第14話 ゴブリンとの1日が終わる物語
「うん、だいぶ住みやすくなったな」
「ゴブ~♪」
「良かったねゴブちゃん」
「ゴブ! ゴブ!」
ゴブが嬉しそうに頷きます。秘密基地にはハンモックが掛けられ、ゴブはそれに寝そべってごろごろしてみました。寝心地はバッチリなようです。
みかん箱を利用してゴブ用のテーブルも用意されました。電池式のランタンと缶詰類も用意されます。
缶切りは不要なタイプで、ゴブにはしっかり食べ方を教えました。ゴブは教えて貰ったとおり缶詰の蓋を開け美味しそうに中身を食べていました。
どうやら好き嫌いはあまり多くないようですし、食べるものも人とそれほど変わらないようですね。
「でもなつかしいし~し~」
「あぁ、そうだな」
「2人とも前はここによく来てたんだね」
「あぁ、今は高校が変わった仲間も一緒にな」
「懐かしいじゃん! じゃん! 秘密基地は他にもそういえばあったじゃん! じゃん!」
「あぁ、そういえばそうだったな」
「他にもこういう基地が?」
「いや、もう一つは基地というか最初は探検気分だったんだけどな。丁度いい洞穴を見つけたんだ。小さなころはそれが嬉しくて、宝探しだ~なんてはしゃいでたっけな」
どこか懐かしむように語る赤也です。
「あそこどこだったし~? し~?」
「どこだったかな? 偶然見つけたような場所だったし覚えてないな。ま、ゴブが住むならここで十分だと思うし」
確かにいまのところは不便はなさそうです。そして赤也や喫茶は久しぶりの秘密基地を満喫し、桃子達も談笑しながら過ごしましたがそうこうしているうちにいい時間になってしまいました。
「流石にそろそろ帰らないとね」
「うん、うちもお母さんが心配するかな」
「ならそろそろ帰るか?」
「うむ、しかしゴブっちは大丈夫であるかな?」
黄切の一言で全員の視線がゴブに向けられました。確かにゴブのことは少々心配ではありますが。
「ゴブ! ゴブゴブ! ゴブっ!」
しかし、ゴブは立ち上がり、右手でグーを作り、どことなくキリッとした顔を見せました。
「一人でも大丈夫ゴブちゃん?」
「ゴブゴブ!」
「何か頼もしいじゃん! じゃん!」
なんとなくとはいえ意思疎通が取れてきているように思えますね。
とにかくゴブがこういうならと全員ここで解散となりました。
「それじゃあ、また明日くるからねゴブちゃん」
「ゴブ~」
「しっかりなゴブ」
「ゴブゴブ!」
「明日は人参もってくるし~し~」
「いや、何で野菜……」
「それなら私も何かもってくるのだ!」
とりあえず、次の日は何か余裕があれば持ち寄ろうという話で収まりました。
こうして全員が帰路についたのです。
「桃子ってば何かいいことでもあった?」
「え?」
「おねえちゃん、ニコニコしてる~」
「う~ん、そうだね~ちょっといいことがあったかも~」
そう言って桃子は妹である桜木 咲の頭を撫でました。5歳の妹はとても可愛らしく桃子もとても大切に思っています。
「あ、さては桃子にも遂に彼氏が?」
「う~ん、彼氏とは違うかな~」
妹をなでなでする桃子に母が言いました。桃子の頭に浮かんだのは当然ゴブであり、彼氏ではないよね~と考えます。
「え~? 何それいみし~ん」
「いみし~ん」
ですが、それが逆に母の想像力を掻き立てたようです。妹に関しては真似しているだけでしょうが。
「そのうち紹介できたらいいんだけどね」
「ふふっ、楽しみに待っているわね」
「たのしみたのしみ~♪」
復唱する咲がとにかく可愛らしいですね。
お母さんに紹介、それが出来ればあんなに苦労しなくてもすんだかもと考える桃子です。
ですが、それはそう簡単なことではありませんね。
夕食を食べ終え、桃子が部屋に戻ります。窓を開けると心地よい風が彼女の髪と頬を優しく撫でました。風薫る初夏の夜。夏虫の合唱も少しずつ増えていきました。
「ゴブちゃん、どうしてるかな――」
夜空を見上げると、月が見え、そこゴブの影が写り込んだような錯覚に陥りました。
ふふっ、と頬が緩みます。まだ出会って1日なのに、妙に親近感を覚えている自分がいました。
「お姉ちゃん」
「うん、どうしたの咲?」
「え~とね、この字を教えてほしいの」
部屋に入ってきてトテトテと近づいてくる妹の姿とゴブが重なりました。勿論見た目も違いますし、性別(春男によるとオスらしいので)すら違いますが、身長は近いのでそう思ってしまったのかも知れません。
「お姉ちゃん何か楽しそう~」
「う~ん、そうかな。うん、そうだね。よ~し、じゃあお姉ちゃんが何でも教えてあげる」
「本当? わ~い」
無邪気にはしゃぐ咲が微笑ましく思える桃子です。そして妹のお願いに答えるお姉ちゃんなのでした。




