不思議な力を持つ彼女がその力を失う時
森の深くに1人の女の子が住んでいました。
彼女には家族はおらず、いつも1人ぼっちでした。
でも、彼女は寂しい思いなんてしたことがありません。
それは、彼女には不思議な力があったから。
彼女の力は森の動物達の気持ちが分かることでした。
そしてその力を持つ人間は彼女が最後の1人でした。
彼女は1人だけれど動物達がいたので寂しいなんて思いません。
ある日、雨が激しい夜に男の子が彼女の森へ迷いこんできました。
彼女は雨が止むまで彼と色んな話をしました。
動物達とは違う話題に彼女は外の世界への憧れを持ちました。
雨が止むと彼は彼女を外の世界へ誘いました。
彼女は動物達の顔を見てから彼を見て言いました。
「私はここで生まれてここで眠るんです。
あなたはあなたの故郷で生まれて故郷で眠るように。
だから私はここから離れません」
彼女にはこの森で生きるということしか考えられないのです。
「君の気持ちは分かるよ。
でも、君はこの場所しか知らないからだよ。
僕は色んな場所を見てきて気づいたんだ。
自分の視野を広げたとき、自分の選択肢は1つじゃないことに」
彼は彼女の目を真っ直ぐ見て言った。
彼女だってここから離れて色んな場所を見たい。
でも、ここには彼女の大切な動物達がいる。
彼女の力は動物達がいるからこそ役に立つ。
彼女はこの森を出たら自分がどうなるのか心配で彼と一緒に行くことを断った。
彼はそんな彼女を置いてまた旅をするため森を出ていきました。
そして彼女はまた、いつも通りの毎日を過ごしていました。
彼女の心の奥深くには彼への思いが眠っていました。
そんなことは知らない彼女。
でも森の動物達は気づいていました。
そんな彼女にリスさんが問いかけました。
『君はなぜこの力があるか分かる?』
『私が1人にならないようにだと思っているよ』
『うん。そうかもしれないね。
答えなんていくつもあるかもしれないけれど僕はこう思う。
相手の気持ちが分かることによって君はその人の為に素早く動ける』
『口に出さなくても分かるっていいことだよね』
『いいことだけど』
『だけど?』
『相手のことばかりで君自身の気持ちに気づけなくなってる』
『私の気持ち?』
『君はあの日、彼と一緒に行きたかったんだよね?
君は外の世界も見てみたいでしょ?』
彼女はリスさんの言葉で何かに気づきました。
そう。
自分の本当の気持ちに。
「私、外の世界に行ってみたい」
彼女はそう呟きました。
「それなら僕と一緒においで」
彼女は声がした方を振り向くと、そこにはあの日の彼が両手にたくさん何かを抱えて立って微笑んでいた。
「なぜあなたがここに?」
「君の為に、いろんな世界の物を持って来たんだ」
「えっ?」
「君がこの場所から離れたくないのなら僕が外の世界の話や物を君に教えてあげようと思って」
「私の為に?」
「そうだよ。
それに、僕の為に」
「私とあなたの為?」
「また君と会いたいと思ったから、君に会う為に来たんだ」
するとそれを見ていたリスさんが彼女の肩に乗って
『僕達のことは気にしなくていいんだよ。
君は君。僕達は僕達。彼は彼。
みんな思いは違うから。
相手に合わせたり、相手に合わせてもらったり、それが生きていくことで大切なことなんだ。
君はもう、僕達に合わせなくていいんだよ。
君に合わせてくれる彼がいるんだから』
そう言った。
彼女は彼の目を見て
「私を外の世界へ連れてって」
笑顔で言った。
彼は
「僕は君が迷わないようにずっと一緒にいるよ」
と笑顔で言った。
『森のみんな、今までありがとう。
いってきます』
彼女がそう心で囁くと
動物達は鳴き声をあげるだけで彼女には動物達の気持ちは聞こえませんでした。
でも、彼女には“いってらっしゃい”と言っていると分かっていました。
世界でたった1人。
動物達の気持ちが分かる女の子はもういません。
もう、誰1人として残っていません。
でも、相手に合わせたり、
相手に合わせてもらったり、
そんなことができる人は世界にたくさんいます。
誰かの為に。
自分の為に。
思い、思われるそんな関係を築けることがどんな力よりも強いのです。
「君の為に」
「あなたの為に」
「「自分達の為に」」
彼女と彼はいつまでも一緒に思い、思われる関係を築き続け、
いつまでも幸せに暮らしました。
『おしまい』
読んで頂きありがとうございます。
今回の作品は自分の殻に閉じこもっていることに気づく彼女を書いてみました。
今のままでいいと思いこんでいる彼女が殻を破ったとき。
周りの対応は彼女をちゃんと受け入れてくれた。
そんな優しい作品を書きました。