28,5.Ne m’oubliez pas feat.長谷部梨桜
自分だけ呪いをとけない上に
何かの存在が消されていることを知った六花は
記憶を頼りに、ひがん保育園へ向かう。
そこにいたのは親友でもあり、
幼き頃を共に過ごした
さくらちゃんこと梨桜だった。
感動の再会を果たした梨桜に秘められた真実とは……
☆梨桜Side☆
むかーしむかし、そのまた昔。
とてもとても、かわいいかわいい女の子がおりました。
季節が春だったり、生まれた日がさくらの日だったこともあり、辺見梨桜と名付けられたうちはそれはそれは可愛がられていたんだとか。
当時のうちはどこに行っても親に引っこんだり、転んだらすぐ泣く泣き虫で、我ながら手がかかる子だったと思う。
そんな性格のせいか、昔から友達すらまともに作ることができなかった。
「泣かないで、さくらちゃん。あっちで、わたしとあそぼ?」
あの時伸ばされた小さな手。
小さいながらもどこか頼もしく、うちからしたらそれは差し込まれた一筋の光そのもの。
彼女ー六花は、うちにとってヒーローのようだった。
だけど彼女との時間はあっという間で、一瞬にして過ぎ去ってしまう。
それでも六花の存在は暗闇だったうちの人生を明るく、希望で照らしてくれていて。
あんな風になれたらいいのに。
そんなことを考えていた、そんな時ー
「すまない、さくら………どうか、父さんを許してくれ……」
父が泣きながら、家を出ていった。
うちの知らないところで、川崎梨桜として母に連れられていくことが既に決まっていた。
知らない土地に行く、名字も変わる。つまりそれは、自分を変えるチャンスなのだと小さいながらにうちは捉えた。
彼女がうちを救ってくれたように、うちも救いたい。
たくさんの人と話せるように、強くなれるように……
母が再婚したのは、割とすぐの頃だった。
そこから長谷部梨桜として、歩むことになった。
けれど母は、中学の頃に事故で急死。
よほどショックだったのか父は、うちの知らない女の人が新しいお母さんだと連れてきて……
その時初めて気付いた。
血が繋がっていない親、初めましてだらけの学校。
気がついた頃には、うちが泣き虫さくらだと知る人は、一人もいなくなっていた。
「梨桜って誰でも彼でも仲良くなれるよね。本当にすごいよ〜ひょっとして、昔から怖いもんなしだったんじゃないのぉ〜?」
「長谷部梨桜」を知る人達は、皆うちにそういう。
よくいうよ、昔のうちのことを知りもしないで。
父が出て行って以来、泣いたことは一度もない。
人と話すことが苦手だったのに、今ではアドレスがいっぱいになるほど友達がいる。
それを褒めてくれる人が、うちの周りにはいない。
そう知った途端、悲しくて、寂しくて、一人になったんだということが押し寄せてきて……
「えーーっと、すみません。人違いじゃないですか?」
かつて私を救ってくれた友達・今泉六花が再び現れた時、彼女はうちがあのさくらちゃんだと覚えてさえ、気付いてさえいなかった。
当然だよね、たった半年しかいなかったんだもん。
わかっていても彼女との再会はトドメを刺されたも同然で、うちが変わった意味って、なんだったんだろうって考えてしまって……
「おめでとうっ! 君はラッキーガールに選ばれた!! この先の未来、きっといいことがあるよ☆」
「長谷部梨桜、貴様の過去を知る奴の記憶を呼び起こせ。さもなくば、貴様という存在すらこの世界から抹消される」
神様が現れ、家にブレスレットが届いて、あなたは呪われましたよといわれて。
それをとくには昔を知る者ーつまりは六花の記憶が呪いのキーポイントだとすぐにわかった。
それでもその時には、全てがどうでも良くなっていた。
呪いとかなんとか、どうでもいい。
うちはもう、一人になったんだ。
だったら同じ苦しみを背負う、彼女たちを救った方が早い。
「ちょうどいい機会なんだよ。あたしが男になれば、母さんもきっと喜んでくれる。だから完全に男になる前に、みんなには話しておこうと思って」
親のことで、女としての自分を閉じ込めたほたるん。
「蛍の身体が代償だとしたら、私のなんて全然大したことない。だから言わなくていいって思ってたんだけど……やっぱり観念した方がよさそうだね」
イメージに囚われ、思うように身動きがとれなかった楓っぴ……
二人の苦しみを救うことができれば、少しはヒーローのようになれるだろうか。
少しはうちの存在を、覚えていてくれるのだろうか。
大丈夫。ほたるんがひどかっただけで、うちはそうでもない。
現に六花は、何も起こっていないじゃん。
なんとかなる。期限が迫ってたって、うちを忘れてる人なんて……
「あれ、あなた新入生? 見かけない顔だけど……」
文化祭が終わってすぐの日、同じクラスの子がうちを見てそう言った。
思えば、文化祭の時からそういう兆候はあったと思う。
それでも見ないふりをして、これだけ騒いでいれば誰かは覚えているだろうと信じていた。
根拠も何もない、今思えば無謀すぎる希望を。
しかし蓋を開けてみれば靴箱もない、机もない。知り合いだった人は皆、口を揃えて誰だと聞く。
ずっとつけていた青色のブレスレットはなぜか黒色に発光していて。
そうか、これが存在が消えるってことなのか。
例え功績を残したとしても、意味なんてなかった。
このまま、消えてしまうのかな。
取り壊しが決まったかつての思い出の場所のように、綺麗な花を咲かせるけどたった一瞬で散ってゆく桜のようにー……
誰に思い出されることもなく、誰にも気付かれることなく、このまま一人で……
「さくら……ちゃん?」
でも違った。
彼女は再び、私の前に現れた。
存在も全て消えてしまった、この世界で。
しかもうちが、あのさくらちゃんだと気づいてくれて。
それに……
「……これからはもう、一人じゃないから。気づけなくて、本当にごめん……よく、頑張ったね」
その一言だけで、笑みだけで、すべて報われたような気がして。
うちがやったことは間違いでは、なかったんだと教えてくれたようで。
ああ、うちはこの一言が欲しかったんだ。
どうしてもっと、早く気づいてくれなかったのだろう……
「ねぇ、六花ちん」
「ん? 何?」
「ありがとね、うちのとこに戻ってきてくれて」
自分を変え、かけがえのない仲間に出会うことができたから、今のうちがいる意味が成る。
だからきっと、明日は昔よりも。
いい笑顔で笑えるような……そんな気がするんだ。
(ツヅク・・・)
梨桜の名前のモチーフとなった桜。
花言葉を調べていると、なんとフランス語で
ヌ・ムビリエ・パ「私を忘れないで」
と言う意味があるそうです
なんとも梨桜を象徴する花なんだと
ものすごく、ものすごく運命を感じたので
タイトルにもさせてもらいました。
普段は明るい梨桜ですが、
過去が暗過ぎてシリアスまっしぐらですね。
それでも彼女がいなきゃ、
この作品は成り立たないもの同然。
彼女はかけがえのない存在です。
次回は21日更新!!
ついに四人で、その時を迎えるー!




