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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ハンドレッドキラー

作者: 秋

「この施設は私が考えた侵入不可能な場所のはずなんだ。安全な場所なんだ」

「だったらこの停電はどう説明するんだよ!」


 怒鳴る声に影も見えないほど暗いこの空間が無音になり、緊張感と恐怖心によって体が支配される。体は震え、自らの呼吸音だけが耳に入る。

 体が動かない数人を差し置いて、ガンッと金属音が部屋に響くと共に一人の女性が声を上げる。


「何か音がしたわ! 殺人鬼が刃物を取り出した音よ来ないで!」

「落ち着いてください!!」


 冷静を取り戻すように幼い声を張った、身長もまだ低い青年の手から光が灯っていた。マッチ棒だ。先程の眩い光で包まれていた光に比べると非常に小さく暗い光だが、今のこの空間ではそれさえ大きい光に感じた。その光に視線が集まり一同が沈黙していると、青年は次は優しい声で話す。


「僕が今からこの暖炉に火を入れて光を灯すので安心してください。ここに殺人鬼はいません、きっとトラブルですよ」


 マッチ棒が入り薪が燃えていく。燃える薪に従うように光は暖炉の周辺を灯した。薄暗いが周囲の状況を確認できるようになった時、壁に刺さっている物に気づき、青年は腰を抜かした。動揺しながら指を指した先には、腹部を棒が貫通し、壁に張り付いた死体。

 数人は息もつけないほど驚き、唾を飲み込んだ。そして一人の女性が口を開く。


「い、出内(いでうち)優人(ゆうと)はん、やんな?」


 少しだけ見える顔や服装から推測した女性は死体の身元に気づき声に出す。

 マッチ棒を箱ごと青年から貰い、一人の男性が顔を確認すると出内優人の死体であることが確定した。




 連続殺人を繰り返している殺人鬼が存在すると、警察の中では有名になっている。理由は今まで95人を殺害して犯人はまだ捕まっていないと聞けば嫌でも有名になるだろう。

 連続殺人と決めつける根拠は2つある。

 一つは殺害前に殺人予告が届いている事実が存在すること。しかし、殺人予告の届いた被害者は揃って警察に相談をしてこない。詳しく調べると全員、何かしらの犯罪や、違法をしているという結果だった。

 もう一つは、殺人現場には被害者の血で数字が壁や地面に書かれていることである。その数字は最初は100、その次の現場では99と、一つずつ数が減っていることから100人の人を殺すことを目的にしていると推測されている。しかし、稀に数字が飛んでいる時があるらしい。その時はターゲットが殺人鬼以外に殺された場合だと予想されている。


「探偵さん。連続殺人鬼の予告を受けた人から是非来て欲しい、と招待状が届いてますがどうしますか?」


 一人の青年が【探偵】と呼ぶ相手に尋ねる。佐藤(さとう) (しゅう)。数々の事件を解いてきた名探偵の助手だ。過去に非凡な発想によって事件を解決している実績がある、そこらの自称探偵より信用できる青年。

 右手の親指と人差し指で輪を作り、了承のサインを僕に向ける人。僕が探偵さんと呼んでいる彼は名前も声も聞いた人がいない名探偵である。連続殺人事件最初の被害者である友人を殺害した犯人を追っている。どんな事件も呼ばれれば即日に着くように移動する。それぐらい事件に対しては徹底している。

 今回の招待状も、徹底している探偵さんだからこそ聞くまでもなかったことだ。

 僕は招待状に対しての返事を書くと、ポストに手紙を入れるために荷物を持って外に向かった。

 外は肌寒く、白色の雪が肌に触れては溶けていった。冷たい。招待された場所に行く時までに手袋を用意する必要があるなと僕は思った。




「スタッフの出内(いでうち) 優人(ゆうと)って名前です。スタッフではあるんですが、俺も殺人予告受けてるんすよ。今回は頼りにしてます!」


 丁寧に見せかけた丁寧じゃない言葉遣いで話し、頭を下げながらこちらを見てくる。それむしろぞんざいですよ?

