表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

いざ、王都へ

 

「では、行って参ります」


「道中には気をつけて。しばらくしたら遊びに行くから」


  母上にぎゅっと抱きしめられる。優しい香りと柔らかな感触に包まれて、幸せな気持ちになった。


「これが身分証だ。王都に入る時に必要だから、絶対になくすなよ。あと、旅費は大めに用意したから、無駄遣いはしないように。まあ、お前のことだから心配はしていないが」


  父上はそう言って、銀貨の入った袋を手渡した。目一杯入っているという感じはないが、かなりの額になるだろう。


  お金をカバンに詰め込んで、父上と母上の見送りを背にテュルク家を出発した。


  2人の兄たちは、政務の手が足りないということで、今ここにはいない。ただ、前日にお小遣いと、王都にいる兄姉への手紙を渡された。こういった身内思いな心配りは、我が家族ながら素晴らしいと思う。


  ちなみに、家族は皆、私が一人でいくことに反対しなかったが、最後までついて行くとごねた者がいた。サーナである。


  彼女は、仕える家の末娘がまだ手がかかるという理由で結婚を断っており、私がいなくなればそれが使えなくなる。そこで、必死に旅について行くと主張したが、ついに認められることはなかった。


  実際、私には侍女が必要ないし、もともとテュルク家には侍女が多くない。広大な屋敷を少ない人数で回しているのだから、彼女一人といえど、遊ばせておく余裕はないのだ。


  多少気の毒ではあるが、もともとは彼女が適当な理由で結婚を断っていたのが悪い。サーナには、これからツケの支払いに勤しんでもらうとしよう。


「さてと、この辺りでいいかな」


  家を出た私は、いつもの狩場である山まで来ていた。


  ところで、父上から入学試験の話をされてから、今日までひと月半あったのだが、その間、何もせずに遊んでいたわけではない。


  まず、魔物を狩って出来るだけお金を稼いだ。父上から旅費はもらえると聞いていたが、それだけでは心許ない。


  入学金や授業料も、両親が王都に行く時に払ってくれるらしい。しかし、なんとなく不安なので、急に学校側から請求された時のために、事前に用意しようと思ったのだ。


  幸い、私には高い魔法能力がある。自分が稼ぐためなので、ギルに手伝わせることは出来ないが、一人で山を駆け巡って魔物を倒した。


  この世界には冒険者制度があり、冒険者ギルドに登録して魔物を倒せばお金が手に入る。さらに、魔物の素材を売ることもできるので、お裾分けする分を除いてギルドに売り払い、かなりの額を手に入れた。


  これだけあれば、入学金や授業料、生活費なども充分カバー出来るだろう。


  そして、平行して魔法の修練にも着手していた。


  最初は王都まで馬車で行こうと思っていた。だが、知らない人と乗り合い馬車で1週間旅するのはきつそうだったし、馬車を貸し切るのはお金がもったいない。


  そこで、召喚魔法を覚えることにした。


  本で召喚魔法について調べて見ると、発動自体は難しいものではないと書いてあった。


  しかし、どんな召喚獣が出てくるかは魔力の質や量によるらしく、また、契約には恒常的に魔力を消費するため、実用的ではないらしい。


  専ら、魔力を持て余した貴族が愛玩用の獣を呼ぶために召喚したり、魔法を極めて隠居した大魔法師が、戯れに召喚するのに使うくらいなのだとか。


  だが、私は魔力量には自信がある。


『契約せし者よ、我が下に来たれ』


  初めて召喚した時同様、大量の魔力を注いで魔法を発動すると、目の前に美しい狼が現れる。


  全身を真っ白な毛皮に覆われた白狼。子供なら数人乗れそうなほど大きく、静謐な雰囲気を纏っている。


「シロ、久しぶりだね」


「グルルルルッ」


  シロと名付けたその狼は、私が優しく撫でると嬉しそうに喉を鳴らした。前回この子を召喚したのは半月ほど前なので、寂しかったのかも知れない。


  というのも、召喚獣をこの世界に留めておくだけでも魔力を使うので、用もないのにいちいち呼び出せない。そこに魔力を割くくらいなら、1匹でも多く魔物を狩りたかった。


『風よ、我が道を妨げるな』


  走行中寒くないように、風除けの魔法をかける。防寒着は着ているが、冷たい風を強く受けたらさすがに耐えられない。


「さて、じゃあ早速お願いね」


  シロの背中にまたがると、王都に向かって山の中を駆け出す。


  わざわざここまで来たのは、シロを街中で呼び出す訳には行かなかったからだ。召喚獣については、領民どころか母上以外の家族ですら知らない。


「にしても、母上には恐れいったね。まさか、あんなに速攻でバレるなんて」


  母上がシロについて知っているのは、召喚した翌日に「アリス、隠し事があるなら早く言うのが身のためよ」と四六時中迫られて、耐えきれず教えてしまったからだ。


  なぜ分かったのか聞いてみると、「女の勘」なのだとか。さすが、領主を長年支えてきただけのことはある。どんな魔法でも、母上のそれには敵わない気がした。


  さらに、母上に「見せて」と言われて断りきれず、裏庭でこっそりシロを召喚したところ、「可愛いじゃない」と好評を頂いた。


  けれど、母上に長時間撫で回されたシロは母上に畏怖を抱くようになり、今も「母上」という単語を聞いた瞬間身体をビクッと震わせていた。


「大丈夫。しばらく、母上に会うことはないから」


  走るシロの背中を優しく撫でる。ふわふわとした感触と体温が心地よく、程よい揺れが眠気を誘う。


「あ、ヤバイかも」


  出発前日は夜遅くまで起きていたせいか、まだ眠気が残っていたようだ。


  段々とまぶたが降りてくる。抗いがたい睡魔に、僅かに残った意識を振り絞って声を出す。


「ちょっと眠るから、何かあったら起こし・・・・・・て・・・・・・」


  最後の呟きがシロに届いたかは分からない。しかし、狼の小さい鳴声が、風の中で聞こえた気がした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