15.血と涙と汗を激らせ勝利を掴め!
呪いのことで精一杯だった六花だったが
もうすぐ期末テストがあることを知らされる。
楓、梨桜、蛍と共に勉強をすることで
次第に距離を深めていき……
ボールが前に、後ろに勢いよく転がってゆく。
それに追いつく間も無く、9番の人に、今度は7番の人にと渡ってゆく。
「試合終了! 勝者、2年3組〜」
笛と同時に、審判の声がする。
喜ぶ人達に紛れ私は、肩を落としながらはぁっと深いため息をついた。
夏が近づき、少しずつ暑くなってきたこの頃。
我が祇季高校では体育館やグラウンドを使って、クラスマッチが開かれている。
男女分かれて3学年クラス別対抗で行われるそれは、この高校じゃ一学期の一度しかないらしい。
前の高校の時は学期別に一度はあって、それが嫌で仕方なかったけど。
つまり私にとってこのクラスマッチが、祇季高校で行う最初で最後のクラスマッチになったわけで……
「負けちゃったね。大丈夫?」
「いやぁ………きっついね、これ」
声をかけてくれた彼女に、苦笑いを浮かべながらいう。
私今泉六花、ぶっちゃけ運動はあまり得意ではありません。
やる競技としてバスケかサッカーか選べたけど、そんなのどっちでもいいよとばかりにどちらも苦手です。
その結果、二回戦くらいで負けるっていう……ほんと、足手まといのいいところだよなぁ。
「あと一点で3回戦だったのかぁ〜惜しかったなぁ……久保薗さんもおつか……あ」
「……また呼んだ。今度からペナルティつけるよ?」
「ご、ごめん、癖でつい……改めてお疲れ様、楓」
なんだか少し恥ずかしくなって、つい頬をかく。
そんな私に優しそうに微笑んだ彼女ー楓は、くすりと笑みを浮かべた。
彼女達と出会ってまだ数ヶ月しかたっていないのにも関わらず、名前を呼びあえるくらい仲が良くなった。
特に楓とは同じクラス、ということもあり移動教室があるとよく一緒に行ってくれる。
楓も私もそんなに自分から話をするタイプじゃないせいか、たまぁに会話がなくなることもある。
けど、大抵は梨桜が来てくれるためなんとかなることが多い。
あとは須賀さ……蛍も、よくこっちのクラスに遊びにきたりするし。
「でも、六花はすごい頑張ってたと思う。私はパス回ってきても、どうすればいいか分からないことが多いから」
「いやいや、楓めちゃくちゃ作戦立ててたじゃん。指令だしたりさ。さすが、頼れる委員長だね」
「ちゃかさないでよ……そういえば蛍達のクラス、結構勝ち上がってるらしいよ。様子だけ見に行ってみる?」
そういえば蛍と梨桜は、バスケを選んだらしい。
クラスだけでなく競技も違うことを言った時には、「応援きてね!? こないとダメだからね!?」
と無駄にゴリ押しされたっけ。
仕方ないからとりあえず楓の言う通り、体育館へと足を進めていく。
入り口に入るが否や、体育館はなぜか人がたくさん溜まっていた。
「いや人多すぎじゃない……? 何が起こってるのこれ」
「……多分、タイミングがよすぎた、かな」
楓の言葉と同時に、きゃーーと黄色い歓声が湧く。
頑張れ、いけ、と応援の声が飛ぶ中、ボールを弾く音がかすかに聴こえてきた。
人の間から覗き込むと、そこには短い髪をひとつにまとめた梨桜の姿があった。
バスケボールをドリブルしているのを、敵が前でゴールを塞ぐように両手を動かす。
汗が頬を伝う中、彼女はぺろりと舐めるように舌を回したかと思うとにやりと笑って……
「梨桜!!! 回せっ!!」
同時に、声が響いた。
その声のした方向がわかってるとばかりに彼女ー梨桜は、ボールを後ろへと弾かせる。
無論その先には、蛍の姿があって……
『ビーーーー!!』
試合の時間が鳴る。
ボールは放物線を描く中、その音が鳴り終わると同時にゴールへ入った。
「試合終了! 勝者は、3年3組!」
審判の人が旗をあげる。
それと同時に、わーーっと拍手や歓声がさらに沸いて……
「………今の、ブザービーター、というものなのでは……?」
「おっ、六花!!! それに楓も!! きてくれたのか!!」
こんなに人がたくさんいるというのに、彼女は私たちを見つけるが否や手を振ってくれる。
若干の女子の視線が気になりもしたけど、彼女はそれに気づいてないとばかりに私達へ近づいてきた。
「よっ! どうだった? そっちは」
「残念ながら。蛍達はすごいね、結構勝ってるんだ」
「ここまできたら優勝あるのみだからな! 応援は頼んだぞっ」
「その前に汗拭いて。風邪ひくよ」
「おぉ、悪いな楓」
嬉しそうに笑う彼女に、楓が素早くタオルを差し出す。
その様子はまるで、スポーツ選手とそのマネージャーという感じにも見えた。
その他にも飲み物を蛍に渡していて……
「ろぉぉぉぉぉぉっかちん☆」
