1.主人公は友達が出来ない。
心臓が、バクバク鳴っている。
音を静めるかのように息を吸って吐いてを繰り返し、自分を落ち着かせる。
大丈夫、何を言われても私は平気だ。
何事もなく、ただ普通に……普通にやり過ごせば……!
「お、おはよ~~ございま~~す」
微妙にがさついた声、はっきりと聞こえたか分からない挨拶が教室に響く。
わいわいはしゃいでいたみんなの目線が、一気に私に向いた。
その視線が、重い空気感が、嫌というほど私にも伝わって来て……
「あら今泉さん、おはよう。体調はもういいの?」
「あ……はい、なんとか」
「そう。今から朝礼始めるから、席について」
「は、は~い」
教卓にいた先生に言われ、おずおずと席の方へ移動する。
何人もの視線の中を、腰を低めに歩いていく。
「ねえ、誰だっけ、この人」
「転入生じゃなかったっけ。ほら、入学式まで出ずに帰った」
「あー! それか! えっと……名前、なんだっけ……?」
仲がよさそうな女子生徒同士がひそひそ話していたのが、私の耳にまで入ってくる。
うん、そうなるよね。
想定していた会話すぎて、むしろうなずいてしまう。
ただ、私が聞こえていない声でしゃべってほしかったかな。しいて言うなら。
今泉六花、17歳。
祇季高校に転入してきた、三年生。
転入初日にして、体調を崩すという、前代未聞のことをやらかした張本人です。
自爆すんなよ、って言われてもしたくなってしまう。
やっとのことで出た始業式、初ホームルームを最後にやむなく早退。そこからよくなることなく一週間……。
つまりみんなにとっては、一週間ぶりに転入生と対面することになるのである。
そして私は、せっかくの友達をつくるチャンスを棒に振ったのだ……!
……今、だから何って思いました?
まあね、転入生がクラスに溶け込めないなんて、あるあるすぎて同意を求めろなんて無理もない話ですよ。
だが、私は違う。
転入生だから友達ができるか不安、だけですむはなしではない。
何を隠そう、この私………友達がいないのである。
え、そんなことってあるの? 昔のこと覚えてないだけじゃないの?
なんて、言われてもしょうがない。
だが、悲しいことに紛れもない事実である。
携帯の連絡先は家族だけ。卒アルで誰かと撮った写真は、撮らされたものくらいしかない。
班やグループ活動も余ってばかり。入れてもらえたとしても「話に入っていけない可哀想な子」としてみられるだけー………
別に、人自体が嫌いなわけではない。ただ、話すことが苦手なだけ。
特に興味があることもなければ、好きなアーティストもいない。
私には、話題のネタになるようなものがこれっぽちもないだけなんだ。
好きなものなんてなくたって、作ろうと思えばいくらだって話題は作れる。
だが、なんだかんだで高校三年生。さすがにここまでくると、作んなくてもいいかな~とか思ったりもするけれど……
「そんなことよりさ、朝礼が終わったら購買いかない? 昼ご飯忘れちゃった!」
「いいね、いこいこ!」
ただね、転入初日だし? せっかくの新生活初日だったし? もしかしたらあの輪に入れたのかなぁって思うと複雑なような……そうでもないような……
まあ、やらかしてしまったものはしょうがない。
過ぎたことを悔やんだってどうしようもないことだ。
最後の高校生活、今は普通にこの学校に溶け込むことだけを考えよう。
友達なんていなくったって、私は充分に楽しんでいける。今までも、これからも。
そう思いながら、ゆっくり椅子に腰掛けようとすると……
『いい人、み~っけ♪』
かちりと時計の針が、一秒進む音が聞こえる。
ほんのわずか、一瞬の出来事だった。
周囲の音は止まったように鎮まり、色づいていた物すべてがモノクロと化し……
「……え? なにこれ」
気が付くと、世界の色は失われていた。
(ツヅク……)
初めまして、Mimiru⭐︎です!
9作品目となる今作は、
前作よりファンタジー感があるものになります!
これから始まる物語、
はたしてどうなるのかお楽しみください!
次回は2日更新!
六花の身に何が…!?