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27.キミガイナイセカイノナカデ、ボクハ

文化祭も終わり、楓の呪いも

無事にとけたことを知る六花。


それにより、自分もとけるはずの呪いは変わらず、

妙な違和感だけが残る。


残された桜のキーホルダーの持ち主が、

記憶から消されていることだけわかり……

「え? このキーホルダーをつけてた人? うーーん……見覚えない、かも……あれ? でも今泉さん、似たような物つけてなかったっけ?」


「そういえば委員長と須賀さんも、お揃いで買ったって聞いたことある! 今泉さん達じゃないなら、まったく違う人じゃない?」


同じような答えが一つ、また一つ返ってくる。

ありがとうと浅く礼をしながら、私はまた違うクラスへと足を運んでいた。

クラスメイトも、蛍のクラスの子に聞いても、答えはいつも同じ。

誰に聞いても、確信の持てる答えは得られなかった。


私達は何かを忘れてしまっている。

なぜそう思うのか、はっきりとはわからない。

ただ、忘れちゃいけない大切な物だったような……なぜか、そんな気がして……


「誰も知らないんだな……このキーホルダーのこと……これを買いに行ったことは覚えてるはずなのに……あたしら3人で行ったってことしか、思い出せないなんて……」


桜のキーホルダーを握り締めながら、蛍が困ったように笑う。

それは楓も同じようで、自分が持っていた紅葉のキーホルダーに目を落とした。


「六花の話からすると、お揃いでつけてた人がもう一人いたってこと……だよね? 私達じゃなく、クラスのみんなも知らないなんて……」


この学校中誰一人、キーホルダーの持ち主を覚えている者はいない。

生徒も、先生もだ。

誰かいた気がする、と言う曖昧なものだけで、確かな保証はない。

私もはっきりとはまったく思い出せない。

あの時ー脳裏に浮かんだ声……あれは一体……


「あくまで推測だけど……その子も、私達と同じ呪いを受けているんだと思う」


「やっぱり……楓もそう思う?」


「六花の呪いがとけないのもそうだけど、人の名前や存在すら消えてしまうなんてあり得ない……それができるとするなら、あの神様だと思うんだよね」


「ま、まああたしの身体を男にしたくらいだし、できないことなさそうだよな……」


もし本当にその可能性があるのなら、合点がいく。

その子の呪いの期限が迫っているからこそ、こんなことが起こってしまっているのだろう。

あの神のことだ、やりかねない。

せめてその子の名前だけでも、思い出せたらいいのにー……


「ねえ、聞いた? 近々取り壊されちゃうよ〜? あそこの保育園」


「マジ? まあ、すごい廃れてるもんね〜確か、ひがん保育園だっけ? 通ってた子とかいるのかなぁ」


近くを通ったクラスメイトの声が、耳に入ってくる。

全然関係ない、たわいもない話の内容だ。

……なのに、何かがひっかかる。


ひがん保育園。

聞いたことがある気がする。

確か、私が通っていた保育園の名前はー……


『やっと会えたぁぁ。うちだようち! ほら、ひがん保育園で一緒だったー………』


また、あの声が聞こえた気がする。

点だったものが線となり、曖昧だったものがどんどん一つの形へ化していく。

忘れるなんて、考えたことなかった。

私にとって、この場所に連れてきてくれたたった一人の恩人ー……


「私、いかなきゃ………」


「えっ、六花? 急にどうしたんだよ!」


「二人はここで待ってて!!」


気が付くと私は、二人にそう言い残して走り出していた。

ただひたすらに、ある場所に向かって。


彼女に会ったところで、わかるのかなんてまだ分からない。

どんな顔で、どんな子だったか、形になっては靄になって薄れていく。

でも、行かなくちゃ。

あの場所に行けば、大切な思い出を思い出せる気がしてー……


「あった……ひがん……保育園……」


駅から電車で20分くらい。

ホームページの住所と携帯のマップを頼りに辿り着いたのは、ひがん保育園とかかれた場所の跡地だった。

