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25.届けたい思いを、声に乗せて

季節は秋。

校内が文化祭準備で賑わう中、

楓の呪いのタイムリミットが近くなっていた。


クラスメイトと対等に話せるようになりたい。

彼女の呪いをとくため、なぜか六花が

人肌脱ぐことに……!?

祇季祭、と書かれた旗が外で揺らめいている。

3年2組お化け屋敷とかかれた教室にはカップルだったり他校の生徒達だったり、様々な人達が私の前を行き来してゆく。


「二組~お化け屋敷やってまーーす。よかったら、来てくださーい!」


……よし、行くぞ。

今なら彼女一人だし、声をかけても問題ないはず……

……いやぁでも、もしかしたら予定があるかもしれないし……


「光、おつかれ〜!」


「あ、結衣!どうだった?」


「うん! どのクラスもすげーいい感じだった! そっち何時までだっけ? 終わったら一緒回ろうよ!」


「え、本当? 楽しみだなぁ」


クラスメイトでもある志麻さんと羽島さんが、チラシを配りながら話している。

その他の人達もどこか楽しそうで、にこにこ笑顔を浮かべていて。


そんな人出が多い中、何もできない私はお化け屋敷のちらしを両手に抱えたまま、今日何度目かわからないため息をまたついて、


「……はぁ……どうしたもんかなぁ……」


と小声でぽつりつぶやいた。

今泉六花、高校三年にして、最後の文化祭。

ただいま、どうすればいいか絶賛考え中であります。

楽しい気持ちで迎えるはずの文化祭が、今では楓のことで頭がいっぱいだ。


それとこれも、すべてはあの神様のせい。

楓にかけられた呪い、それは「本当のことを伝えなければ、邪魔するように男が寄ってくる」というものだった。

体ごと男になってしまった蛍に比べたら、まだ軽い方なのかもしれないけど。


言われてみれば、私が知ってる限りでも彼女は所かまわず男の人に声をかけられていた。

よくあることだと楓が言っていたから、まったく気にもとめなかったけど。

楓の呪いをとくには、クラスメイトと打ち解けることが必要。

委員長な上に頭がいい、一度見たら目を引く外見のせいでどこか距離を置かれがち……そんなイメージで固められたものを、壊すことが求められてくる。

要は、クラスメイトと自然に、普通に仲良くなることが大事なのだと言っていたけれど……


そこで選ばれたのが、まさかの私だった。

楓の呪いの内容を聞いた直後、顔が広くてそんなことなんてお安い御用なはずの梨桜は何故か、私に全て押し付けることを決めてしまった。

なぜ梨桜がやらないのか。

そんな疑問は、彼女の問いで一瞬で論破されてしまった。


『そんなのっ! 六花ちんに友達がいないからにきまってるでしょーが!! これを機に、あんたも友達作ってきんしゃい!!』


……ですよね、うん。わかってましたよ、私だって。

梨桜達とだけで満足しちゃダメだよなって、そりゃ何度だって思ってますよ。

現に、呪いをとくには至らなかったし? 他に友達できる気がしなかったから、みんなの呪いをとくんだって言っちゃったところもあるし?


何も言えないってこともあるからか、仕方なーく彼女の言う通りにしてるんだけど……

もうさすがに3年生の二学期中旬。グループも固まり、もはや結束さえ深まってる中に声をかけるタイミングなんて早々なくて……


「……なんか、ごめんね。私のせいで、巻き込んじゃって」


私の声が聞こえていたのか、楓がバツが悪そうに言う。

なかなか行動に移せないせいで、逆に気を使わせてしまっているような気がして、本当情けない。


「だ、大丈夫! 次! 次こそ話しかけるから!」


「……無理、してない? 六花もこういうの、苦手でしょ?」


「うぐっ……ま、まあ、否定はしない、けど……」


「いいよ、私のことは気にしなくて。そもそもとくきなかったしね。今更、どんな顔して声をかけていいかわからないし……」


そう言いながら、彼女はふっと私から目を逸らす。

いつも見てきた彼女の顔よりも暗く、どこか辛そうで、悲しそうで。


………私は、この顔を知ってる。

たった半年だけど、友達としてずっと見てきたから。

友達になる前は、こんなに綺麗な人には悩みなんてなさそうだななんて思っていたのに。


「楓ってさ、みんなのイメージと全然違うよね」


突拍子もなく言った私に、え? と楓が呟く。

彼女が戸惑うように瞳を向けているのを感じながら、静かに口を開いた。


「ほら、見た目も良くて、頭もいいから近付き難い〜ってやつ。でもいざ話してみたら、そんなことないよね。誰よりも臆病なのに強がるのが上手くて。自分から話しかけるのだって、本当は怖くて仕方がない」