 兎にも角にも、僕と探偵さんは今回は5人の人物を殺人鬼から守る必要があるらしい。その一人がこの出内で、一応バイトで来ていて保護もしてもらおうって魂胆なのだろう。バイト代はそこそこ高めらしい。

 森の入り口で探偵さんと僕の自己紹介を終わらせると、中へと出内さんが案内していく。場所はとある山林で、今回招待してくれた富豪の西園寺(さいおんじ) 王真(おうま)が建てた侵入不可の別荘が奥地にあるのだ。

 西園寺さんは前々から狙われる可能性があると自分自身で自覚していて、計画的に建てた物件が今回の別荘だ。水道・電気・食事全てを事前に建物内で確保し、管理をしている。ここまでするぐらいなら狙われる理由を作らなければいいのに。

 今回、事前に用意していることから探偵さんはあまり荷物を持って来なかったため、僕が一応カバンに色々詰めて持ってきた。


「到着しました。ここが俺達が泊まる家っす!」


 木々には似合わない白い外壁。装飾や窓は1つも存在しておらず、扉すら存在しないただの壁。ホワイトボードでもこんなに白くはないだろう。

 出内さんは何もない白い壁に何度かノックすると、壁がゆっくりと上昇し、下から扉が付いた壁が地上に出てくると止まった。厳重な警備よりも厳重な施設。それが西園寺さんの対策だ。

 出てきた扉を出内さんが開き、中に入る。中には白い空間にまた扉が置かれていて、その横にある文字盤にパスワードを打ち込むと扉が開いた。さらに指紋認証、虹彩認証(こうさいにんしょう)の扉を抜けるとようやくレッドカーペットが敷いてある廊下に到着した。

 花瓶やシャンデリア、絵画などで廊下は装飾されて、元から持っていた富豪のイメージに沿っていた。廊下の隅には鎧が槍を片手に持って設置しており、本当に富豪なんだなと再確認させられた。


「待っていたよ探偵君。今回は招待に応じてくれて感謝しているよ」


 探偵さんは深々とお辞儀をして僕の方をチラッと見て、後は任せたと視線だけで伝わってくる。視線と仕草や軽い手の動きで探偵さんの動きを察するこれも何回目だろう。

 視線を受け取り、富豪さんの前に立って話し始める。この富豪さんは招待状を出した西園寺王真だ。

 こちらの軽い自己紹介、探偵さんが話さないことについて話し終えると、口端を上げて笑顔で話す。


「妻と私で呼ぶとき困るだろう? 君達は王真と呼んでくれたまえ。別に遠慮はいらんぞ?」

「俺も王真さんって呼んでもいいっすか?」


 ひょこっと飛び出して軽い気持ちで質問する出内さん。全く何も考えていなかったんだろうが、バイトならそれらしくもう少し敬語を使うとかして欲しいものだ。

 王真さんは一度目を少し大きく見開いた後、もう一度笑みを作ると、もちろんと優しく答えた。

 それから王真さんと出内さんの二人で別荘の1階部分を案内してもらい、丁度昼時であることから食堂で食事をすることになった。

 食堂には大きい長机が真ん中に一つ。そして暖炉。その他は先程までと内容は変わるが、相変わらずの装飾で部屋を着飾っていた。そしてなぜか天井からシャンデリアだけでなく、色々な物が吊るされていて、僕が背伸びをすれば届く位置にある飾りまであって危険な装飾だ。身長が低いので当たることは絶対ないけども。


「どうだい?変わった部屋だろう? 私はこうやって吊るすのが好きなんだよ。まぁ妻は嫌っているけどね、アハハ……」

「でも僕は好きですよ。コンパスなどの文房具などもありますが、実際に使えるんですか?」

「実際に使えるよ。この施設の、この部屋の飾り付けを手伝ってもらう時に実際に使えると面白そうだという意見があってね。双眼鏡や暗視スコープも実際に使えるよ。そうそう、手伝ってくれた子は君にそっくりだったよ!」

