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第4話 ゴブリンが春男に危険視されるような物語

「本当に葵殿は毎朝毎朝! どうして制服でこないのでありますが!」

「え~? だって今制服着たらビチョビチョになっちゃうし」

「だったら水着を脱げばいいではないか!」


 黄切の言っていることはおそらくものすごく正論です。けれど、葵はとても不満そうなのです。


「だってどうせあとで着るのに面倒だし」

「アハッ、葵ってばちょー正論らし~らし~」

「正論じゃない! 喫茶殿は黙っててなのです!」

「黄切ってはこわ~いこわ~い」


 そういいつつゴブをわしゃわしゃする喫茶です。苦手意識があるのか引き気味のゴブではありますが。


「黄切もいつもいつも大変だよね~」

「誰のせいだと思っているのでありますか! とにかく早く着替えるであります!」

「わかってるよ~だから授業始まるまでには上から制服着るってば。それまでには乾くと思うし」

「いや、今着替えて欲しいと言ってるのでありますが……」

「だからビチョビチョになっちゃうってば」

「水着を脱げばいいと言ってるのです!」

「え~でもそれだと裸で制服になっちゃうよ?」

「裸って、換えの下着とかないのでありますか?」

「ない(キッパリ)」


 頭を抱える黄切です。しかし本当に下着は持ってきてないようです。葵曰く、水着が下着! なのだそうです。


「うぅ~桃子殿~」

「よしよし」


 話は平行線のまま、結局黄切は桃子に泣きつきました。頭をなでてあげる桃子です。


「黄切にやけてるんだけど……」

「えへへぇ~」


 確かに桃子に頭を撫でられた途端、黄切の表情は一変しました。


「あ! 何だこれ! すっごい変わった魚だな!」

「え? いや魚って」


 赤也が目を眇めます。他の皆も疑問顔です。


「なるほど、魚だったんだ。なっとく~なっとく~」

「いや、流石に魚は違うと思うんだけど……」


 でも、喫茶だけは妙に納得してました。吟子は怪訝そうですが。


「え~どうみても魚だろ魚類だよ」

「ご、ゴブゥ……」

 

 ナチュラルにゴブの体に触れる葵ですが、触った後に妙な顔を見せました。


「おまえ、魚のくせに水気が足りないぞ」

「葵ちゃん、ゴブは魚じゃないと思うの」

「ゴブってなんだ?」

「その子の名前」

「そっか~お前、魚じゃないのか~残念だな~」


 どうやら水気があるかどうかが魚かどうかを決める彼女の判断基準だったようです。


「全く、朝から随分と騒々しいな君たちは」


 教室にまた一人、眼鏡を直しながら七三頭の男子が入ってきました。どことなく神経質そうな面立ちです。


「よっ、よっ、眼鏡くん」

「春男だ! 緑山(みどりやま) 春男(はるお)! いい加減名前で呼んでって! 土井が来てるって僕は遅刻してしまったのか!」

「違うよ~」

「失礼なやつらし~らし~むかつくし~し~」


 喫茶は不機嫌にいいましたが、普段は遅刻ギリギリで来てる少女ですからそう思われても仕方ないのかも知れません。


「土井がこんな時間に教室にいるなんて、まさか天変地異のまいぶれ、て、ぬおおぉぉおおおぉおおぉおぉおおぉおお!」


 突如、春男が叫びました。眼鏡が飛び上がってまた顔に戻るぐらいのびっくり仰天ぶりです。まさに青天の霹靂といった表情です。


「どうしたんだよ緑山。そんな世界の終わりみたいな顔して」

「き、君たちこそ何を呑気なことを! 早く! 早くそのモンスターから離れるんだ!」

「モンスタ~?」

「ゴブ~?」


 桃子とゴブが不思議そうな顔を見せます。ですが、春男の指はまさにそのゴブに向けられており。


「特に桜井さん! 君が一番危ない! 襲われるぞ!」

「え~? 襲わないよ?」

「な、何を言ってるんだ君は! いいか! そのモンスターはゴブリンだ! ゴブリンなんだ!」

 

