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68 ムギのことを考えるところから<バルディン視点>

最初に彼女に会った時

聖女とはこんなに幼いものなのか と何とも心細く思えた


だが話す内容は大人顔負け よくよく聞いたら実際に成人はしていた


まず己の才覚だけで 何もない状態から2ヶ月も生きていく事ができたのだから それだけでも凄い


王族にもあんな啖呵を切れる 度胸もある 聖女として浄化さえ行う事ができるのだから この方であれば婚姻も思うままだろう


貴族的な振る舞いはできないと言っていたが 丁寧な言葉 わかりやすい説明 控えめな笑顔 俺にはそれで充分だと思った


瘴特団の男は比較的 結婚適齢期の未婚男性が集められた

あわよくば聖女と婚姻を結び 繋ぎ止めるためだ

俺は団長という役職もあり 少々年齢が離れているからツムギ殿には除外されるだろうと思う


最初はそれで良かった

今更結婚する気も無かったし 戦場ばかり行っている男なぞ 女にとっては不安になるだけの存在だ


俺は過去にそんな経験もあって 女性に対しては構えた姿勢でいたと思う



ただ 彼女と居ていつのまにか欲が出た

話すと楽しい

顔も可愛い

笑うともっといい

頑張るところもいい


ただ 無茶をするのはやめてほしいが


それでも守りたい


愛しい


誰かの手に渡すのは嫌だ

俺が幸せにしたい

そして俺を幸せにして欲しい



10も年齢の離れたオッサンの考える事じゃないな

だからもしツムギ殿が他の若くて良い男を選ぶなら ツムギ殿が幸せになれるなら それでもよかった まだ諦めがつく


だが彼女はそんな事は必要でないと言う

将来は旅に出ると


それを聞いて絶対無理であろう予定に つい笑ったが 俺は内心憤慨した

何故1人になろうとするのだ

何故誰も必要としてくれないんだ

こんなに皆が慕って 必要としているのに


まるで誰も要らない と言っているようだった

その思い上がりに心底 腹がたった


だから振り向かせてやろうと 俺は少しずつ距離を詰めるようにした 戦術としては持久戦だ 解決すべき瘴気の事もあるしな


そんな陰湿な想いを持ちつつ ふと気がついた 東都市に来てから ツムギ殿の顔の表情が暗い?

いや いつもとは何となく違うという程度だが 疲れているのかと 無理に誘う事はしなかった


翌日は休みだから 甘い物でも差し入れよう くらいに考えてた


ただ 翌日 侍女から ツムギ殿は食欲が無いようだという 不安が募る

そしてとどめはアリアンからの報告だ


「バルディン団長!失礼します!」

ノックもなしにアリアンが入ってくる

通常の彼女では無い事だ


「どうした 何があった」

自分でも顔が固まったのがわかる ツムギ殿の事に違いない


「ムギ様が昨日から 様子がおかしいのです 食事は取られないし 部屋で用事があると言いながら 浮かない顔で外を見てらっしゃるだけでした」


「病か」


「いえ 熱などの不調がある様子ではありません 恐らく何か 思い悩んでいるのかと」


「何か聞けたか」


「ーいいえ、私では 助けに...なれませんでした」


「何か心当たりは」


「恐らく...ですが ムギ様は東都市に着いてからご様子が優れませんでした


そして 以前に聞いた話ですが ムギ様は海沿いの街で育ったと仰っています

ーこれが 原因かと」


「......そうか わかった こちらで対処しよう」


「はい!」



合点がいった

ここはツムギ殿の世界を思い出させるのだ

あんなに帰りたがってたのに 無理矢理連れてこられたのに

それでも一所懸命 この国に馴染もうと努力していたのに...!


どうすればいい

どうしたら取り戻せる?

誰もが支えたいと思うのに それもできない


何故なら彼女は今もひとりで乗り越えようとしている

何故 弱音を吐いてくれないんだ

何でも言ってくれ 受け止めるから

怒鳴られても 殴られても構わないのに


彼女にも自分にも腹が立って

どんどん思考が暗くなる


もう 限界だ

弱音を吐かないなら 吐かしてやる

頼れないなら 頼りたくさせてやる

泣けないなら 俺が泣かしてやる


ツムギ殿の部屋付近を人払いしてから

俺は覚悟を決めて ドアをノックした


「貴女を泣かしにきました」

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