第12話 ゴブリンがダンスを披露するような物語
「ついたし~し~!」
「ここは?」
「あれ? 喫茶じゃん」
「あ~本当だ」
「ヘイ! お久だし~だし~!」
「いえ~い」
「いえ~い、いえ~い」
喫茶がやってきたのは通学途中の比較的大きな道路にある高架下のスペースでした。
そこには男女混合のグループがいます。ヒップホップ系のファッションをしており、思い思いにステップを踏んだりリズムを取ったり、つまりダンスの練習をしているようです。
そんな彼らと喫茶はどうやら顔なじみのようでハイタッチをしながら笑顔を覗かせました。
「おい喫茶。これがゴブとどう関係するんだよ」
「まぁ見てるし~し~」
そういいながら、喫茶が桃子に近づき、
「さ、ゴブっち~ち~こっちにくるし~し~」
と両手を広げました。
桃子はその屈託のない笑顔につられてゴブを渡します。桃子から喫茶の手に移り、後頭部に柔らかいものを感じながらもそのままダンス中の仲間のところへ連れて行かれるゴブです。
「何それ~? 喫茶ってそういうぬいぐるみが好きなの?」
「すげー意外じゃん」
「違うし~違うし~」
喫茶がゴブを地面におろします。そして頭をぽんぽんっとしながら、ほら挨拶っと促しました。
「ゴブ~」
「「「「「え? しゃ、しゃべった~~~~!」」」」」
ダンスをしていた面々が驚きの声を上げました。ぬいぐるみだと思っていたのが喋ればそれはそうなるでしょう。
「ちょ、喫茶なにしてるのよ!」
「むむっ、これは一大事でありますな!」
「何考えてるんだ喫茶!」
「いいからいいから見てるし~し~」
振り向きざまにニカッと白い歯を覗かせ、そしてダンスをしていた友達に向けて説明します。
「この子ね~ね~こんなふうにきぐるみ着てるけど面白いダンスするから見てほしいし~し~」
「へ? きぐるみ?」
「な、なんだそうか~通りで~」
「だよな~こんな生き物がいるわけないもんな」
「ゴブ~」
「でも、なんでゴブとしか言わないんだ?」
「キャラに入り込んでるんじゃん、じゃん」
「なるほど! だるキャラみたいなものね!」
だるキャラとはだらっとしたきぐるみを着たキャラクターのことで一時期町おこしなどで人気になったご当地キャラのことです。
「あいつ、きぐるみで押し通しやがった……」
「流石喫茶ちゃんだね~度胸がすごいよ」
感心する桃子です。全員の不安はこうして払拭されましたが。
「でも、ここで何をする気なんだろ?」
「踊りを踊ってもらうみたいでありますね」
黄切の言うように、喫茶はゴブにダンスを促します。
友達に頼んで音楽プレイヤーからミュージックを流してもらいます。
「ほらゴブっちダンスダンスだし~し~」
「ゴブ――ゴブっ! ゴブ~ゴブゴブっ♪」
喫茶がステップを踏んでゴブの前で踊りだしました。周囲からひゅ~ひゅ~という声や口笛の音。
喫茶の褐色の胸もリズミカルに上下しました。
「くっ、やっぱり喫茶はいいものもってるわね」
「大きいよね~」
「うむ、しかし大きすぎかと私は思います。桃子殿ぐらいの方が理想的かと!」
黄切が桃子を持ち上げ桃子が、ありがとうとお礼をいいました。桃子も決して小さくはありません。喫茶にはまけますがわりと大きい方なのです。
「あんた何赤くなってるのよ」
「べ、別になんでもねぇよ」
吟子に突っ込まれ赤也が目をそらしました。皆の話を聞いて妙に意識してしまったのかも知れません。
「お?」
「すごいすごい。いいわよゴブっち~」
「やるなゴブっち!」
すると何やらダンスをみていた友達たちが盛り上がりを見せました。
ゴブが喫茶につられて踊りだしたからです。ゴブのダンスは中々に独特なものですが、人の目を引きつける魅力があります。
かっこいいとか美しいなどでは決してありませんが、見るものを楽しませる軽快なダンスでした。切れも中々のものです。
「やったねゴブっち~ち~」
「ゴブ! ゴブ~!」
鼻息を吹き出し、ゴブはやり切ったといった表情。とても満足げです。
「本当面白いものを見せてもらったぜ」
「うん、良かったよ~ゴブちゃんも可愛かった
~」
「おう! うちのチームに入れたいぐらいだぜ!」
「本当? だったら入れるし~し~」
「「「「「ふぇ?」」」」」
「ゴブ?」
喫茶の友達が一様に目を白黒させました。ゴブも首を傾けて疑問顔です。
「実はゴブっち~ち~今住むところに困ってて~て~それで皆の誰か――」
「ちょっと待った! おい喫茶ちょっとこい! ゴブも」
「え? なんらし~らし~」
「ゴブ~」
喫茶とゴブが赤也に引っ張られて反対側の壁近くに立たされます。
「お前まさかあいつらの誰かに預けるってのがいい手だったのか?」
「そうらし~らし~みんな気のいい連中じゃんじゃん。きっと大事にしてくれるし~し~」
「いやいや気のいいとかそういう問題じゃないから」
「そうだよ喫茶」
「え~? え~? 何でらし~し~」
「いやいや! 風紀委員として見ず知らずの物に桃子殿の大事なゴブっちを預けるなど見捨ててはおけないのです!」
ほぼ全員から反対され、む~と喫茶が口を尖らせました。
「桃っちはどう思うじゃん? じゃん?」
「う~ん、私はゴブちゃんを大切にしてくれてゴブちゃん自身がなっとくするならいいと思うけど、でも、きぐるみとごまかすんだよね?」
「それはそうらし~らし~」
「それだと、本当のゴブちゃんを知ってるとは言えないから……」
「む~む~ならすべて話すし! すし!」
「いや、それは駄目だろ」
「そうだよ。それで騒ぎになったら大変なことになるし」
「じゃあどうするし! し!」
「喫茶」
喫茶はどうやら彼らなら例え正体を知っても大丈夫だと信じているようです。
すると、後ろからその友達が声をかけて来ました。
「あ、今説得するし~し~」
「いや、そのことなんだけど――」
真剣な顔で彼らは喫茶に話すのですが――




