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第17話 ゴブリンが逃れる物語

――チュンチュンチュン。

「ゴブ?」


 朝になり、小鳥のさえずる音を耳にしゴブが目覚めました。

 まぶたをこすり、ゴブ~と腕を組み何かを考えます。そして、ポンッと手をうち、ゆっくりと立ち上がり、恐る恐ると洞穴の外に近づいていきました。


 ひょっこりと洞穴から顔を出し、キョロキョロと周囲を伺うゴブです。


 でも、あの少年の姿は見当たりません。空はだいぶ明るくなっていました。視界も良好で、耳も済ましますが、妙な音や声がきこえてくることもありません。


 助かった、と今度こそ心底から胸をなでおろすゴブです。

 そのまま歩きはじめ、秘密基地であるツリーハウスを探します。

 朝から結構歩き回ってしまいましたが、山を登って歩き続けると程なくしてあのツリーハウスが見えてきました。


「ゴブ~!」

 

 ゴブは飛び上がらんばかりに喜んで、木製の家に走っていきます。


 ですが、そこでにゅっと何あの影が飛び出してきました。


「ゴブっ!」


 それに驚き足を止めるゴブです。ビクビクと肩を上下させました。


「うん? 何だゴブ、外に出てたのか」

「ご……ゴブゥ~~」


 しかし声を発した相手の顔を見て、胸をなでおろすゴブです。姿を見せたのは赤也でした。

 ゴブはやれやれと肺の中に溜まっていた空気を一気に吐き出しますが、赤也には意味がわからないのでしょう。


「なんだ、どうしたゴブ? そんな疲れたような顔して?」

「ゴブぅ……」


 実際疲れているわけですが、しかし赤也も表情でゴブの気持ちが察せられるぐらいには理解してくれたようです。


「あぁそうだ。缶詰だけじゃあきると思って、ほらパンを持ってきたぞ。一緒に食べよう」


 どうやら赤也はゴブの為に朝食用意してくれたようですね。なんともありがたい話です。


「旨いかゴブ?」

「もぐもぐ、ゴブ~」


 赤也が持ってきてくれたランチなパンを頬張るゴブです。食べている時はとても幸せそうですね。


「おっはよ~ゴブっち~ほら! 朝ごはんもってきたぞ!」

「なんだ海驚も来たのか……学校にいくまではちゃんと制服なんだな」

「あはは当たり前だろ? 学校に行く途中まで水着だったら変態じゃん。赤也はばっかだなぁ~」

「お前には言われたくねぇよ!」


 赤也が切れました。学校のプールで泳いだ後、平気で水着姿で教室まで戻ってくる彼女には確かにいわれたくないかもしれませんね。


「それよりご飯もってきたんだ~ほらほら猫缶!」

「ぶふぉ!」

「ゴブ?」


 鞄から猫缶を取り出し蓋を開ける葵。どうやら本気で猫缶を食べてもらおうと思ってるようだ。


「魚介類たっぷりの缶詰だぞ~美味しいぞ~」

「ゴブ~♪」

「た、食べるんだな……」


 ゴブは猫缶も普通に食べました。そもそも猫缶は人間でも食べられるように出来ています。なのでゴブが食べれてもおかしくはないのでしょう。


「ゴブちゃん大丈夫だった? あれ? 皆おはよ~」

「ゴブ~♪」


 桃子も朝秘密基地に顔を出しました。ゴブリンの顔が一気に和みます。赤也は葵が来てる時も安堵がみられましたが、やはり桃子が来ると嬉しさも一入のようですね。


「じゃあ俺、もういくな! ひと泳ぎしたいからさ!」


 桃子と入れ替わりで葵は学校へ向かいました。それを見送り赤也が呟きます。


「本当、あいつはいつでも泳いでるよな……」

「うん、本当に泳ぐのが大好きなんだね」

 

 そして桃子はゴブと基地の中を見回しますが。


「みんな朝ごはん持ってきてくれたんだね」

「あぁ、まぁ海驚は猫缶だったけどな……」

「そうなんだ。猫缶って人でも食べられるようになってるものね」

「そうだけど、あんま気にしないんだな桜木も……」


 桃子にとっても別に悪いものではないという認識なのでしょう。


「私もサンドイッチ作ってきたからお昼はこれを食べてね」

「ゴブ、ゴブ~♪」


 ゴブは桃子の持ってきてくれたバスケットを嬉しそうに受け取りました。桃子お手製のサンドイッチは卵焼きやハム、ベーコン、それに季節のフルーツもふんだんに取り入れられた中々の力作です。


 たかがサンドイッチと侮れない出来栄えですね。色合いも考えられており食欲を掻き立てられます。サンドイッチには一個一個丁重にラップで包まれてました。乾いてパサパサにならないようにと考えてのこと。

 この心づくしがにくいですね。配慮が行き渡っております。


「ゴブちゃん少し疲れてる?」

「ゴブ? ご、ゴブゴブ! ゴブ~」


 すると、何かを察したように桃子が尋ねました。隣で見ていた赤也が、へぇ、と発し。


「そんなことが判るのか桜木?」

「う~ん、なんとなくだけど。それに昨日より体が汚れているかなって」

「ゴブ、ゴブブブ、ゴブ! ゴブ~ン!」


 ゴブは身振り手振りも交えて昨晩のことを説明しました。それをうんうんと頷きながら聞いている桃子です。


「そっか、昨日外に出て楽しくなってちゃんばらしてたら野犬の尻尾を踏んで追いかけられてるうちに斜面を転がり落ちて迷い迷ってなんとかここまで戻ってきたのね」

「ゴブ! ご、ゴブぅ?」

「おお! すごいぞ桜木そこまでわかるのか!」


 赤也は感心してますが、実は少し違います。ただ、かなり惜しいですね。ゴブも最初は通じたと喜んだようですが、あれ? 何か違うかも? と結局疑問符が浮かび上がっていますね。


「夜、出歩くのは危険だから気をつけるんだよ」

「ゴブ!」


 元気よく返事をするゴブです。

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