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第19話 ゴブリンはコスプレではない物語

「コスプレをしているから不審者だなんて偏見だと思います!」


 そう言って立ち上がったのは紫衣(しい) 式部(しきぶ)。おかっぱ頭の眼鏡女子で、普段はあまり目立たないですが、最近になって趣味がコスプレであったことが判り驚かれた子でもあります。


 ちなみに驚かれたのはコスプレが趣味だったから、などではなくそのクオリティです。衣装はすべて手作りですが、商売に繋がりそうなほど完成度が高く、また本人のコスプレをする時はコンタクトに変え化粧は勿論カツラなども駆使しバッチリメイクで見違えるように美しくなるのです。


 そんな彼女だからこそ、先生の発言に口を出さずにいられなかったのでしょう。

 ですが、どうやら彼女は少々早とちりだったようです。


「紫衣さん、それは勘違いです。お話はまだ続きがありますので~」

「そうなんですね。ごめんなさい。私、2次元が悪いみたいに言われるのがどうしても許せなくて!」


 眼鏡を光らせて紫衣が強い口調でいいました。彼女もまた偏見という名の荒波を乗り越え、剣を取り戦おうと決めた現代の戦士の一人なのでしょう。もっともそれを今いったところで聞いている先生は困り顔なのですが。


「え~と、それでは改めて、コホン。ここからが重要なのですが……どうやらその少年ですが刃物を所持しているようなのです」

「刃物……」

「刃物だってよ」

「そんなのがウロウロしてるのかよ……」


 教室内がざわつきました。やはり刃物と聞くと不安になる生徒もいるようです。


「聖っち聖っち~刃物ってどんなのだし~だし~?」

「わかった! カジキマグロだな!」

「いや、カジキマグロ持ってるやつがウロウロしててもそんな問題じゃねぇだろ……いや、問題か?」

 

 葵の発言に赤也がツッコミますが、冷静に考えたら問題かも知れないと思い直したようです。カジキマグロも使いようによっては凶器になりえますね。


「カジキマグロではありませんが、刃渡り60cmほどある剣のような武器ということです」

「それ普通に剣じゃない?」


 吟子が首をかしげます。確かに刃渡り60cmある剣状の武器は剣以外の何物でもなさそうです。


「先生! その剣は刀ですか? それともロングソード系の長剣ですか? 片手剣ですか? 両手剣ですか? 盾はもってましたか?」

「え? え? いえ、そこまでは……」

「えぇ~? ヒロくんってそういうのが好きなんだ~」

「いっが~い」


 弘樹がハッ! とした顔を見せました。するとどこかぎこちない笑みを浮かべ。


「と、と! 音無くんが気にしてました!」

「え! 僕!?」

 

 冬眠鼠はギョッとした顔で驚きました。どこかドギマギしているようでもあります。


「なんだ音無くんか~」

「それなら納得よね」

「そうよね~ヒロくんが武器とかそんなわけないわよね~」

「うぅ……」

 

 勝手に納得する女子と釈然としない様子の冬眠鼠です。

 とは言え、直後ヒロがこっそりお詫びのポーズをみせてたりもしますし、冬眠鼠も仕方ないな~といった様子も見受けられます。


「とにかく! 相手は刃物をもっていて危険ですから、皆さんも気をつけてくださいね」

「ですが先生、少々それは気にし過ぎではありませんこと? もしその不審者が紫衣様のようにただコスプレという行為が好きなのでしたら、持っていた剣も作り物で殺傷力はないのではと思うのですわ~」

「それが、警官さんのお話だとその剣を振って木を切り倒していたらしいの。だから、本当に気をつけてね」

「それは確かに一大事ですわ! ならば黄金院財閥が総力を上げて、そうですわね。とりあえず黄金院家が抱える私設軍隊を派遣させますですわ!」

「そこまで! 黄金院さん、警察も動いてくれてますからそこまで大げさに捉えなくてもいいのですよ!」

「そうだぜ。大体ゴブのこともあるだろ?」

「あ、そうでしたわね。むぅ、残念ですが先生がそういうのであれば仕方ないですわ~」

「本気だったのね。恐ろしい子……」


 スマフォを取り出しどこぞへ連絡を入れようとしていた黄金院を見て吟子がつぶやきました。しかし赤也が黄金院にだけ聞こえるようゴブのことを持ち出したので事なきを得ましたが危なくこのあたり一帯が戦場と化していたかも知れません。


「とにかくわざわざ警察の方が私のところに来て教えてくれたことなので、皆さん本当に気をつけてくださいね」

「……ちょっとまってくれ先生。わざわざ先生のところまで来たって……その警官って誰?」

「はい、暁 臙脂(えんじ)さん、暁くんのお兄さんですね。暁くんにも宜しく伝えておいてくれって言ってましたよ」

「やっぱりか……あの馬鹿兄貴……」

「う~ん、でも、よく考えてみたら何で私だったのかしら? 学年主任とか教頭とか適した人は他にもいそうなのに……」

「……こりゃ無理だな」

「え? 何がですか?」

「きゃはは、先生ってばてば、鈍感らしぃ~しぃ~」

「?」


 赤也と喫茶の発言に先生はキョトン顔です。どうやら先生としてはただ親切心で来てくれたという認識なようですね。


「とにかくこの件はここまでです。皆さんもし不審人物を見つけたら決して近づかないで、すぐに警察に通報するようにしてください。できるだけ屋外での単独行動も避けてくださいね」

「大丈夫であります! 風紀委員としてそして剣道部主将として、不審人物を見つけたら返り討ちにしてくれようぞ!」

「いえ、ですから返り討ちとか無理はしないで……」

「特に桃子殿は必ず私が守ってみせる!」

「「「「「「お~」」」」」」


 ぐっと拳を握り宣言する黄切に一様に感嘆の声を上げましたが先生は困り顔です。


「お~い、皆聞いてる? だから無茶はやめてね。本当に」

「まぁでも、黄切なら不審人物ぐらい簡単にやっつけちゃいそうだよね桃子」

「う~ん、でもそれで怪我したら元も子もないからやっぱり気をつけたほうがいいかもね」

「流石桃子殿! なんとお優しい!」

「そんなことないよ~」


 そんなやりとりを行いつつ、ホームルームの時間は終わりを告げました。それにしても不審人物さんは、果たして今どこにいるのでしょうか?

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