不意に、私を呼ぶ声がする。
その途端私の首筋につめたぁいものが肌に触れられ……
「つめたっ!! 何! 誰!?」
「おお〜見事な反応ですなぁ。強いていうなら、ひゃあっ! 的なお色気ある感じが良かったけど」
振り返った先にいたのは無論、梨桜だ。
彼女はスポーツドリンクを片手に持っていて、にひっと意地悪そうに笑ってみせた。
「ちょっと、いきなり変なことするのやめてよ」
「いやぁ〜こうすると暑さも和らぐかなぁと思って? にしても本当に応援に来てくれるとは、梨桜ちゃん感激〜〜♪ これで優勝も間違いなし! だね☆」
「また調子のいいことを……」
「梨桜〜〜お疲れ〜〜〜さっきのナイスパスだったよぉ〜」
「とぉぉぜんっ! うちのアシスト力は神レベルだからねん☆」
「蛍先輩っ、さっきのブザービーター、すっっごくかっこよかったです!!」
「おっ、サンキュー! みんなも、応援ありがとなっ」
気がつくと、蛍の周りにも梨桜の周りにもたくさんの女子でいっぱいだった。
こんなにギャラリーがいるのなら、私が来る意味はなかったんじゃないか……なんて思ってしまう。
さすが人気者、というべきか。
こりゃ、会話するのも気が引けるなぁ……
「そういや楓達のクラスの男子バスケ、すげぇって来た人達が言ってたぞ。見に行ってないのか?」
「え、そうなの?」
「そーそー。うちらもちょろっと見たけど、これがやばくてさぁ。ちょーーどナウでプレイ中だからみていけば?」
梨桜が隣のコートを指差す。
そこではうちのクラスと、一年生が戦っていた。
点数板は同点、どちらが勝ってもおかしくないとばかりにどこか雰囲気がピリついている。
そんな中、視界に入ったのは相手のゴール下にいた彼ー御影さんの姿だった。
敵チームがパスを繋いでいく中、同じクラスメイトの人がボールを奪おうと走っている。
しかし彼は、動く気すらない見受けられなかった。
「いけっ! 反撃だ!!」
そんな中、相手にボールを取られ、絶体絶命の局地になってしまう。
タイムが刻々と減る中、みんながボールを奪おうと走る。
「御影っ! 止めろ!!」
彼の名を呼ぶ声がする。
にも関わらず、彼ははぁっとため息をつくと……
「貴様らには悪いが、ここで終わらせてもらう」
誰に言ったのか、定かなものではない。
その瞬間、相手の手にあったボールは秒で彼の手に収まっていた。
相手が怯む間も無く、彼はその距離からボールを放り投げる。
投げられたボールはなぜか、相手チームのゴールへ放物線を描き……
「ゲームセット、勝者2年1組!!」
一瞬の出来事すぎて、何が起こったか分からなかった。
今……あの人、自分のゴールにいれなかった?
けれどすごいのは確かで……でも結果は負けってことになるわけで……
「みぃかぁげぇ〜! なんだよ〜今の技! ちょーーーかっこいいな!? けど相手ゴールにやったら意味ねぇだろ〜オレ達のゴールはあっちなんだからさっ」
「……もう帰っていいか?」
「御影ってば来た時からそればっかりだな。さっきまでいたのに最後はいなかったら、先生に不審に思われるだろ? もう少し我慢してくれ」
あの二人の姿、見覚えがある。
以前、私が友達できずに苦しんでいた時に、自分はできましたが何か、とばかりに見せつけてきた時にいた人達だ。
名前は……知らないけど。
「あははっ、オウンゴールとか御影さんある意味すごいなっ!!」
「すごい……っていうか……あれでよくクラスメイトに嫌われないな、あの人……」
「あの他にも人間じゃねぇって思わせる技ばっかやっててさぁ〜半端ないよねぇ、御影っちって! なんかやってたりすんのかな?」
「いずれにしても、勝ち残ったのは蛍と楓の二人だけなんだから。優勝、してよね」
楓の言葉に、もち!! と親指をぐっとたてて梨桜が答える。
それにうなずくように、蛍もにっと笑ってみせた。
なんか、やっぱりいいな。こういうの。
今までクラスマッチなんて、一人でぼーっと見てるだけの空気のような存在だったのに。
「まだ時間あるんだしぃ、せっかくみんないるんだからさぁ。あっちで少し話さない?」
「おっ、いいなそれ!」
「いいけど……あまりボールが飛んでこないところにしてよ」
3人が、話しながら隅の方へ移動する。
そんな彼女達の背中を追うように、私も後をついていったのだった……
(ツヅク!!)
前話から呪いとはあまり関係ない
平和回が繰り広げられていますが
しばらくはこんな感じになりそうです。
本当は夏休みにジャンプする気満々だったんですが
2ヶ月も飛ばすのはあんまりかなと思い
急遽書きました。
見所はなんといっても御影さんと蛍です。
御影さんの友達の素性も明かしてあげたいこの頃。。。
次回は29日更新。
夏休みがやってきます