「そうですか? その人とは趣味が合うかもしれませんね」


 王真さんの言葉を聞いて探偵さんが鉛筆を引っ張り、手帳を取り出して実際に書いて見せてくれた。凄いですね!と、そこには書かれており、探偵さんは興味津々の様だ。


「へぇ~ここの天井の飾りって使えるんや。こんな変わったことやっとるのって小説の中だけやと思ってたわ」


 誰か知らない人の声が聞こえ、その声の方向を見ると顎に手を当てて話す女性と、ポケットに手を入れている金髪の男性が食堂にやってきた。

 関西弁で話すこの女性は猫々(ねこびょう) 操華(そうか)。有名な小説家で大阪出身らしい。

 金髪のこの男は獅子島(ししじま) 涼介(りょうすけ)。見ての通りただの不良だ。


「貴方達も殺人予告を受けたのですか?」

「あぁ、俺と猫々さんも殺人予告を受けてるぜ」

「なんか知らんけど届いてもうたからな~。小説の材料に使えそうだからありがたいわ」


 辺りをキョロキョロと見渡し、触れて、そしてポケットに入っていた手帳に記入していく。本当に小説に使える物はなんでも使っていく意思がこっちまで伝わってくる。

 事前に調べた通りなら、殺人予告を受けた人はこれで全員だ。これほどキャラの濃い人達と、殺人鬼が逮捕されるまで、それとも殺人が起こるまでここにいなきゃいけないと思うと、なんだかもっと辛気臭い空気感で生活しなくてはいけないと思っていたからその面に関しては安心だ。

 僕は安心して安堵の溜息をついた。

 全員が椅子に座ると一人の女性がワゴンカートを押して部屋に入って食事を机に置いていく。ありがとうと王真さんが話し、こちらこそと返事をする女性。

 僕はこの女性を誰だかは知っている。だが、この人がここにいるのはおかしいと思い話しかけた。


「西園寺 翡翠(ひすい)さん、ですよね? 貴方も殺人予告を受けているのですか?」


 王真さんの奥さんの西園寺翡翠。一般の会社に勤め、特にこれといって大きなことを成し遂げてこなかった普通の女性だ。今は王真さんの奥さんだから【普通】ではないのだろうけど。


「そうよ、私も殺人予告を受けたわ。疑うのならその予告状を見せてあげてもいいわよ」

「……いえ、大丈夫です。疑ってすみません」


 僕は席を一度立ち、頭を下げた。


「頭を上げてください。探偵という仕事柄、疑ってしまうのは無理ない事。そうよね?」

「……そうですね」


 笑みを浮かべていた翡翠さんだったが目が全く笑っていなかった。視線だけで数人殺してきたと言っても、少し納得しちゃうぐらいその目は怖かった。その様子をメモしている猫々さんも狂気じみていて、正直怖かった。

 ワゴンカートから机へと食事が全て移されると、翡翠さんが帰ってきてから食べよう、という無言の思いやりによって場は静かに、手を拭いたりして待機していた。その間に僕はお手洗いを借りることにした。少し寄り道もさせてもらったけど。

 食堂に帰る途中、翡翠さんと出会い、そのまま食堂に向かって歩く。足は歩くのを止めはしていなかったが、口は止まっていた。

 正直、先程の目を見てしまったせいで少し気まずいのだ。何か会話を切り出すこともなく、そのまま食堂に辿り着く。

 僕の席は暖炉の前だった。


「じゃあ、いただきましょうか」


 翡翠さんが席に着くと、いただきの挨拶【いただきます】と言った後に用意された食事を口に運んで行く。食事の中に毒が入っていないかどうか口に含む前に臭いなどを確認してみるが、特にこれといった異臭は無く、口に頬張ってみても味にも毒性のモノの味はせず、安心した。料理の味自体はレストランのシェフかってぐらい味付けがしっかりしていて美味しかった。

 各自が食事を取りながら軽い談笑をしていると、ソレは起こり始めた。


「て、停電?」


 焦りの声が翡翠さんの口からこぼれ、殺人鬼がいるかもしれないという緊張が辺りに走った。今まで飾ってある絵画や各々の顔を見たりと忙しく動かしていた首が、錆びついた機械のようにギギギ……と音を立ててゆっくりと動いている感覚に僕と探偵さん以外は陥っていただろう。

 場慣れしている僕と探偵さんは、ここで必要な物を冷静に考えた。探偵さんは今、明かりに使える物は、僕が覚えている限りではない。だから僕は行動に移した。

 行動を移している途中に不良の獅子島さんが怒鳴り、恐怖心を煽ることをしてしまったので、あまり物音を立てないようにゆっくりと立ち上がる。その最中、ガンッと金属音を鳴らしてしまい恐怖心を煽ってしまったため翡翠さんが声を挙げた。

