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冒険者ギルドと新人のお姉さん

「お疲れ様、シロ」


「ワフワフッ」


  雪のように白い背中を撫でてやると、シロは嬉しそうに頭を擦り付けてくる。私はシロの召喚を解き、城門まで歩いていく。


  既に夕日は地平線に食べられており、空の端が薄っすらと赤みを帯びていた。


  城門までたどり着くと、前回同様、身分証を見せて街の中に入る。


「このペースだと、明日の夕方には王都に着くかな」


  今朝アクバードを出発し、現在はシエラールという街に来ていた。


  馬車で行けば1週間はかかるであろう王都までの道を、このままいけば3日でたどり着けるペースだ。これは、王都に着いたらシロを存分に労ってやらねばなるまい。


「あの、冒険者ギルドはどちらですか?」


「この通りをずっと真っ直ぐ歩けば見つかる。向かって右側だ」


「ありがとうございます」


  街に入ったあたりで、目的地を尋ねる。ガタイの良い冒険者らしき人に聞くと、ぶっきらぼうな口調だが、ちゃんと教えてくれた。


  魔力をあまり感じ取れない一般人ならともかく、ある程度の冒険者になれば、相手の実力を推し量ることが出来る。それは、無謀な戦いは避けるという、冒険者にとって無くてはならない能力だ。


  だから、例え相手が子供でも、無闇にちょっかいをかけることはない。荒くれ者の冒険者でも、絡む相手は選ぶものだ。


  言われた通りに真っ直ぐ歩いていくと、ひときわ大きくて目立つ建物があった。これが、今回寄りたかった場所——冒険者ギルドである。


「すみません」


「はーい、あら、可愛らしいお客さんが来たわね」


  建物に入って受付で声をかけると、若くて快活そうな女性が奥から出てきた。いかにも、「新人さん」といった感じである。


  この時間だと、既に大半の冒険者が依頼の報告を済ませ、飲み屋で馬鹿騒ぎを始めているのだろう。建物内はかなり空いており、受付の担当者たちは、業務を終了する準備をしていた。


「ここから王都までの地図を1枚頂きたいのですが」


  要件を伝え、冒険者ギルドの会員証を渡す。ギルドでは冒険者に対して様々なサービスを提供しており、会員なら周辺の地図を無料でもらうことが出来る。


「あら、お嬢さん冒険者だったの。えーと、お名前はアリスちゃんね。ランクは・・・・・・え、うそ、Bランク⁉︎」


「あの、あまり大声で言われると・・・・・・」

 

「あ、そ、そうですよね。ごめんなさい、今地図を持ってきますので」


  終業時間間際だったことが幸いし、誰かにランクを聞かれたということはなさそうだ。とりあえず、面倒なことにならずに済んで良かった。


  冒険者ランクは一番上がS、そして、AからFへと下がっていく。


  ランクはこなした依頼の難度によって上がっていくのだが、お金を貯めるため、がむしゃらに魔物を倒していたら、かなり短期間のうちにBランクまで上がってしまっていた。


  聞いた話だと、一般の冒険者はD、よくてCランクまでしか上がれないらしい。故に、Bランクから先の冒険者は数が少なく、その名前は広く知れ渡ることになる。


  私はBランクになってまだ日が浅く、目立たないよう行動していることが幸いし、未だ無名のままだ。だからこそ、下手にランクがバレて、面倒ごとに巻き込まれるのは避けたい。


「お待たせしました。こちらが、王都までの地図になります」


  心なしか、新人さんの態度がかしこまっているように思える。それはそれで逆に目立つからやめて欲しいのだが。


「それで、アリスさんは乗り合い馬車ではなく、歩いて王都までの行かれるのですか?」


「はい」


  まあ、歩きではなくシロに乗っていくのだが、説明が手間なので、指摘するのはやめておく。


「でしたら、ひとつ受けて頂きたい依頼があるのです。乗り合い馬車の護衛の仕事なのですが、生憎この時期は魔物の数が多く、地元の冒険者たちだけでは手が足りない状況で・・・・・・」


「護衛、ですか?」


「はい。馬車に同乗出来ますので、歩きよりは早く着くかと。さらに、依頼料も支払われます。ただ・・・・・・」


「何か問題が?」


「実は、御者である依頼主が提示した報酬が相場の半分ほどしかなく、Dランク以上の方は誰も引き受けて下さらないんです。御者がどうなろうとこちらとしては構わないのですが、馬車に乗る人たちが危険な目に遭うのは、忍びなくて・・・・・・」


「それは、御者が護衛料を浮かすために?」


「はい。王都までの護衛はDランク冒険者が2人でこなすのが通常です。護衛の報酬額はランクによって変わりますので、ランクが下がる分、依頼料は安く済みます」


「それ、取り締まれないんですか?」


「規則では、護衛を2人以上つければ運行が可能です。Dランク以上というのはあくまで目安で、法的な護衛のランクに指定はありません。なので、ギルドは手出しが出来ず・・・・・・」


  つまり、御者が経費を浮かせるために護衛料をケチり、このままだと護衛がEランク冒険者のみになって危険だと。


  かつて、夜行バス運転手の人件費をケチったせいで事故が起きた、というニュースがあったが、要するに今回の件はそういうことだろう。


  雇用主が現場を省みないのは、全世界共通だろうが、今回は、依頼主自身が危険な目に遭いかねない。


  ただの命知らずなのか、あるいは・・・・・・。


「Bランクの方に、Eランク相当の報酬で依頼を受けて頂こうというのはおこがましいと分かっています。しかし、今回は人命がかかっていますので、どうかお願いできないでしょうか」


  そう言って、新人さんは深々と頭を下げた。


「人命がかかっている」なんて、この場では脅迫に近い言葉だ。ここで依頼を断って馬車が襲われようものなら、後々責任を感じることになりそうである。


「分かりました」


「ありがとうございます! では、向こうにはEランク冒険者としてお伝えしておきますので」


  新人さんだと思っていたが、案外やり手だ。なんだかんだ、このような瑕疵案件をきちんと捌ききっている。


  さらに、先ほどのやり取りで、私が自分のランクを広めたくないと理解し、御者にランクをバレないように配慮してくれたのだろう。


「それでは、明日朝5時、西門前に集合でお願いします」


「え⁉︎」


  失念していた。


  王都までは、シロに乗ればすぐでも、馬車で行けば丸一日かかる。つまり、出発は早朝になるということだ。


「あー、やっぱり、依頼の引き受けは取り消しで・・・・・・」


「それでは、よろしくお願いします」


  新人さんは、曇りなき笑顔でギルドの会員証を返してくる。そこには、「依頼受領」の4文字があった。


「よろしくお願いします、ね」


「・・・・・・はい」


  次からは、きちんと最後まで聞いてから依頼を受けようと、強く心に刻んだ。

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