 ゴブに、春男のいうところのゴブリンに人差し指を向け、春男が盛大に吠えました。眼鏡をクイクイっと直しながら、これでもかと言い放ったのです。


「ゴブリン……ゴブ、そうなの?」

「ゴブ~♪」

「何かちょっと嬉しそうだねこの子」

「あたってるってことなのか?」

「いやいや! 何和気あいあいとしてるんだよ! 危険なんだって!」


 身振り手振りをまじえて春男が一生懸命訴えますが、あまり危機感は感じられない状況です。


「何が危険なの? ゴブちゃんいい子だよ?」


 桃子が首を傾げながら問いかけました。確かに今の所これといって害になりそうなことはありません。


「全くこれだから素人は」


 やれやれと頭を振り、呆れたような素振り。眼鏡をクイクイっと直してみせます。


「いや、何目線なんだよ」


 赤也が冷静にツッコミました。しかし、フッと不敵な笑みを浮かべる春男です。


「ゴブリンはね、本来妖精として伝えられてきた伝説上の生き物なんだよ」

「へぇ~妖精なんだ」

「それおかしいし~しいし~だって妖精ってちっちゃくて羽が生えてるし! るし!」

「まぁ私もそんなイメージだけど、妖精にも色々あるってきいたことがあるしね」


 喫茶は納得言ってないようですが、吟子は少しだけ妖精のことを知ってそうです。


「そっか、ゴブちゃん妖精だったんだね~」

「ゴブ~?」


 ゴブは首を傾げています。よくわかっていないのかもしれません。


「早計だよ君たち! 話は最後まで聞き給え!」

「春男、早計ってなんだ~?」


 ビシッと手を前に突き出し、待ったを掛ける春男です。すると葵が小首を傾げました。


「なんだよ葵、早計もしらないのかよ~かよ~あれだよ早い男のことじゃん、じゃん」

「何が早いの?」

「勿論イ――」

「待て待て! 何を言ってんだ喫茶! それ絶対違うからな!」


 慌てて喫茶の口を塞ぐ赤也です。喫茶はナチュラルにとんでもないことを言いそうになるので目がはなせません。


「ふぅ、とにかく、確かに妖精という話もあるけど、そのゴブリンはどうみてもそっちじゃない! 緑色の肌! 尖った耳! 小さな牙! 子どもぐらいの体格! それは、ラノベや漫画、ゲームやアニメに出てくるゴブリン、つまり! 人に害をなす魔物やモンスターの類なのだ!」

「ゴブゥウウゥウゥ!」


 ビシッと春男に指を突き付けられ驚くゴブです。


「ラノベや漫画、それにゲームにアニメって、眼鏡でもそういうの読むんだな」


 吟子が意外そうにいいました。春男はクラス一の秀才です。しかも学年でも常にトップです。だからこそ予想外の趣味だったのかもしれません。


「眼鏡じゃない春男だ! フッ、当然。僕ぐらいになれば辞書も読めばそういったサブカルチャーも嗜む。そうすることで右脳も左脳も鍛えることが」

「つまり眼鏡はオタクだったってことじゃん。じゃん」

「な! いや否定はしないが教養としてだな! あと春男だ!」

「否定しないとはいさぎいいな春男。俺はそういうところ嫌いじゃないぜ」

「だから春男じゃない眼鏡だ! あれ?」

「やっぱ眼鏡じゃん、じゃん」

「う、と、とにかくだ。そういったものから学べることは多い何気に多い。それに、今やラノベは文化だ。最近はなれる系の作品も次々アニメ化していってるしな」

「なれるって何~?」

「投稿小説サイトだ。変態したらスライムだった変? や無職ですが何か? 阿呆が高校の優等生、君の水団が食べたい、などアニメ化や映画化作品が多いことで有名なサイト、それが小説家になれるだ。そしてゴブリンの性質がよく語られてるサイトでもある」


 そして春男は一拍ためた後、更に語気を強めました。


「だからこそ! そのゴブリンは本当に危険なんだ!」

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