 それに釣られキョロキョロと辺りを警戒してして埒が明かないため声を張った。


「落ち着いてください!!」


 僕が声を張ることは苦手としていたが、この状況を落ち着かせるために仕方なく声を張った。僕の声が停電してから一番大きかったからか、その場は静まり、次の僕の言葉を待っていた。

 僕は5本あるマッチ棒の一本を箱に擦り火を点けた。マッチ棒を火で灯すと、出来るだけ落ち着いて欲しかったために、柔らかい口調を頑張って作り話した。


「僕が今からこの暖炉に火を入れて光を灯すので安心してください。ここに殺人鬼はいません、きっとトラブルですよ」


 そして火を入れて各々の顔を見ている最中に、出内さんの死体を見つけてしまった。いや、死体ではまだないかもしれないが、ここは電波が繋がらないようになっているため、外に出て近場で電話を借りてそこからやっと救急車。間に合わないのは明白だった。

 出内さんの死体の横には【4】と書かれた数字が書いてあった。

 探偵さんがマッチ棒を要求してくるので、別で持ってきたマッチ棒を箱ごと渡し、僕は落ち着くために目を瞑った。

 ーー暖炉に入ったマッチ棒は今、灰になった。




「探偵さん、外傷は腹部に刺さっている槍のみです。先程の暗闇の最中に、部屋の隅に飾っている鎧が一つだけ槍を持っていないことから、鎧の持っていた槍を凶器に使われたのは確定だと思います」


 冷静に辺りを観察してさらに関与したであろう道具を探すが、何しろ暖炉で明かりがついている程度なので詳しく調べようにもまだまだ暗すぎるのだ。それにまだ暗がりのせいで、他の4人が怯えているかもしれないから。

 僕は探偵さんに先に停電の原因を捜して、電源の復旧を先にしようと話す。その話に親指と人差し指で輪を作り了承のサインをすると、私はここに残るとサインを出した。恐らく何か犯人を特定する手掛かりを探すためだろう。


「王真さん。電源の復旧か電気のある部屋に全員で移動しませんか?ここにいると体調を崩される方も出てきそうですし」

「あ、あぁ。そうしよう。確か、電力を一括管理している部屋が一階にある」

「では……皆さん。今から電源の普及のために移動します。ここには探偵さんが残るので、怖くて動けない人以外は着いてきてください」


 マッチ棒を取り出し、火を点け王真さんがそのマッチ棒を持って移動する。この火の明かりだけで移動するのは心許ないが、僕が全員の順番を理解していればそこから犯人を特定できる。それに、暗闇からか、距離を空けずに移動しているこの状況で犯人は行動はしないだろう。

 食堂には翡翠さんだけが探偵さんと残り、王真さんと僕、獅子島さんと猫々さんの4人で移動する結果になった。移動中、何か会話をして気分を紛れさせようとなんとか話しかけてみるも、返事が曖昧で正気を保っていなかった。死に直面するのはきっと初めての経験だったからだろう。

 結局、目立った動きや会話は特になく、全員が無事に到着することが出来た。


「電力を復旧してくる。それまで部屋に鍵をかけて一人でいていいか? 怖くて仕方がないのだよ」

「分かりました。では隣の部屋で待機して待っています」

「ちょっと待って? 一人にする方が危なくない? 2、2で別れれば殺人鬼も動かんのちゃうん?」


 確かに2人2人で別れれば、一人を殺害したところで確実にアリバイのある他とは違って犯人だということがバレてしまう。

 お互いのアリバイは相手を疑いあうことで確立する。

 猫々さんのアイデアは普段なら賛成できる。しかし、今のこの状況ならそれが難しい。それは、今殺人が起きて疑心暗鬼で相手が怖いからだ。殺人鬼じゃなくても、不審だと思われる行動を少しでも見せたら恐怖で無実の人を殺してしまうかもしれない。だから今の状況では賛成できないのだ。

