19.Dokiィ‼︎ 女子しかいない海回‼︎ (※ただし脱ぎません)
夏休み
受験生という壁にぶつかっていた六花に
梨桜から海へのお誘いがくる。
初めての海に向かうと、
そこでは蛍が海の家で手伝いをしていた。
蛍の力になるために、3人も手伝うことに……
「へいおまち~、焼きそば大盛りね~」
「お釣りが二百円になります。ありがとうございました」
「梨桜~これ、三番に頼むわ~!」
「ほいほーーい!」
目まぐるしく、料理や人が目の前を通り過ぎてゆく。
時期が時期なだけあって、海の家にはたくさんの人が出入りを繰り返していた。
私は接客、梨桜は運搬、楓は会計とそれぞれ分担をわけ、ゆっくりではあるがこの場に慣れようと頑張っている。
と、言っても戸惑っているのは私だけのようで、2人は恐ろしいほどの順応性で手慣れているように見える。
ほんと、改めて思うけどこのメンツって……
「……やっぱ私、とんでもない連中とつるんじゃったなぁ……」
「ちょっと六花ちーーん? 何ぼーってしてるの! 遅いってクレーム飛んできてもしらんぜよ~?」
「わ、分かってるよ! あ、いらっしゃいませ〜」
「うんうん、その意気その意気! ほい! かき氷ブルーハワイ味、いっちょあがりぃ~!」
この人達、本当に同じ人間なのだろうか。
たまに、そんなことを考えてしまう。
住む世界が違いすぎることなんて、あの時から分かっていた。
それでも気にしないと言ってくれるならと、彼女達に甘えてしまっているのも事実。
だからこそ、何か恩返しをしたい。そのために呪いもとこうって思ったんだけどなぁ……
本当、なんでこんなにうまくいかないんだろう。
「嬢ちゃーん、かわいいね~俺らと海で泳ぎに行かない?」
そんなことを考えていた矢先、だった。
レジのところにいる男性客が二・三人、楓に絡んでいた。
チェーンを腰に巻き付け、耳や鼻にもピアスを開けており、みただけでいかにもチャラそうに思えた。
「……すみません、今忙しいので」
「そんなのさぼっちゃえばいいじゃぁん? 海まで来て仕事とかつまんなくね?」
「水着とか君、絶対似合うよ~? なんなら俺らが着せてあげようか?」
前々から楓の美貌さには、よくない男が寄ってきそうだなとは思っていた。
だがこうして目の前で現場に遭遇すると、人はどうしていいか分からなくなる。
事実、みている客達もひそひそ話しているだけで助けようとはしない。
楓自身も困っている様子はなかったが、怒ったような目付きを彼らに向けている。
なんとかしなきゃ、そう思っても体が言うことを聞かなくて……
「うぇーーい、ちょっとここ通るよーーーん」
すると何を思ったのか、楓とチャラ男達の間をわざと遮るように通ったのは梨桜だった。
「なんだぁ、おめぇ。邪魔すん……」
「そっちこそ商売の邪魔してんじゃねえよ。あたしの連れに何か用か?」
楓をすっと引き寄せ、半分キレたような態度で蛍がガンを飛ばす。
その形相はここから見てるだけの私でもかなり怖くて、今にでも殴りかかりそうでー……
さすがにそれが伝わったのか、チャラ男達はすぐ退散していった。
「大丈夫か、楓。遅れちゃって、ごめんな」
「……ううん、大丈夫」
「まったく楓っぴの男ホイホイっぷりは、いつ見ても変なのしか寄ってこないわね~どうせならイケメン寄せつけなさいよ~」
「私に言わないでよ……」
梨桜や蛍が、すみませんねぇとお客さんに謝ってゆく。
ぽかーんと見ているだけの私に、楓は大丈夫だからねとでも言うように笑ってみせる。
ああ、やっぱりこの三人には敵わないや。
もしかしたら一波乱起きるかもしれないような中に、いくら仲がいい友達のためとはいえ、簡単にできることじゃない。
なのに梨桜も蛍も、関係ないと言わんばかりにかっこよく助けてあげて。その関係性が、とても私には眩しくてー……
「すみませーーん、注文したいんだけどー」
店員を呼ぶ声がする。
私も頑張ろう、そう決意しながら声がした先へ向かったのだった。
「蛍君、それにそのお友達も。今日はありがとね~本当に助かったよ〜後片付けはおばちゃん達でやっておくから、海にでも泳ぎにいってきなさい!」
人の波がやっと途切れ落ち着いた頃、同じように働いていたおばさんが私達にそう言った。
時が経つのは早いものである。すっかり空はオレンジがかっていた。
さすがに汗水垂らして働いた後だと、疲れて泳ぐ気にもなれない。
初めての海が、まさかこんなことになるなんてなぁ。
まあ、これはこれでいい経験になったって思うけど。
帰りの電車でも調べておこうかなぁ。
空を見上げながら、うんと背筋を伸ばしていると……
「人の姿なし……うちらしかいないこの空間……夕暮れという素晴らしいこの時間帯……ふふふ……この時を待っていた!!!!」
梨桜の声が、聞こえる。
何を思ったのか彼女は着ていた服をばっとぬぎ捨ててしまう。
えっ、と驚くのも束の間、その下から出てきたのは桜の柄が描かれたビキニだったのだ!
