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28.また会う日を、楽シミニ

文化祭が終わり、六花はあることを

忘れていることに気づく。


思い出した記憶を頼りに、

ひがん保育園へ向かうと

そこにいたのは親友でもあり、

かつて共に過ごした梨桜だった……


赤く染まった夕日が、私たち二人を照らす。

微笑む彼女の姿は、いつにもまして懐かしかった。

優しく包みこむように私を抱きしめる彼女の温もりはとても暖かく、心なしか香水のかぐわしい香りが私の鼻をさして……


「ってこんなことしてる場合じゃない!」


「うわっ、どしたん六花ちん」


「それどころじゃないんだよ、梨桜! 大変なんだよ! 学校のみんなが、梨桜のこと忘れて……!」


「あー、大丈夫。状況は一週間前に確認済みだし、一旦落ち着こう」


どうどうとなだめる彼女は、期限が迫っているという割に落ち着いていた。

彼女の袖からは、かすかに黒い光が見えたり、見えなかったらするのがうっすら分かる。

おそらく、呪いとしてつけられていたブレスレットの光だ。

やっぱり今のこの状態には、呪いが関係してる。

早く、梨桜の体を自由にしてあげないと……


「そんなに慌てんでも多分、もうすぐとけると思うよ? うちの望みは、もう叶ったも同然だからねっ」


「え………望みって………?」


「ごめんね、うちの呪いは六花ちん次第だったんだよ」


私、次第……?

戸惑いのせいか、いまいち彼女の言葉を理解できない。

梨桜は髪を耳にかけ、へへっといつものように笑って見せた。


「実は六花ちんがここから引っ越してすぐの頃、両親が離婚してさ。そっからおかんが別の人と再婚したんだけど、中学上がる前に事故で死んじゃって。義理のおとんが、また別の人と再婚したから実質うち、どっちとも血繋がってないんだよね」


思ってもみなかった過去が、次々に語られる。

普段明るい梨桜からは、想像すらできない過去。

聞いているだけで胸を締め付けられるのに、彼女はいつもの笑みを絶やさなかった。


「結果、2回も名字変わってるからさ。六花ちんが覚えてなくても無理ないと思う。なのにうちってば、覚えてないのとかすごい言って……ほんと、馬鹿だよね」


「梨桜………」


「うちにとってあの頃の六花ちんは、ヒーローだったんよ。だから、六花ちんみたいになりたくて、自分を変えようって頑張ってた。頑張って、頑張ってやっっとここまできて! でもある時気づいたんだよね〜あの頃のうちを知ってる人は、いないんだなって」


その横顔を見ながら、今更ながらに彼女の面影を感じてしまう。

私が知ってるさくらちゃんはいつも泣いていて、いつも隅っこにいるような……いわば、もう一人の私だ。

友達ができない上に、作ろうとしなかった私はそんな彼女に共感してその手を取ったのだろう。


事実、思い出してからも今の彼女からはあのさくらちゃんだと結びつかない。

あの頃からしたら性格も、名前も変わっていて、誰だって2度は聞き返してしまうだろう。

そしてその彼女を見守ってきたであろう名前をつけ、自分を生んでくれ、育ててくれた親。

そんな親も、彼女の周りにはもういない。

それってつまり……


「気づいた途端、すんげー寂しくなっちゃってさ。一人ぼっちになったんだって実感がぶわわ〜ってきちゃって。男女問わず話しかけ始めたのも、その時期かな? そしたらうちを知ってる六花ちんが転入してきて、頼みの綱だったものまでダメになって」


「な、なんかすみません……」


「それで、条件にされちゃったの。あの頃のうちを知る六花ちんの記憶を呼び起こすこと……無理なら、長谷部梨桜という存在すらこの世界から消えるよって」


……私の知らないところでそんなことが……

きっと私が思い出す雰囲気がなかったから、彼女はとく気がないと言ったのかもしれない。


現に呪いは進行し、彼女の名前やいたことすら消えてしまっていた。

そうなってしまっては、彼女からは行動も起こせない。

私はなんて、取り返しのつかないことをしてしまったのだろう……


「………本当にごめん……私、友達失格だよね……」


「何言ってんの! 存在も、名前も消えちまった世界でうちのことを思い出してくれたのは六花ちん、ただ一人だよ? それだけで、うちはじゅーーーぶん! 結果的に、思い出してくれたしね」


「……私がヒーローだって言ってたけど梨桜……ううん、さくらちゃん。あなたは私にとっても、ヒーローみたいな存在なんだよ。それと同じくらい大切で、何にも変えられないかけがえのない……私の……初めての友達」


ホッとしたからなのだろうか、自然と涙がこぼれ出る。

あの頃の「さくらちゃん」の面影は、少なくともないかもしれない。

けれど彼女は「長谷部梨桜」として、私の前に再び現れた。

かつて私が手を伸ばしたのと、同じように。


私が知らないところで、梨桜はいっぱい、いっぱい頑張ってきたんだ。

たった、一人で。


「……これからはもう、一人じゃないから。気づけなくて、本当にごめん……よく、頑張ったね」


そっと頭を撫でながら、笑みを浮かべてみせる。

すると同時に梨桜の目からほろりと、溢れでる。

綺麗に流れたそれは、彼女の頬をつたい……


「……梨桜、もしかして泣いてる?」


「なっ! これは汗だし! 涙じゃねぇし! 泣き虫さくらちゃんの卒業から、うちは一回も泣いたりなんかしてないんだからね!?」


「え〜? そうだったっけ?」


「ほんっと六花ちんは……余計なことしか言わないなぁ! もう!!」


そういう彼女の顔は、どこか清々しそうに笑っていた。

何か吹っ切れたように、すっきりとしていて、それがとても綺麗で。


「おーーい、六花〜〜〜!! 梨桜〜〜〜!」


そんな時、だった。

聞き覚えのある声に、ふと振り返る。

少し奥の方から、蛍と楓の姿が確認出来た。

私を追って、来てくれたのだろうか。

やっぱり二人も一緒で、いてもたってもいられなかったのかな……

……あれ? でも今、梨桜の名前を呼んで……


「へへ、うちってば愛されてるなぁ~来てくれたのは、六花ちんだけだと思ったのに」


そういう彼女は、じゃーんと腕を捲し上げる。

そこにあったであろうブレスレットは、なんと姿形がなくなっていた。

いつ、なくなっていたのだろう。

驚く私に彼女はにっと笑い……


「やっと六花ちんの呪いもとけたね。うちのをといたおかげかな? これにてハッピーエンド、だねっ☆」


慌てて首元を触ってみる。

汗で少しじめっとした肌触りが伝わるだけで、金属の感覚さえない。

言われてみればネックレスを付けていた感覚が、今はまるでない。

偶然持っていたのか、梨桜は持っていた鏡を私に見せてくれて……


「呪い……とけちゃった……」


何もない首元、雲ひとつなく広がる夕焼け空。

あの神に出会って、約半年。

ついに、その時が来たのです!


(ツヅク!)

余談ですが、保育園の名前であるひがんは

彼岸花からとっています。

彼岸花の花言葉は、タイトルにある意味もあるそうで

六花と梨桜の出会いの場所でもあるので

それにちなんでつけていたりします。


ここにきて明らかとなる梨桜も

なかなかぁに重い過去の持ち主ですが

呪いの代償が軽めだった六花と楓は赤、

重めだった蛍と梨桜は黒と

呪いが発動した後の宝石の色を変えてあります。

気づいた方、いるんですかね?笑


次回は13日更新予定。

ついにラスボス・梨桜の、過去に迫ります。

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