

殺すという字の違う読み方「殺める(あやめる)」が元となって出来ました。

名字である「黄菖」は黄菖蒲のこと。花言葉は「復讐」

これでもかと凝らせていただきました。


ここまで読んでいてわかるように、彼に関しては

サブキャラにはもったいないバックホーンを設定してしまい、それを明かすにはどうしたらいいか、ここに至るまでずっと考えていました。


実際、自分の口から六花には話していません。

彼の性格上、絶対自分では語らない気がしたんです。

神との会話を通じて、彼の思いや考えを描けたので

これはこれでいい形ではないかと思っています。


次回は21日に投稿します。

ラスト3話、最後までよろしくお願いします!

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