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26.サラバ忌マシキ我ガ呪イ

文化祭を迎え、呪いの期限も迫ってる中

六花は勇気を振り絞り、

楓の背中を押すことに成功する。


努力の甲斐あり、楓は

クラスの輪に入ることができ……

「じゃあ、鬼ごっこしよう! あこが鬼ね!」


「え〜? しほ、鬼ごっこきらぁい。いっつもわたしばっかり追っかけるんだもん〜」


「じゃあ、ぼくと一緒に逃げようよ! しほちゃん守ってあげる!!」


広い、広い敷地の中、みんながわいわい走り回っている。

この景色、この光景、見覚えがある。


ある……はずなのに、どこか曖昧で朧げで、はっきりと思い出せない。

ところどころが不鮮明で、遊んでいる子たちの顔も、その場所がどこなのかも、もやがかかっているように分からなくてー……


「……えーんっ、ひっく………」


泣いている声が、聞こえる。

気がつくと、後ろには見慣れない小さな子供がうずくまっていた。

小さい肩を震わせながら、涙をいっぱい溜めて泣いている。

この子……どこの子だろう。


「泣かないで、……ちゃん。あっちで、わたしとあそぼ?」


その小さい子を、誰かが慰めている。

あれは…………かつての私?

これはただの、夢? それとも本当にあった、昔の話……?


