エピローグ
一応今回で完結となります。
たくさんの方々にお読みいただけたようで、投稿するのが楽しかったです。
これからも様々な作品を投稿していくので是非よろしくお願いします。
あいつは昔から素直じゃなかった。
高校の入学式で見た時は、本当に心臓が止まるかと思った。
もう会えないと思っていたのに、呼び出された名前でハッとなり、気づけば幼い面影を残したあいつの姿をいつも追っていた。
彼はいつも弱くて、いつも私よりも先に泣いて、でも誰よりも優しくて。
だから、私はそんな彼を愛し弟みたいだと思ってたけどいつの間にか好きになっていた。
それなのに彼は鈍感で……だから、私はちょっかいばかりかけていたんだ。
――紫莉との別れの日。
私は大宮駅にいた。
彼女が引っ越す新潟行きの電車のホームで、最後の一時を過ごす為だ。
私達は小学五年生の頃からずっと一緒だった。途中で何度か別々のクラスにはなったけど、中学高校と同じ学校で、身近に互いの成長を意識し合って生きてきたのだ。
幼い頃、彼が転校していなくなって、入れ替わりのように現れたのが紫莉。私に初めて出来た同性の親友だった。
沢山の友達はいたけど、紫莉は特別で、上辺だけでなく腹の底から割って話せる感じがするからすぐに私達は仲良くなった。それはもしかしたら、彼と出会った時の境遇と似ていたかもしれない。
彼もまた、同じように本音を隠すのが下手で、だから私は二人のそんな所に惹かれたんだと思う。
海里と再会して、そして紫莉と別れる事になった。
更に……紫莉と同じ人を好きになるなんて。
どちらも私が想像しなかった事態だ。クラスの立ち位置から言動まで、今まで細心の注意を払って動いて来た私でも、全くの計算外だったのだ。
第一、あの孤高の強さを持った紫莉が海里に惚れるなんて……大誤算だった。
私は多分、嫌な女だ。紫莉に何も相談しなかったし、彼をからかってばかりで想いの一つすら伝えない。
決して自分からは何も言わない癖に、相手をけしかけて向こうから言ってくるのを待ってばかりだった。
紫莉はそんな私の心に秘めていた本音すら見破り、口にして言ってのけた。
そして、最後に言った言葉。
――勝負はこれからだと。
ホームでしばらく話し込んだ後、紫莉は言った。
その勝負が一体何なのか、何も言わなかった紫莉。私も当然その意味を口にしない。
でも心の内では、それがどういう意味か分かっていた。
それは多分、紫莉もだ。
だから、私が負けないよとだけ言うと、紫莉は白い歯を見せて笑ってくれた。
私は紫莉より頭は悪いし、心だって弱い。
紫莉のように逆境に一人で立ち向かう勇気だってない。
一見強く振る舞っていても、結局は本音を隠して、そうやって皆に合わせて生きてきたから出来る訳が無い。
ずっと紫莉みたいになりたくて、それでもなれなくて、だから妥協して自分だけが都合よく生きれるように明るい顔して生きてきたのが私だ。
だから、紫莉に勝てるとは思えない。彼女の方が一途な心をでっかい塊にして、はっきりとした形にして相手にぶつける事が出来るから。
多分、私は本気になった紫莉には何をやってもどの分野でも勝てないだろう。
そう分かってる。
――でも。
あーしだって、目指す場所は同じハズなんだよ?
待ってろ親友。青い空を見上げる。
私はバカでいろいろな事も分かんないけど……
ずっと切れていて、高校でも再会してそれっきりだと思ってた海里。
そんな幼馴染との距離をまた近づける事が出来たのは紫莉のお陰でもある。
少なくとも、私はそう思ってる。
だから私は、その青空に『ありがとう』とだけ告げた。
風がそよぐ春の昼下がりの事だった。
水梨海里はスマートフォンを取り出し、時刻を見てすぐにポケットに戻す。
どことなく柔和な顔立ちが緊張で固くなっていた。
そわそわしているのは傍目にも分かる程だった。
高校をこの春卒業し、彼は都内の大学へと進学する。
初めての一人暮らし生活から数日が経ち、身の回りは大分落ち着いた。
そんな時、彼女から連絡が来たのだ。
場所は上野駅、その眼の前にある緑豊かな公園が待ち合わせ場所だった。
春休みシーズンという事もあり、混雑した公園の入り口。
親子や同じような若者が行き交うその中心で、彼は一人待ちぼうけを喰らっていた。
「待った?」
不意に、脳天を直撃するような声がした。
振り返った先には、彼女がいた。
逆光を浴びて、顔立ちは影になって見えない。
でも、彼にとって彼女はとても尊く、待ち焦がれた存在だ。
「じゃあ、行こうか」
そう言って彼は手を差し出す。
その手を求めて彼女は歩き出す。
二人の靴音が春風に乗るように、心地よく響いた。




