81 決戦は夜から
夜の食事は腹5分目
風呂には既に入っている
洗い髪も乾かして纏める
わからないくらい薄く化粧を施して
香水は嫌いだからつけない
服は甘くもない露出も多くない ふわっとした戦闘服
籠のステンレスボトルには冷えたオレンジ水
戦闘準備 完了!シャキーン
今夜はバルディン様へのお返事をすべく戦場《温室》へと向かうのだ
夕食後すぐに温室へ向かった
多分まだ早い時間だ 食堂はこれから人が入り始めてる音がする
すーはーすーはーと息を整える
外はもう暗い 電気をつけようかなと思ったら 丁度電気がついた
奥まった入口にバルディン様が立っている ああ つけてくれたのね
バルディン様の格好は風呂上がりで普段着を着崩した感じ 胸元のボタンが開いている 何かフェロモンが出てそうだよ
「こ こんばんは」
うおう 声が震えてる
深呼吸 深呼吸
バルディン様は一瞬表情が止まって
そのあと笑顔で
「お待たせしてすみません 冷えてないですか?」
武者震いじゃい
「はい」
「奥の休憩場所で話しましょう」
平坦な小道なのだから 普通に歩けるのに バルディン様はエスコートの手を差し出す
仕方ない腕を軽く引っ掛けてと ハイ連れてってください
休憩場所は円形のベンチ
バルディン様が私を座らせる ご自分はすぐ横に座った うーん 近い
時計で言うと丁度2:00の形?
長針はバルディン様
短針は私
...落ち着いて話すにはもう少し距離が必要な気がする
私は立ってから
「バルディン様はそのままで」
距離を取って5:00の位置に座り直した
バルディン様困惑
私は構わず
「昨日の返答をする前に お話を聞いて欲しいのです」
「はい 伺いましょう」
「私はご存知の通り 異世界から来ました 私は自分の身を守るために 言わなかった事がいくつもあります」
「どうぞ」
まずライトな申告から
「私のステータスには 時空間魔法士とありますが もうひとつ 聖女とも書かれてました 言ったらどうなるかわからなくて 怖かったんです...
それを隠していて すみませんでした」
ぺこり
バルディン様は ふっと
「ステータスにあろうがあるまいが 貴女は立派な聖女の役割を果たしてます
瘴特団の誰もが疑う事はありませんよ」
そうなんだよね
もはやその扱いなんだよね
気が滅入る
「他には?」
楽しそうに言う ちくしょう 余裕だな
「名前です 実はちゃんと苗字も持ってます 私のフルネームは 児嶋紬ーコジマ ツムギです
あまり大した事では無いと思いますが 隠すのもなんなので この場を借りて」
バルディン様 意外そうに
「では コジマ殿が 正しいと?」
「いえ ファミリーネームが児嶋です
向こうとこっちは 読み順が逆なんですよ」
「...ツムギ・コジマ ですね
覚えました 教えてくださってよかったです」
「あと」
これが結構重要だ
「私の年齢ですが 今19歳で間違ってはいないのですが」
うう 苦しい 思わず 下を向く
「召喚された時は 31歳でした
こちらに来て
魔力のコントロールが出来ない当初 知らずに自分の体を若くしていたのです」
ちらっ
薄めでバルディン様を見る
...あまり驚いてはいない?
「驚かないんですか?」
バルディン様は
「いえ 少しだけ驚いてますよ
でも予想はついてたので やはりなと」
え どこで?