「り、梨桜! 下に着てたの!?」
「あたぼうよ! せっかくの海なんだから、これくらい当然っしょ!」
「まさか、今から泳ぐつもり?」
「だってぇこのだだっぴろぉぉぉい海を、うちら貸切同然で泳げるんだよ!? こんなん、楽しまなきゃ損でしょ! 六花ちんも休んだらおいでよ~んじゃいってきま~す!」
言うが否や、彼女は海の方へ突っ走ってゆく。
忙しかったはずのに、あの元気はどこから湧いてくるんだろう。
泳ぐ元気なかったのに、ああ言われるとちょっとだけ行ってみようかな……なんてちょっと思ったり……
「よっ、六花、お疲れ。これ店長のおごりだってよ」
「あ、ありがと」
「急だったのに、まるまる手伝わせて悪いな。楓も、あれから変なやつに絡まれなかったか?」
「まあちょくちょく声は掛けられたけど、無視したから平気」
梨桜を眺め見ていると、二人がジュース片手にやってくる。
渡されたいちご味のジュースを口にしながら、私も一息つく。
すっかり疲れた私とは裏腹に、どこか二人も晴々しい表情に見えた。
「あ、梨桜が泳ぎに行っちゃったけど……2人も一緒にどう? 私もバスまで時間あるから、少し泳ごうと思ってるんだけど」
「あー……わりぃ。あたしはまだやんないといけないことあるから、いいや」
「私ももう迎えがきてるから帰らなきゃ……ごめんね、六花。梨桜のこと、よろしく」
そう言う二人の顔はどこか暗くて、無理して笑っているようにみえて……
「六花ちーーん、泳がんの?? めちゃ気持ちいいぞ〜? はよ着替えてきなよ〜」
梨桜が呼ぶ声がする。
若干後ろ髪引かれながらも、私は返事をしながら着替えに移動した。
この時、私は何も知らなかった。
もうすでに、いやこの時よりも前に少しずつ何かが起こっていたことにー……
Ж
同時刻―とある屋上にてー
彼―黄菖御影は、一人夕暮れにたたずんでいた。
腕につけてある時計を通じキーボードのような画面で、何かを打ち込むように指先を動かしている。
画面上には何語で書かれているのか分からない、不可解な文字が並んでいた。
あくまでも、こちら側からの話だが。
「以上が、今泉六花をはじめとした少女達の動向です」
『ありがとう、今確認するよ………へぇ、随分と楽しんでるんだね』
「……少なくとも、呪いで焦っているのは今泉だけのように見えますが」
彼が見渡せる場所ーそこからは、あの四人の姿が確認できた。
楽しそうに海で泳ぐ者が二人に、迎えの車に乗り込む者が一人、それを見送る者が一人。
何とも呑気な奴らだ、御影はそう思いざるを得なかった。
神様が呪いをプレゼントする、はたから聞いたらおかしな話である。
とかなければ、自身へ災いをもたらす。
その言葉を真に受け、とこうと必死だったのは一人だけだった。
呪いをとく条件しか、違いはないというのに……
『そろそろ牙をむこうか。御影』
声が、低くなった気がする。
意味深な発言に思わず顔をしかめるも、彼女の言葉に耳を貸した。
「……と、言いますと」
『こんな呑気に過ごされると、こっちの退屈しのぎにもならないじゃん? だから、彼女達に教えてあげるんだよ。神の呪いは、君達が思っている以上に残酷なものだとね』
その声と同時に、映し出された画面が消える。
腕についていた時計は、何事もなかったかのように時を刻み続けー……
「……皮肉なものだ。敬う存在である神に、人間が弄ばれるとは」
一番星が、空に浮かんでいる。
黒く染まっていく上空を見上げながら、彼はそっと手を前にかざす。
手のひらの上には黒い、禍々しい球体が現れ、彼はそっと祈るように目を閉じたのだったー……
(ツヅク……)
海回なのに誰も脱がない……なんて
男性読者は思っているんですかね?
一応タイトルに遊び心として注意書きはしましたが
二人は脱ぎましたよ!
……それで我慢してください笑
お祭りが楓なら、海は蛍回だと思ってます
それぞれお似合いな姿があって本当にいいですね
え? 梨桜の回はどこ、ですか?
梨桜はどの話でも中心になることが多いので
実質六花より主役だと私は思ってます笑
今回、夏休みということで
かなり勢いをつけての投稿だったので
次回の更新は少し空きますが、22日更新します。
ついに何かが動き出すー……