「六花……」


「楓は、自分から行動するのをためらってるだけなんだよ。あの頃の、私と同じ……でも、行動しなきゃ何も始まらない。一歩踏み出すだけで、何か変わるかもしれないんだよ」


楓に話していたのも束の間、いつのまにか私は走り出していた。

まっすぐ、あの人たちの元へ。

18年間ずっと、一人でいい、友達が居なくてもいいと思っていた。


でもそれは、ただ逃げるための口実。

本当は何か言われるのが怖くて、関係が壊れるのが怖くて、仕方なかった。


今までの私なら無理だって諦めてたかもしれない。

でも、梨桜達に会ってから私の世界が変わった。

心から、笑えるようになった。

だから楓にも、笑顔になってほしい。

彼女と私は、少し似ているからー……


「志麻さーーーん、文化祭回りたいんじゃない? 宣伝係私変わるよ?」


「あれっ、今泉さん? まだ交代の時間じゃないのに、いいの?」


「うん、私は大丈夫。代わりに、楓を一緒に連れて行ってくれないかな?」

「えっ、委員長を?」


志麻さんも、羽島さんもびっくりしたように私と楓を交互に見る。

大丈夫、きっと話せばわかってくれるはず。

そう思いながら、隣にいた楓の背中をそっと押す。

戸惑った様子ながらも、楓は彼女達に声をかけようとして……


「あ、あの……………!」


「おーーい、宣伝係~! ちゃんとやってるかぁ~?」


「お疲れさま、委員長。それに、志麻さん達も」


そんな時、だった。後ろから不意に声をかけられたのは。

こんな時に誰だよと、行き場のない怒りを抑えつつ後ろを振り返る。

すると志麻さん達が、あっとテンション高めに声を上げた。


「あ、二渡君! それに藤木君も! うわっ、たくさん袋持ってるけど、どうしたの?」


「いやぁ、色んな子から食べて食べてって言われてさぁ。決してサボってたわけじゃぁねえぞ!」


「あはは、答え言ってるようなもんじゃあん」


……なんて、タイミングが悪いのだろう。

せっかく人が勇気を出して声をかけたのに……まさか男子に邪魔されるとは……

しっかしこの二人、なーんか見覚えが……


「よっ、元転入生! えーっと、湖だっけ? 志麻達といるの、珍しいな?」


背中をジィッと睨んでいたせいか、チャラそうな一人が私に声をかける。

転入生とか呼ばれたの久しぶりだな、元っていわれるのは複雑だけど。


「あの、私湖じゃなくて今泉なんですけど」


「ああわりぃわりぃ! そういや、ちゃんと話すの初めてだよな? オレ藤木天馬(ふじき てんま)、こいつは二渡大地(にと だいち)。今泉って、よく御影と一緒にいるよな? 御影の奴見てねえか? 回ってる途中で見失ってさぁ」


そう言われて、やっと思い出す。

どうりで見たことあると思ったら、この人達御影さんの友人だ。

こんな明るそーーな人と友達になるなんて、御影さんって本当謎だな……


「そーだ、委員長! 大地と一緒に探してくんね?」


……ん?