「そそそそれは 一体」
ニコニコしながら
「まず 貴女には歳の離れた弟さんが居て その弟さんはもう結婚してるかも とおっしゃってました」
「あ」
「まずこの国でも王族でもない限り 未成年の婚姻はないので 弟さんは成人しているのかなと 従って貴女は申告した19歳よりも年齢は上な筈ですよね」
うわー やっちゃったー
「それと酒盛りの時ですね ツムギ殿は仕事帰りによく飲んで帰ったと言ってましたが 去年までこの国での未成年が飲んで帰ると言うのは なんとなくおかしいなと」
おおう
「あと酒の飲み方ですかね 酔いにくい飲み方を まるで昔から知ってるみたいに飲んでましたから 堂にいってましたし」
ぐさっ ぱたり 頭を膝に置く
バルディン様は楽しそうに
「でも私より上とは思わなかったな
そんな事で 気持ちは変わりませんよ?」
でもさあ
「31って 騙されたと思いますよね... 12もサバ読んでた訳ですから...」
「関係ない」
ん?声が近い
顔をあげたら近寄ってる
位置関係の形が5:10になってる
「私は今29歳です 今の貴女から見て 対象外のおじさんですかね?」
うわっ
「い いえ そうは 思い ません が」
「じゃあ頼りない歳下男ですか?」
「...いいえ」
「よかった 他には何が?」
ここからも肝心だ
「隠した事では ないの ですが お願いが あります」
「はい 何でも」
息をすぅと吸う
落ち着け 落ち着け 立て直せ
「私は この国の生活や文化に疎いです
未だ 習慣に慣れない所も多くあります
だから その不安を無くしながらでないと 先に進めません」
「? 具体的には どんな事でしょう」
えーーそれ言わせるのーー?
しばらく考えて 諦めた様な 照れた様な表情になる
「た 例えば 好きな 人との距離の詰め方とか 手順とかっ?
どこまでなら 許していいのか とか どこまで断っていい とか...」
とかとか 多いな!
かあああああああ
絶対頭から湯気吹いてる!全身が震える
「それは...相談の上 貴女が理解しながらなら距離を詰めて良いと言う事でしょうか」
こくんと頷く
「...子供に一から教えるみたいなものです 絶対めんどくさいでしょう」
バルディン様は想いを馳せるように
「いえ それ 凄く楽しいと思います」
なんだよそれ
バルディン様 更に寄る 5:20分の形
「もう いいですか?」
いや待て待て待て待て
私はずざっと距離を再びとって 10:20分の形
わかりにくいな
「先のお願いに近いのですが 私の国では この国よりも考え方が ある意味緩いです
例えば 男女の友情も普通にあります
ナルディ様と私は 恋愛感情の無い友人です アナとの関係とほぼ同じです
なので バルディン様がそれを拒絶するならば 私は受け入れられません」
言ったったー!
さあ どう出る?
バルディン様は困った顔して
「それは 困りました
でも いわゆる貴女にとって 男兄弟の様なものなのでしょうか?」
「そうですね それに近いです」
バルディン様はうーんと考えて
「...いくら何でも 友情で口付け以上の事は 無しでお願いします」
それなら問題ない
「はい それはありません ...ご理解いただけますか?」
「少々嫉妬はするとは思いますが それが貴女の譲れない部分なのでしょう」
思わずほーっと胸を撫で下ろす
ロベルとの友情は確保できた
「その感じだと 一区切りつきましたかね」
「ええ はい 大きなお願いは
あとこれからは暫時相談でお願いします」
ププっと笑われる
「仕事中みたいですね」
「す すみません」
「では 私からのお願いです」
そっかそちらも希望あるよね
「はい」
バルディン様は 私の前に跪いて
「どうか昨日の返事をお聞かせください
私は狂うほどに貴女が愛おしい」
私に心からお願いするような顔つき
それを聞いて 目の前にいる人を見て
感情が昂って目に涙が詰まる
異質な私を受け入れてくれる それだけで胸いっぱいだ
「...私で 本当に良いのですか?」
バルディン様の目が強く光る
「ツムギ殿でないと ダメなのです」
差し出された手を取り 絞り出すように
「...はい 私も貴方が大好きです」
ぐいっとそのまま 手を引かれて椅子からバランスを崩す
そのままバルディン様に抱き留められた
「ツムギ ツムギ やっと手に入った」
もう呼び捨てですか いいけど照れる
そしてバルディン様は軽々と私を持ち上げて 椅子の前に立つ
「キスはいい?」
あ 改めて聞かれると こっ恥ずかしいな!
こくんと子供のように頷いて
バルディン様の大きな手が私の顔を上向きにさせる
口を寄せられる 目を閉じた
2人の体はぴったりと12:00の形に重なった
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