鉄の処女で公開処刑された公爵令嬢は。
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私は今、ウニティー帝国公園にいます。目の前には鉄の処女、アイアン・メイデン。それから、元婚約相手の綺麗な金髪と碧眼なのに威厳のある顔つきのレイ・パッション陛下と、元男爵令嬢の愛らしい聖女の力のある緑の目とふわふわなピンクブロンドの髪を持つセイント・パッション王妃様。多くの貴族や民が心ない言葉をブロッサム・クールチェリー公爵令嬢、即ち、私に浴びせてきます。
公開処刑で、私は今から断罪されます。これ程屈辱的な事は今まででも経験したことがありません。今までグッと堪えてきた私の血のようで不吉な片方しかない赤い目から熱い水がツーッと落ちます。そして、その熱い水は私の黒い穢らわしい乱雑に肩上で揃えられた髪に……。
「ウニティー帝国の悪女を公開処刑する!」
パッション陛下がそう高らかに宣言すると、貴族や民はより一層盛り上がり、過激さを増します。セイント・パッション王妃が私の手を引っ張ります。王妃様は手袋をしていらっしゃいます。そして、私の手をとる手袋の上の水のようなものが明るい太陽に照らされています。多分、毒でしょうか。
手から何かが体に浸透していきます。やはり、毒だったのでしょうか。私の、牢に入ってから数々の拷問を受け、片目片足と触覚を失った体には、わかる事はないでしょう。私は漸く生き地獄から、解放されるのですね……。
「ブロッサム様、申し訳ないです」
パッション王妃様が私の耳元でそう囁きます。それなら、その無邪気に可哀想な物を見る目を、やめてくださいまし。その恐らく毒を塗った手を離してくださいまし。そして、この公開処刑をやめてくださいまし……! 死ぬのは良いですが、公開処刑にすることはないでしょう?
目の前のアイアン・メイデンに自ら入ります。普通なら、自ら入るような事はしないけれど、私はもう楽になってしまいたいのです。早くに終わらせたいのです。私なりに頑張ったはずの人生を滅茶苦茶にされて、もう生きてても意味がないです。今まで頑張ってきた私が馬鹿のようです。
「ふふふ、あはははははは!」
私は訳も分からず笑ってしまいました。こんな国の民の為に、貴族の為に、陛下の為に、王妃様の為に、今まで頑張ってきたというのですよ? 呆れなんて通り越してしまいます。
「この国はすぐに滅ぶ、後悔しろ! そして! 私、ブロッサムの祟りなどではない事、皆が招いた罰だと自覚しろ! 私はさっさと死にたい! 馬鹿な輩に、不幸あれ!!!」
そう高らかに私は、掠れ切った凛とした声を今までにない程の大きさで言います。今までで使った事のない言葉遣い。ずっと、強いられてきた、丁寧な言葉遣いとは全く違う、野蛮な言葉遣いを使いました。
母様、父様、ヴェルゼ。今そちらへ向かいますね。この腐った国から離れて、四人で仲良く暮らしましょう。裏切った国と義弟は家族ではないです。元々は陛下を親愛しておりました。ですが、ヴェルゼが書類仕事を手伝ってくれたりするうちに従者に向ける感情ではない感情を抱いてしまったのですよ? 家族も私を気遣ってくれました。大好きです。だから、貴方達に会うのが、楽しみです。
そして、私はアイアン・メイデンの中で苦しみながら生涯を遂げました。
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そのあとの国に起こったことは、悪いことだらけでした。先ず、陛下の代わりに私が仕事を全うしていた事によって、ウニティー帝国の政治が破綻しました。宰相様は、それはそれはパッション王妃様を可愛がっておりましたし、ほとんどの貴族達は彼女の虜でしたので、立て直しなんて誰もしませんでした。……書類の山が積み重なっていくだけ。私はその大量の書類を毎日こなしておりましたのに。
一ヶ月後、隣国、エゴイスト連邦との関係悪化。ウニティー帝国は隣国ありきで成っている国ですので、私は毎回頭を下げて、ウニティー帝国との貿易の利点や、商品などを活発に回していましたが……こちらも外交官がダメ。途轍もなくプレゼンが下手で、貴族もカンカンです。怒るなら自分で隣国へ出向けば良いのに……ふふ、そんな事も考えませんよね。
一ヶ月と三週間後。商品の価値の急落、給料の低下。……そして起こった帝国の財政破綻。国内に余りまくった商品は値下げ。給料も当然のように下がる。民は怒ります。何故給料を下げる、と。先程も言いましたが、自分で売りに行けばいいのに……。
二ヶ月後、民は一揆を起こし始めます。あらあらあら。ふふふふふ。自分達が招きましたのに、一揆だなんて……。随分と国民風情が偉いのね、頭が高いのね。ふふふふふ。
あら、一揆の中に私と家族を裏切った義弟の領地があるじゃないですか! 俺が領地を治めると言って、私に全ての物事を押し付けたあの義弟が……! クールチェリー公爵家の根も葉もない嘘を王家にばら撒いた義弟が……! 領民も領民です。義弟を信じて疑わなかったのですからね、私が一週間に一回のペースで作物の生育具合や領民の様子を見に回っていたというのに。「女如きが」って、満場一致でしたよね? なのに今では「ブロッサム様」だなんて呼んで。気分が悪いです。
あらまぁ、騎士達がどんどん死んでいるではないですか。あー、見たことがあると思えば、パッション王妃様に好意を向け、私に敵意を向けていた脳筋馬鹿ではないですか! お久しぶりです。疲れ切って目に光がないではないですか。そんな姿、パッション王妃様が悲しみますよ〜? あれ、何か囁いていますね。「ブロッサム様の祟り……か」違いますよ? 皆様の招いた事を祟りにしないでくださいまし?