 しかし、他の2人がそれの方が安心できるなら、それもやむを得ないことだろう。


「獅子島さんと、王真さんは2、2の方が安心できますか?」

「俺は、不良だからよ。相手が信じてくれるならなんでもいい」

「私は、襲君。君と一緒なら私は構わないよ。君なら安心できる気がする」


 王真さんは僕の肩に手を置きながら答えた。

 猫々さんも、獅子島さんと一緒でも大丈夫と答えてくれたので2、2で別れることにした。


「では、後程向かいに行きます。電源が復旧してからもすぐに向かえるかわかりませんので。この本でも読んでいてください」

「なんの本やの?」

「私が初心者ながら書いた本です。よかったら添削してくださるとありがたいです」


 カバンから本を取り出しそしてマッチ棒に火を点けて、本とマッチ棒を猫々さんに渡すと王真さんと一括管理されている部屋の中に入る。一応誰かが来る可能性があるので鍵を閉めておいた。

 この部屋に入ってみると複数のケーブルが散乱しており、間違えって踏みそうでなんとも怖い。しかし王真さんはケーブルを気にせず、奥に置いてあったノートパソコンにケーブルを踏みながら走っていく。僕もその後ろをケーブルを踏まないようになんとか移動し、ノートパソコンのモニターを覗き込む。

 モニターには、過去にどこがどれぐらい電力を使っているかの数値が表示されていて、ある一室の電力が以上に使われていていた。二階の調理部屋。丁度真上にある部屋だ。そこで電力を使いすぎて停電になったらしい。

 王真さんがキーボードを打つと次に電気が点き始めた。


「一応電力は復旧できたはずだ。原因が分からない以上再発する可能性がある。私は妻の所に行ってくるから原因を調査してきてくれないだろうか」

「わかりました。上への階段は食堂の近くのあの階段だけですよね?」

「あぁそうだ」


 各々の用心のためにとりあえず食堂に向かう。その最中に獅子島さんと出会い、猫々さんは僕の渡した本を読んでいるから後で合流することを教えてもらった。

 食堂に着くと暖炉の火はまだ灯っていたが、電気はちゃんと食堂にも点いていて安心した。電気が点いて安心はしたが、出内さんの死体がはっきり見えるせいで居心地のいい空間ではなくなっていた。僕はもう少し翡翠さんに配慮してあげるべきだったと少し反省をした。

 シャンデリアの電気を見ているとあることに気がついた。


「あれ!」


 僕が指さした方向を全員が見る。指を引っ込め、気がついたことを話す。


「あの上から吊るす用の線が見えますか? あの先に、ええと……暗視スコープ! があったはずなんですけど、無くなってませんか?」


 上から吊るされていた暗視スコープが無くなっている。そのことに僕は気がついたのだ。


「それって、出内の場所をそのスコープでチェックして殺したってことか?」

「恐らくそうだと思います獅子島さん」

「じゃあスコープを取ったやつが殺人鬼じゃねえか、簡単じゃねえか」

「いえ、そうとも限りまへんよ」


 ニヤッと口端を上げた獅子島さんに対して、猫々さんが冷静に意見を言う。


「あの状況、暗視スコープを取るのはやろうとしたら誰でもできたんちゃう?」

「そうですね。あの状況下なら」

「じゃあどうやって殺人鬼を見つけるだって言うんだよ」

「今は、まだ無理なんちゃうん?停電の原因もわかってないんやったら」

「原因なら二階にある。今から襲君が行って確かめて来てくれる」

「二階に原因が?」


 王真さんの言葉を聞くと獅子島さんがこちらを向いてくる。正直、不良だからなのか目つきが怖い。


「今から食堂横の階段を使って二階に上がって確かめてきます」

「それなら俺も一緒に行く。探偵も一緒に着いてきてくれ」


 探偵さんをなぜ呼んだかは僕にはわからないが、探偵さんは了承のサインを出したので問題はないようだ。

 階段を上り、二階に辿り着く。相変わらずの装飾が飾られており、気にも留めずに目的の部屋へと向かう。二階には一階ほど部屋はなく、一室一室が広いという印象が受ける。ゲームセンターや図書館など多岐にわたる部屋が存在していた。殺人鬼さえいなければ最高の空間だったかもしれないのに。