そこに建てられていた保育園は随分古くて、遊具もさびているものがほとんどだ。


工事のお知らせ、という看板も隣に立っていて、クラスメイトが話していたことが本当なのだとうかがえる。

ただ、私はこの場所を知っていた。

初めて来たはずなのにどこか懐かしくて、校庭の遊具一つ一つに見覚えがあって。


……あ、そうか。ここ、私が夢の中で見た光景と一緒なんだ。

夢の中で見ただけじゃない。

あの遊具も、あそこにある飾りも、すごく見覚えがある。

カラフルに彩られたジャングルジムのそばにある、小さな砂場。

夢の中で泣いていたあの子がいた場所だ。

あの子の名前は、確かー……


「ここ、来週から工事始まるんだって。時間って過ぎるのあっという間だよね。うちが通ってた頃は、こんなこと想像さえしてなかったのに」


聞いたことがある声が聞こえる。

ばっと振り返るとそこにいたのは、一人の女の子だった。

赤色のセーターに、フリーツスカート。

桜のような綺麗なピンクの少し長めの髪は、ストレートにおろされている。

その姿が、声が、夢の中の少女と合わさるように重なってー


「………さくら、ちゃん?」


ようやく絞り出した声はどこかかすれて、小さい。

それでも彼女は聞き取れたのか、私ににやりと笑ってみせる。


「やぁっと気づいた? そう!! うちこそ! ご存知泣き虫さくらちゃんであーる!」


「……本当に、あのさくらちゃん……なの?」


「うちが生まれた日、桜の日らしくてさ。それにちなんで名前つけたから、おかんが桜って呼んでて。いつの間にかあだ名になってたんよ」


「………なんで……どうして……」


「六花、言ったじゃん。どこかに行ったりしないって。一緒に遊んでくれるって。あの時の言葉、うち一度も忘れたことないよ」


夢の世界のことだと、思っていた。

あの時ー泣いていた子に手を伸ばしていたのは紛れもなく、幼い私だ。

場所も、広がっているこの景色に見覚えがあるのも、かつて私がここに通っていたから。

そして目の前にいるのも、あのー……


「ちょっとぉ、なんで六花ちんが泣いてるの? 泣きたいの、うちの方なんですけどぉ〜?」


「だって……だって……私……あなたのこと……」


ずっと、ずっと忘れていた。

忘れてはいけなかったはずなのに。


かつて私には、親の仕事の都合で半年も経たないうちに保育園を移動した過去がある。

まだ年少の話だったから、それがどこなのかもここに通っていたという証拠もそんなにない。


けれど、確かに私にはいた。

友達ができない、一人で遊んでいる中、同じように泣いて、苦しんでいた同じ仲間をー……


「……六花」


溢れでる涙を拭くように、彼女は右手を添える。

微笑んだ彼女の笑顔は、いつも見てきたあの笑顔そのものでー……


「やっと、見つけてくれたね」


一つのピースが、パズルのように記憶の中ではまってゆく。

ずっと曖昧だった。

その温もりが、その笑顔が、抜けていたものを埋めるように満たしていく。


さくらちゃん。

それがあの子の名前。

あどけない少女はかつての姿を残しつつ、長谷部梨桜として私の世界を再び色付けたー……


(ツヅク・・・)

余談ですが、梨桜の誕生日3月27日は

本当に「さくらの日」といわれており、

そこに関連付けて設定してます。


ちなみに楓の10月3日は誕生花がカエデだったり、

蛍の7月30日は夏らしさを残しつつ、

ホタルの見頃ギリギリラインにしたりと

事細かに決めてたりします。

六花はあるものと被るように設定しましたが

それはまたおいおい……


今回で前々からの幼馴染設定を

ようやく回収しましたが

小さい頃のエピソードが前話しかないのは

六花自身が忘れていたから……なんですよね。

それにしては少なすぎたかなぁと少し反省してますが…


次回は10月4日更新!

感動の再会の果てに……

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