17.浴衣姿の君と三つの灯火
季節は夏。
期末テストやクラスマッチも終えた六花達は
夏休みへ突入する。
梨桜の提案のもと、
7月末に行われる夏祭りに四人で行くことに……
「いいかね、六花ちん? 金魚はね恥ずかしがり屋だからね、すみっこの方に泳がせるのがポイントなんよ? 集まってきたかなぁって時にこうやって……」
ポイを片手に、下をぺろりと出した彼女が今だ!と大きな声を上げる。
すくい上げたかと思った金魚は水をはね、ポイの上からすっといなくなってしまった。
「あーーーー!!!! なーーーぜーーーだーーー!」
「……泣く子も黙る金魚すくいの名人、なんじゃなかったの?」
「うっさいわねぇ、もう! おっちゃん! もっかいだ!」
一体金魚すくいでいくら使うんだろう、そんなことを思いながら苦笑いを浮かべる。
梨桜を筆頭に動く私達は、今は金魚すくい屋の前にいる。
なんでも自分は金魚すくいの名人、なんだとかで私にとってくれると言い出したからだ。
が、実際は口から出たでまかせだったのか、現在何回目かわからないほどチャレンジしている。
別に金魚がほしいと言ったわけじゃないから、私はもういい気もしてるんだけど……言ったところで、取れるまでやるってうるさいんだろうなぁ。
「梨桜〜六花〜かき氷並んできたぞ〜って……まだやってたのか、梨桜。そんなんじゃ、取れるもんも取れないぞ?」
そこに屋台を見回ってきたであろう蛍が、かき氷を二つ持ってやってくる。
私に二つ分渡そうとしたのも束の間、梨桜はすくっと立ち上がり、自分の分のかき氷を無理やりぶんどった。
「そこまで言うんならほたるんお手本みしてよ! なんかコツとかないの!?」
「そうだなぁ〜……金魚を狙う時は、後ろからそっと着いていく感じでやるんだよ。んで、ポイを水に少しつかしながら、こうやって……っと!」
あんなに苦戦していた彼女とは逆に、蛍は慣れたような手つきですくいあげる。
わずか一瞬たらずであっという間に赤と黒の金魚が二匹、皿の中に吸い込まれるように泳いでいた。
「ほい、いっちょあがり!」
「キィーーーーー!!! この野郎! これだからイケメンは!!」
「蛍、すごい手慣れてるね……あんなに梨桜が苦戦してたのに……」
「あたし、下に妹がいるからさ。よく取ってって頼まれるから、それのおかげかな。ほい、六花」
へえ、妹さんいるんだ。まあ確かに面倒見いいもんな。
こんなかっこいいお姉さんいたら、妹さんからも憧れの的なんだろうなぁ。
私は若干妹の方がしっかりしてるし、私より友達多かったりするから、姉として威厳がないというか……
「まだここにいたんだ、二人とも。出店、あっちにもたくさんあったよ。はい、これ蛍の分のかき氷」
「悪いな、楓。持たせちまって。そいや、楓は食べたいのあったか? なんかみつけたらなんでも言っていいぞ?」
「大丈夫、梨桜が分けてくれてるから……ねえ蛍、射的とか得意? あれ、取る事ってできそう?」
楓は様子を伺いながらも、すぐそばにあった射的屋を指さす。
彼女の指の向こうには少し大きめな、ひよこの人形があってー……
「え〜めちゃんこ可愛いけど、あんなん無理ゲーじゃね? 楓っぴ、あれ欲しいの?」
「欲しいって言うか、本当に取れるのか疑ってるだけ」
「あるよね~……並べてるくせに、取らせる気ないだろってやつ。さすがにあれは……」
「あのひよこだな。よっしゃ、任せろっ!」
そういうと蛍は射的屋にいるおじさんに代金を渡し、銃を構える。
片目をつぶって狙いを定め、集中するかのように一点をみつめている。
彼女が引き金を引いた瞬間、球が勢いよくひよこにあたり、一瞬で倒れてしまったのだ!
「っしゃ! あったり〜!」
「こりゃ驚いたわい。兄ちゃん、うまいね〜」
「悪いな、おっちゃん。これはもらってくぜ?」
男の人じゃないんだけどなぁ。
どうやら彼女は男に間違われても訂正はしないようで、嬉しそうにひよこを受け取る。
さすが蛍、と言うべきなのだろうか。これも妹さんがいる影響なのかな?