 目的の部屋と思わしき部屋は調理室で、その横には防護服まで置いてある本格的な調理室があった。調理室の中には普通、こんなに必要ないだろうと思うケトルが机の上に設置してあった。このケトルは時計を内蔵している。時間が来れば湯を沸かしてくれるシステムになっていて、見たところ全てのケトルに水が入っていた。恐らくこれが原因だろう。


「このケトルが停電の原因みたいですね」

「……こんなポットで停電になるのかよ」


 ケトルで停電は意外と簡単になるものだ。昔、レンジとケトルを使用した時ブレーカーが落ちたことがある。別にレンジとフライパンではブレーカーは落ちなかった。それぐらいケトルは電力を使うのだ。それとケトルとポットでは保温性とかが違うから別物だぞ獅子島さん。


「それにしても何十個……いや百近くありそうですね。これは停電するのにも頷けますね」


 ケトル以外に何かないかと辺りを見る。異常な数のケトルに目が行きがちだが、よくよく見ると台所の数もまな板もかなりの数が常備されていて、タンスの中には様々な皿が閉まってあった。

 僕はある台所の前に立つと、ふとあることを思い出した。思い出した内容の作業をしようとカバンを開けたところ、横でケトルをトントンと探偵さんが叩いていた。

 探偵さんはケトルに内蔵されている時計を取り出して、設定されているタイマーを見せてきた。タイマーは12時半とその10分後に設定されていた。その時計を数秒見つめると気がつく。


「獅子島さん! 全部のケトルが繋がっているプラグ、いやコンセントを抜いてください! また停電が起こってしまう!」

「なんでまた停電が起こるんだよ」


 このケトルは完全に直接電力を供給しないと稼働しない物だ。きっと内蔵されている時計もそうなのだろう。30分で停電が起こって一度時計が止まり、今再び動いてもう一度湯を沸かしたら、きっとまた停電してしまう!

 そのことを獅子島さんに伝えると、僕は急いで行動に移した。正直間に合うかどうかはギリギリだろう。

 ーーそろそろマッチ棒は火が消えただろうか。

 突然、不意に考えてしまった。恐らく火がずっと点いた状態なら燃え尽きている頃だろう。いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。

 探偵さんも獅子島さんもプラグを急いで抜いていた。プラグはたこ足式になっているかと思ったが、富豪だからか、直接繋がっていて一本一本抜いていかなければならなかった。

 数分経った時、突然、王真さんの声が部屋に響いた。


「襲君、探偵君! 助けてくれ! 猫々君が!」


 それは焦りが先行していて何があったかを上手く伝えられていない言葉だった。しかし、それだけで今のこの状況では意味が分かり、探偵さんと僕は急いで部屋を出ようとする。


「このケトルは任せてくれ!」


 獅子島さんの声を聞いて探偵さんが止まったのを僕は気がつくと、急いで部屋に向かった。




 猫々さんが多分襲撃されただろう場所を予測し向かう。その場所は電力を一括管理されている部屋だ。

 そこに向かうと自分が一番乗りだったらしく誰もまだ来ていない。相変わらずケーブルだらけの部屋だったが、特に殺人鬼と争ったような形跡はなかった。

 猫々さんの死体を見てみると、先程置いてあったノートパソコンを退かした場所に頭を置いて倒れていた。頭からは血が溢れていた。床にはさっき来た時にはなかった鉄球が転がっていることから、凶器はこの鉄球だと推測される。そして、頭の横には【3】と書かれていた。

 手元をよく見ると何やら筒状の物を持っていることが確認できるが、探偵さんが来るまで死体を動かすわけにはいけないし、周辺に置いてあったモノを拾って後は置いておいた。

 2分後、なぜ僕が到着して2分もかかったわからないが、探偵さんと王真さんが部屋に来た。部屋に着いた探偵さんに僕が調査したことを伝えると、猫々さんが持っていた物の正体を明らかにしようと色々な角度で見ている。


「探偵さん、血で汚れていますから二階の台所で洗ってきましょうか?あそこには細かく洗える物もきっとあると思いますし」


 僕が提案すると探偵さんは筒状の物を僕に渡してきた。きっと提案を受け入れてくれたのだろう。しかし、いつものようにサインを出してくれなかったことが少し不気味で仕方ない。