あ、宰相様が何やら揉めています。国民が、「ブロッサム様に栄光を!」だと言っております、あらららら、確かこの国民散々私を罵った方ですよね、今更そんな事を言って、馬鹿なのですか? あ、宰相様、殺されました、御愁傷様です、余り痛くなさそうなのが癪に障りますが、ね?
おっと? 隣国が国民に加担しました。流石は利己主義国家。自分ファーストな国なので、国民全員奴隷堕ち……なーんてね?
ふふふふふ、陛下と王妃様は捕らえられまして、牢獄も別なのですね? しかも、現状が見えないほどに。あらあら、陛下は拷問にかけられていますね、私よりもかなり軽めですが。王妃様は……あら! 護衛さん達の遊び相手? 子供、何人堕ろすのかしら……でも、私の時より護衛さん方の人が少ないわねぇ……もっと人数が増えないかしら! ふふふふふ!
御二方とも牢獄で死んでしまいました……早すぎません? 私は耐えましたよ? さっさと死にたかったですが、王妃様という癒し手が死んでも蘇生してくれるんですもの! 気づきませんでしたか? 精神と肉体の肉体の方だけを治されて、どんどん精神が切り刻まれて、死ねない環境を作っている事を。
あら、隣国が国を支配してしまいました……そして、国民全員奴隷落ちしてますね! 予言通り? でも、皆様軽い軽い! その程度で「私は不幸だ」と言っていらっしゃるのですか? 馬鹿ですねぇ! あら、言葉が乱れてしまいましたわ。
あらあら。国民達がどんどん天に召されているようですね? 自分は不幸だと、口を揃えて言ってらっしゃいますね? 残念ですが、皆さん全員私を見捨てたのですよ? それで不幸って……どの口が言えますか? 全員に私は助けを求めましたよ? この言葉通りです。国民全員に、個別で手紙を出したのです。なのに、誰一人返事なんて下さらなかった! 無実でしたのに……ね?
あぁ、そういえば罪状を話していませんでしたよね? では言いますと、「王妃様への嫌がらせ」「公爵家の国への謀反」の二本立てです。「王妃様への嫌がらせ」について言えば心当たりは御座います。婚約者のいる方にベタベタされては困ります、と。国の方針で結ばれた私と王太子様との仲を切り裂くのはいいですが、扱いは側室や妾としてになりますよ、と。正論だと思います。
「公爵家の国への謀反」については義弟のでっち上げです。証拠も全て偽りのもの。そんなの見ればすぐにわかるのに、この国の元貴族は信じてしまいました。やはり、この国は大丈夫なのでしょうか……? 滅びましたけど。
「なぁ、この国の人達、天国にする?地獄にする?」
あら、かっこいい低音イケボの、ヴェルゼの声が耳に入ります。声も顔や体型も、世間的に言えば悪い方でしたが、天国に来て、実は閻魔だったんだ、と教えてくれたヴェルゼ。変化の術を解き、赤い爽やかな髪と眼光の鋭い目を持つイケメンを見たとき、びっくりしました。けれど、それは紛れも無いヴェルゼで……。
話を戻しましょう。
「やっぱり、ブロッサムは慈悲深いから全員天国……とか?」
「全員地獄です♪」
「あー、うん、そうだよな……え?」
「全 員 地 獄 で す♪」
目を見開くヴェルゼ。無理も無いでしょう。まぁ、かなり私優しい人ですから、ね?
「……ぷっ、あはははは! ブロッサムには敵わねぇ! わかった。全員地獄!」
ヴィルゼは毎日のように「愛してる」と言ってくるから私も大好きです。多分私はメンヘラなのでしょう。愛されてると思う時が最高の至福だったりします。
ふふふ、私以上に苦しむことを、全国民に祈っていますよ?
閲覧有難うございました!
ヒロインちゃんがたくましすぎる。
その上にメンヘラは……良いな。個人的に好きです、えへへ。
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12/16 19:43 誤字報告ありがとうございます。訂正させていただきました。
12/19 13:43 誤字報告ありがとうございます。訂正させていただきました。