ほんと、何やらせても様になるなぁ。これじゃ女の人に好かれる理由が、嫌でも納得するよ……
「楓、これやるよ」
「え……あ、私取れるか疑ってただけだから、せっかく取れたんだし蛍が持って帰ったら?」
「あたしはー………こういうの柄じゃないからさ。それに、こういうの好きだろ? お前」
優しい笑顔で、ひよこを差し出す彼女に楓は遠慮しがちひよこを受け取る。
それでも小さな声でありがとうと放つ彼女の顔は、照れているかのようにみえた。
「おっと、もうこんな時間だ。みんな、ちょっとうちに着いてきてほしいんだけど、いいかね?」
夏祭りを堪能しまくった私達に、梨桜がこっちだと先をゆく。
彼女についていくがまま川より先に行った先、そこには小さな公園があった。
祭りをやっているだけあってか、周りに人の姿はなくって……
「レッツ、線香花火うぇーーーーい!」
一つの花火に火をつけ、右に左に動かしてみせる。
元気だなぁと思いながらも、私は静かに燃える火をみていただけだった。
「梨桜、危ないでしょ。子供じゃないんだから、少しじっとして」
「えー線香花火もらったらしたくならない~? これ〜」
「子供の頃はよくやったなぁ。母さん達に怒られたけど」
「……それで? なんで私達、人目のないとこで線香花火やってるの?」
誰も触れてくれないから、仕方なく私が話題を切り出す。
公園に着くが否や、梨桜が取りだしたのはコンビニなどで売っている花火セットだった。
こうしてやっていると小学の頃とかに親が買って、よく庭で近所の子達とやっていたのを思い出す。
まさかこの歳にもなって花火セットにお世話になるとは、思っても見なかったなぁ。
「楓っぴが花火まで見れない、って言ってたんでぇ買ってきちゃいました☆ うちら四人だけの特別花火! 的な感じあってよくね?」
「……なんかごめんね、私のせいでこんな地味になっちゃって」
「いやいや、楓のせいじゃないよ」
「あんまり気にすんなよ。あたしは好きだぞ? 線香花火。昔、よく一緒にやったの思い出すよな」
「昔、って?」
ピンク、黄色、緑に燃える火が、ちりちり音を立てて小さくなっていく。
そんな光を見つめながら、蛍が私に優しい声音で教えてくれた。
「あたしと楓、小学の頃から同じクラスでさ。家も近所で、お互いよく遊びに行ってたんだよ」
「へぇ……幼なじみってやつなんだ?」
「まあ、ね……そういう六花も、梨桜と同じ保育園なんでしょ?」
そういえば、そんな設定あったなと思ってしまう自分がいる。
何せ覚えていないのは事実だし、正直本当かどうかも怪しいところである。
事実、それを言われたことすら忘れてる始末だしね……
「……私全然覚えてなくて……多分人違いだと思うんだよね……」
「まあ4、5歳の頃の話だもんな~一緒だったとしても、一・二年だろ? あたしも楓くらいしか、あんま覚えてないなぁ」
「確かに……でも昔からこんなだったら、忘れたくても忘れられなさそうだよね」
「ちょいちょーい人の悪口いうのはどこのどいつじゃー? うちは嘘なんて言ってないのに、失礼しちゃうわね!」
彼女の言葉に、あははと笑いがこぼれる。
なんか、いいな。こういうの。
「……そういえば、どうして楓だけ浴衣だったの? 言ってくれたら、私も着てきたのに」
「まあそれもありっちゃありだけどさぁ? 楓っぴ、どんっなに誘ってもうちと一緒に行ってくれなかったんだよねえ〜毎年門限で断られ続けたし!!」
「言われてみれば、楓と行くのって結構久しぶりだったなー……梨桜、楓が行かないなら行かないって、頑なに行こうとしなかったよな」
「だから楓っぴには、意地でも夏祭りを楽しんでもらおうと思って、気分から味わってほしかったわけよ! んで、どうよ楓っぴ。うちら四人で行く夏祭り、楽しんでくれた?」
「……うん、すごく楽しかった」
四色の花火が、寄り添うように火を散らす。
その後も私達は時間が許す限り、花火を囲みながら四人で和気あいあい喋り続けた。
地味で小さな花火だったけど私にとっても、彼女達にとっても、かけがえのないひとつの思い出になったのだったー
(ツヅク!!)
余談ですが、もともとこの作品は
私がGL流行り期に書いたものでして
実は結構ギリギリまでGL作品でした。
ジャンル的には分類されるか微妙なラインですが
そのなじみもあってか、地味に作者は
蛍と楓ペアを推しております。
幼なじみと聞くだけで最強設定感増し増しですが
どこからどうみても美男美女ってのがいいですよね
あ、もちろん他のコンビも好きですよ。
次回は6日更新予定。
まだまだ夏休みは続きます!