「一人より二人の方が探す手間が省けるっていうだろ? 宣伝は心配すんなって、俺と今泉でやっとくから! だから志麻たちも行っていいぞ?」


「ちょ、天馬、何を勝手に……」


「ようやく見つけたんだぞー? これを機に、仲縮めろよ、親友☆」


ああ、そうか。わかったぞ。これ、完全に呪いのせいだ。

おそらく二渡君とかいう人が、楓に告白かなにかしようとしてるに違いない。

絶妙なタイミングでの邪魔といい、彼の言い方といい……このままじゃまずい。

ここは私が引き留めなきゃ、そう思ったその時ー


「はぁい、そこのイケてるお兄さん達!!!! うちと一杯、飲みかわさなぁい?」


聞こえてきたその声に、どこか安心してしまう。

だってその声はいつも隣で、嫌と言うほど聞いていたのと同じで……


「おっ、お前は……!! 誰だっけ?」


「なぬぅ!? 元クラスメイトの名を忘れるかね! 普通! 超人気スーパーアイドル梨桜ちゃんですよ! 梨桜ちゃん!」

「あー、長谷部か! わりぃ、なんかド忘れしちまった!」


「何をぉ〜? 貴様らには罰として、わしに付き合ってもらうぞ~? 奢ってもらうものが決まるまで返さんから、覚悟しんしゃい!」


現れたのも束の間、梨桜は男子二人だけ背中をぐいっと押していく。

そんな最中でも、梨桜は私にウインクしてみせて……


「楓、今だよ!! ちゃんと言わなきゃ!」


「えっ、でもっ……」


「大丈夫。もし誰かに嫌われたりしても、私も梨桜も蛍も、嫌いになったりしないから!!」


かつて誰かに言われたような言葉で、彼女の背中を押す。

大丈夫、楓ならきっとー……!

私の言葉に彼女もやっと覚悟が決まったのか、ぐっと拳を掴みゆっくりと1歩踏み出してー……


「あの、よかったら、一緒に回ってくれません、か?」


止まっていた時間が、思いが動き出す。

彼女の背中はいつもよりどこか、大きく頼もしく見えたのだったー……




Ж

女子数人が、笑いながら話している。

その中にある彼女ー楓の姿を御影はじっと見つめていた。

何もせず、ただ遠くから監視するように。


彼女につけられたイヤリングの宝石は、赤から緑になったり、色の変化を繰り返している。

まるで、何かを知らせるように。


その光を、彼は手を伸ばすようにそっとかざす。

ぎゅっと、握り潰すように。

次の瞬間、イヤリングは姿形さえ無くなっていて……


「あや! やっと見つけた! もう、どこ行ってたのよ!」


どこかで、誰かを呼ぶ声がする。

振り返ると、そこには子供が泣いていた。

見つけた母親が安堵の声を上げながら、二人して泣いていて。

その光景が彼の胸を、どこかざわつかせていた。

聞いたことも、見たこともない人や名前のはずなのに、どこか懐かしさを感じさせる。

それがなんなのか、彼には思い出すことはできなくて……


「ああ、いたいた! おーーい、御影~」


その感覚は、一瞬にして消え去ってしまう。

おーいと手を振りながら、こちらに近づいてくるのはこの世界で知り合った天馬と大地だった。

二人の姿を確認するが否や、彼ー御影は密かにため息をつく。


「……またお前か、騒々しい奴め」


「探したんだぞ? どこ行ってもいないから。そんなことより聞いてくれよお。大地のやつ、あの委員長と文化祭回りたいからって俺にお願いしてきたっていうのにさ、そんなことしたっけ、とかいうんだぜ? 意味わかんなくね?」


その言葉に、御影は顔をあげる。

隣にいた大地はあまりスッキリしないような表情で、首を傾げてはうーんと呟いていた。


「本当、訳わかんない……よな。俺、なんで委員長と回ろうなんて思ったんだろう……?」


「しっかりしてくれよぉ、大地。文化祭回りたい、イコール委員長好きってことなんだろ? 委員長マジで美人だしなぁ、うんうん」


「え? 俺って委員長が好きなのか?」


「いやオレに聞くなよw まーどっちにしろ? あいつに邪魔されたしな〜あれもこれもって言うから、金が飛ぶわ飛ぶわ……」


「あー……そういえば、終始ペースに巻き込まれっぱなしだったな。彼女の……………あれ、あの子、名前なんだっけ?」


「あ? 何言ってんだよ、あれだろ、あれ! えーっと……やべ、何だっけ? まあいいっか、細かいことは!」


二人の男性が楽しそうに会話を続けている。

その内容を、彼はずっと聞いていた。

何も会話を交わすことなく、ただ無言で。

おもむろに見上げる空は赤く、綺麗な夕日に染まっていき……


制限時間(タイムリミット)まで、残り僅か………消去………開始……」


その言葉は誰にも聞こえることなく、ざわめきの中にむなしく消える。

彼の手にはかつて彼女達がつけていたイヤリングと、チョーカーが握られていたのだった……


(ツヅク・・・)

ここにきてやっと、やっっと!

御影の友達の名前が出せました。

天と地ということで、色々正反対の二人ですが

地味に御影とのスリーショットが大好きです。


そんなことより文化祭ですが、

どうしても楓がメインなので、薄くなりがちですが

六花にちゃんと主人公してもらったので

それはそれでよかったのかなと思っております


次回は11日更新。

楓の過去や、この後の話をえがきますよ!

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