 そして僕は二階の台所へと向かった。

 先程の台所に到着するとプラグは半分以上が抜かれていた。きっと獅子島さんと探偵さんが頑張って抜いてくれたおかげだろう。

 だが、まだ少しプラグが抜けていないというのに獅子島さんの姿が見つからない。どこかへ行って、もしかしたら殺害のチャンスを狙っているのではないかと、ありもしないことを考えながえら近くの台所の蛇口を捻り血を流す。

 血を流し終え筒の正体を見ると、単眼鏡だった。それもライトが点けれる特注品だった。

 蛇口を閉めて、一応獅子島さんがまだ二階にいるなら呼ぼうと辺りを見渡してみると赤い液体が目に入る。


「獅子島さん!?」


 もしやと思って声を掛けてみるが返事はない。返事はないが、赤い液体の方向に走って行くと、そこには腹部周辺から血が溢れて倒れている獅子島さんの死体が見つかった。

 近くの壁には2と書かれていた。




 一階へと降り、状況を伝えると探偵さんは状況を見ることもなく、ここに警察を呼ぶように指示してきた。ここまで人数が少ないと犯人がナイフなどで強行的に殺人を行う可能性があるからだそうだ。警察が来るまで玄関、入ってきた所から一番近い接待部屋へと移動することになった。

 部屋に着くと、翡翠さんが少し下を眺めて、精神的に疲れてきていることが見てわかった。翡翠さんだけじゃない。王真さんも疲れて来ていた。きっと僕も探偵さんもだろう。

 そして誰も椅子が用意されているにも関わらず座ることはなかった。

 数分が経ち、お互いがお互いの事を疑っていると、王真さんの口からあらぬことが飛び出した。


「探偵君。君が殺人鬼なんじゃないか?」

「え?」


 翡翠さんが驚きのあまり呆気ない声を出す。

 突拍子もない発言だったためか、少し疲れている僕は小さな溜息をこぼして質問する。


「……どうして、そう思うのですか?」

「出内さん殺しの件は誰でも可能だ。それは探偵君も襲君も認めていること、だね?」

「そうですね、あの状況下なら誰でも犯行は可能だったと思います」


 探偵さんは僕の言葉に賛成のようで頷いていた。


「では猫々君の件だ。彼女を殺害した時に使用したとされる鉄球。あれは二階の倉庫にしかない物だ。倉庫は鍵がかかっている。だから探偵君。君の仕業じゃないのか?」

「鍵がかかってるなら、探偵さんも開けることは出来ないと思いますが……」

「いや違う! 探偵、私は最初、君にこの施設どこの部屋でも開けられるキーを渡したはずだ。そのキーは倉庫も開けられる」

「キー?」


 僕の知らない情報に驚き探偵さんの方向を向く。すると、探偵さんはポケットからカード状の物を取り出して見せてくる。これがさっき言っていたキーなのだろう。

 これが本当なら確かにキーを持っていた探偵さんも犯行が可能になる。しかしそれは、と僕は続けて言った。


「でも、それはキーが何個あって誰が持っているかによって変わるのではないのでしょうか?」

「キーの個数? そんなこと知ってどうするのだ?」

「もし、王真さんがキーを持っていたら王真さんにも犯行は可能になる、ってことですよ」

「主人を疑っているのですか!?」

「貴方は逆に疑っていないのですか?王真さんのこと」

「最初から、一度も疑ったことはありません!」


 翡翠さんの怒号に驚くも、僕は怯まずに話を続けた。


「では獅子島さんの件を振り返ってみましょう。僕は最初に猫々さんの所に向かったから知りませんが、誰が最後に獅子島さんと会ったのですか?」

「そ、それは……」


 王真さんは先程までの勢いが急に衰え、口ごもってしまう。


「でも! 私は走って調理室まで行った!だから帰りは疲れて走れなかった! 探偵君が走って遠回りしてでも追いつけたのではないか!?」

「それを言い始めたら翡翠さんがキーを持っていたら翡翠さんでも可能になります」

「私はキーを持っていないわ! 主人は体力に自信がなかった! だから本当よ!」

「獅子島さんの件はそれでいいかもしれません。では猫々さんの件の時、僕と探偵さんは一緒にいました。それはどうするのでしょうか?」

「それは……」

「今頃ですが、僕と探偵さんは王真さん、貴方が殺人鬼だと最初から睨んでいました。それは殺人が起きた時、王真さんは普段から旅行に行っているので、旅行と称して殺人をしているのではないかと」