「………ちゃんは、どこかに行ったりしない? ……と、いっしょに遊んでくれる?」


「しないよ。だから、いっしょいこう」


「うんっ!」


伸ばした手を、小さな手が結ぶ。

その子の笑顔はなぜかどことなく見覚えがあって、どうしようもなく懐かしくてー………



「六花、起きて。いつまで寝てるの? もう放課後だよ?」


聞き慣れた、声がする。

気がつくとすぐそばには、楓がいた。

授業中つい眠くてうとうとして、気がついた時には寝てしまっていたらしい。


ていうことは、あれは夢……か。どんな夢だったかは、あまり思い出せないけど。

でもとても、懐かしかった気がする。

何も思い出せないのに……なんだろう、何か大事なものだったような……


「ちょっと六花、聞いてるの?」


「あ、ごめん。ぼーっとしてた。じゃあ帰……」


「いいんちょーー! 文化祭の時の写真、現像してきたよ〜!」


私のセリフを遮るように、楓の周りにわっとクラスメイトが寄ってくる。

よく見るとそれは、文化祭で共に回った志麻さんと羽島さんで、楓との距離もどことなく近いような……そんな気がした。


「わざわざありがとう……でもこれ、スマホで撮ってなかったっけ?」


「いやぁ、連絡先聞くの忘れてて……あ、でも大丈夫! これくらい大したことないから!」


「本当委員長って写真写りいいよね〜」


「久保薗さぁん! 今度お昼一緒にどう?! オススメの学食ランチとか教えたぁい〜」


そんな中、今度は羽島さん達とは別の女子生徒が割って入ってくる。

その後もさまざまなクラスメイトが、楓を囲むように何人かやってきていた。


文化祭が明けてから一週間、私としかいなかった楓の周りに、たくさんの人が話しかけてくるようになった。

きっと志麻さん達と文化祭を回ったことで、彼女のイメージを変えることができたのだろう。

事実、文化祭が終わってすぐに「委員長のことちょっと誤解してたかも」って私に話してくれたし。


前に比べて楓の笑顔も増えたからか、自分の事のように嬉しい。

みんな楓の良さを分かってくれたってことだもんね。色々あったけど、本当よかったなぁ。


「ちょっと六花、何にやにやしてるの」


「あ、ごめん……楓が人気者になって嬉しいなぁって」


「もう、からかわないでよ……」


楓は照れたように、髪を耳にかけながらそっぽを向く。

なんとも可愛らしいなぁ、なんて思いながらもふと視線は彼女の耳にいってしまう。

前まであったそれは、なぜか形すらなくて……


「あれ!! 楓、イヤリングは!?」


「え……ああ、いつのまにか消えてたみたい」


「ってことは!? 楓も呪いクリアってこと?!」


「そうなるの、かな? ごめん、バタバタしてたから、言うの忘れてた」


私を始め楓、蛍には呪いがかけられている。

……いや正確にはいた、か。


なんとも不条理で、迷惑な呪い。

最初は無理だって思っていたけれど、まさか本当にとくことが出来るとは……

あれ……待てよ。ということは……


「楓も……それに蛍もとけてるってことは、私のもとけるはずだよね!?」


「あ、そういえば六花は私たちの呪いをとくことでとけるんだよね。でもネックレスはそのまま……なんでなんだろう」


彼女に言われて、無理矢理にでもとれないか首元をいじる。

つけられてすぐの頃と同様、ネックレスはびくともしなかった。

私にかけられた呪い、それは二人の呪いをとくこと。

蛍だけじゃなく、楓もとけたってことは私の呪いもとけていいはず。

なのにこの扱いはひどくない? 普通楓がとけた時点で、消えてもいいはずなのに……


「私、ちょっと行ってくる」


「えっ、六花?」


気がついた時には、私は彼の元へ歩き出していた。

みんなが帰っていく中をかき分けるよう、一直線に突き進んでー


「ちょっと御影さん、何のんきにお茶飲んでいるんですか」


わいわい周りが話しているのも、帰っていくのも気にせず、一人優雅に水筒を飲んでいたのは紛れもなく御影さんだ。

どうやらあの友達の姿もないようで、私を見た途端怪訝そうに顔をしかめてみせた。


「……なんだ、今泉か」


「なんだじゃないですよ。どうしてといてくれないんですか?」


「何の話だ」


「呪いのことに決まってるじゃないですか。蛍と楓のアクセサリーが消えたのって、呪いがとけたってことですよね? だったら私のがとけてもおかしくないですよね!?」


一瞬だけ、彼のまゆがピクリと動いたような気がする。

がそれは気のせいというように、御影さんは表情を一切変えずに水筒を机に置きはあっとため息をついた。


「答えるまでもない。今のままでは呪いをとくには至らない、それだけのことだ」


「なんで? 話がちが……!」


「貴様が言ったんだぞ? 全員の呪いがとけることを、自分の呪いにすると」


そう言うと彼はすっと立ち上がり、足早にさってしまう。

追いかけようにも彼の言葉にいつも以上の重みを感じ、何も言い返せなかった。


確かに私はそう言った。みんなの呪いをとくことを、私の呪いにするって。

だったら、とけてもおかしくないはず。

なのに……どういうこと?

「あ、楓〜六花~ちょっといいか?」


どこかで、私を呼ぶ声がする。

振り返ると、教室のドアから顔を覗かせた蛍の姿があった。

よ、と軽快に挨拶を交わす。

御影さんの言葉に気を引かれながらも、仕方なく彼女の元へ行く。

ちょうど近くにいたのか、すでに楓も一緒にいた。


「わりぃ、ちょっと先生に頼まれてさ。今から多目的に行くから、遅くなる。なんなら、先帰っててもいいぞ?」


「多目的教室ならすぐ近くだし、全然待つけど……その机どうしたの?」


「なんかここ一週間ずーっと空いててさ。あたしもみんなも先生も、なんで一席分多いか分かんなくて。使う人いないなら多目的に戻そうって話になってさ」


そういう彼女は、私達が普段使っている学習机を両手で運んでいた。

一週間も空いた机、か。なんか妙だな。

そもそもなんで一席分空くんだろう。休みの子がいるとしても、誰かしらは覚えているだろうし……


「そういえば私も……さっき志麻さん達からもらった写真なんだけど……これみて」


そういうと、彼女は先程受け取っていた写真を私に見せてくれる。

それは私と蛍、そして楓の三人が写っているものだった。

志麻さん達と楓が回っている間、私は蛍と共に文化祭を回っていたんだけど……その最中に偶然会って、写真撮ってもらったんだっけ。


こうして二人に囲まれてみると、やっぱり写真写りいいよなぁ。羨ましい限り……

……あれ? でも……


「あたし、誰もいないとこに腕回してないか!? え、なんだこれ!?」


「私もおかしいと思って。3人で撮ったはずなのに、不自然に空いてる……まるでここに誰かいたように……」


「こっ、怖いこと言うなよ! あの時はあたしら3人だけだっただろ〜?」


使われなくなった席、不自然に空いている写真。

そして二人の呪いをといたのに、とけない私の呪いー……

この二つのことに、関係があるのだろうか。


何かが、おかしい。

そのことはわかるのに、何がおかしいかは分からなくて、違和感は覚えるのにこれが正しいとも思えてー……


「と、とにかく! あたしは机を戻してくるから! 2人とも、先帰ったりするなよ? あたしを一人にするなよ!?」


「わかった、わかったから。……あれ、蛍なんか落ち……」


彼女が運ぶ机から、ぽとりと何かが落ちる。

拾ってみてみると、花の形をあしらったキーホルダーだった。


これは……ひょっとして、私達がお揃いで買ったものと同じもの……?

この花は……桜……かな?

春っぽい名前の人なんて、誰も……


『だからいっぱい話して、いっぱいお互いのこと知って……これからゆっくり友達になっていこうよ。今日みたいな遠慮はなし、でさ☆』


頭の中で、何かがよぎる。

何度も何度も、聞いたことがある声。

なのにまるで霧の中を探しているように、鮮明なものが見えない。

私は、知っている。このキーホルダーを持っていた子を……

知っている………はずなのに……


「六花? どうしたの、泣いてるの……?」


気がついた時には、涙が頬を伝っていた。

理由は、わからない。

悲しくも、嬉しくもないのになぜか涙がこぼれてきてー


「………私、忘れちゃいけないことを、忘れている気がする……」


この日常が、普通だと思っていた。

違和感一つ、抱くことなんてなかったのに。

思い出そうにもすべてに霧がかって、曖昧で。

私達のこの世界で、何かが消えている。

それだけしか、私には分からなかったー……


(ツヅク・・・)

前々回の伏線に、皆さんは気づきましたか?

つまりは、そういうことなのです。


とりあえず今は語るよりも、

六花達を見守らないことには語れないので

作者もだんまりすることにします。


次回は26日頃更新!

消えている何か、とは……?

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