「それは言いがかりだ!!」

「そして、決定的な証拠、それも施設をも関与しない馬鹿馬鹿しい失敗。今ここで証明します」


 僕が探偵さんの方向を見ると探偵さんはずっと付けていた仮面を外して、初めて事件現場で話し始める。僕は声すら聞いたことがないので声に驚いた。探偵さんは女性だったのだ。


「翡翠さん、殺人予告が届いた時、どこから届いたって貴方の執事は言っていたかね?」

「神奈川からとしか……」

「届く、2、3日前に王真さんがいた場所をご存じかね?」

「……神奈川に用事と」

「そう、その時に王真さんがポストに屋敷に届いた手紙と同じ柄の手紙を入れているのを執事が目撃してる。もう、わかるよね王真さん?」

「な!? わ、私は無実だ!」

「もう、観念してください。今回の事件、犯行が最も可能で今までの行動を踏まえると貴方が一番黒い!」


 王真さんは膝から崩れ落ちると、どうして、と小さく呟きながら泣いていた。


「私は、妻が殺人鬼がいる状況でも、信じてくれるか試すために妻だけ招待しただけなのに……」

「王真さん、大丈夫です。もし、無実なら逆に殺人予告のされてる身。警察に保護してもらえると考えてください」

「大丈夫よ、あなた。私は無実だと信じてるから」

「翡翠……」




 そうして大人しく、王真さんは抵抗もなく外への扉を開けて、みんなで山林を歩いて警察が探しているらしき場所。僕と探偵さんが出内さんと出会った場所に向かった。王真さんの手には簡易だがロープで縛らせてもらっている。

 そして警察に身柄が引き渡され、警察の方に別荘の場所を伝えると僕と探偵さんは帰らせてもらった。




 同日、探偵さんと家に着いてテレビをつけると、山林で爆発があり、炎上している情報が流れだす。


「王真、あいつ本当に殺人鬼だったのか。もう死刑は逃れられないだろうな」

「そうですね。証拠隠滅のために時限爆弾が仕掛けてあったのでしょうか。最初から殺人をするつもりだったみたいですね」


 探偵さんは、椅子に座るとテレビを消した。

 僕はそれを見て、必要のなくなった2本のマッチ棒をライターで燃やし、捨てた。


「佐藤襲。私が探偵になって間もない頃、君の父親を犯人と間違えてしまったことを今でも恨んでないか?」

「……恨んでないと、断言はできません。ですがもういいんです。過去の事なんて」

「そういってもらえると少し救われた気がする。すまない今までこうやって声を出さずに、顔を見せずにいて。君の前で話すのが怖かったんだ」

「もう大丈夫ですって謝らないでください。それでもまだ罪の意識があるのでしたら、これからは事件のお手伝いもしてください。それだけでいいです!」


 私はなんて臆病者で愚か者だろうか。

 名も自ら語ることもなく、顔を隠し声も隠してきて、そして父親を誤った推理によって10年も一人にしてしまったというのに。なんていい助手を持ったことだろうか。

 こんな大罪人をも許してくれる彼になんてお礼を言ったらいいだろうか?私は襲になんてお礼を言えばいいのだろうか?

 言葉が思いつかないことがなんとも、もどかしい。

 頭を掻き、悩んでいると襲が気を使い、あのと声をかけてきた。


「あの……水です。飲んでください。落ち着きますよ」

「あぁ、ありがとう。貰うよ」


 私は水をゴクゴクと音を鳴らせて飲んだ。飲み飽きた水の味だ。落ち着くには飽きた味が一番だった。


ーーこれからも頼むよ、襲。


 私は襲に対して、語るように言った。


「よろしくお願いします。探偵さん」


 襲が言い終えると私は脱力したように眠りに着いた。











ーー近くの壁には0と書かれていた。

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