第11話 ゴブリンを慕う仲間が増えていくような物語
「……し、仕方ありませんわね。買うのは諦めますが、精々可愛がってあげるとしますですわ」
「いや、その言い方だと誤解を生みそうだぞ」
確かにそうかもしれませんが、振り向いたアンジェリーナはどことなく満足げでした。
「私も、黄金院さんと仲良く慣れたらうれしいな」
きらきらとした笑顔を見せる桃子です。これまで桃子はあまりアンジェリーナと接点をもつことはありませんでした。
「……そ、それなら特別にアンジェと呼ぶのを許してあげますですわ!」
「うん、わかったアンジェさん」
「それもどこか他人行儀ですわね」
「なら、アンジェちゃんでもいい?」
「勿論ですわ! アンジェちゃん……うふふふ」
どうやら下の名前で呼ばれたことが嬉しいようです。
「桃子ってあいかわらず人たらしよね」
「うぅ、何かライバルが増えた気がするであります!」
吟子が呆れたように言いました。誰とでもすぐ打ち解けるのは桃子のいいところなのです。
何故か黄切が悔しそうですが。
「ところで――どうして土井さんはお金を胸の中に隠しているんですの?」
「あ、バレたし~し~」
「お前、喫茶……」
「違うじゃん、じゃん。ゴブっちがいらないなら勿体無いからあーしーがと思っただけらし~らし~」
「いや、流石にそれは駄目だろ……」
赤也がジト目を喫茶に向けました。
「もう、ほら喫茶。それは黄金院さんにしっかり返して」
「どうしても~? どうしても~?」
「当然でありますな」
「……まぁいいですわ。それぐらい上げるですわ。お近づきの印ですわ」
「マジ? マジ? 流石アンジェらし~らし~」
「それは駄目だよ」
目をキラキラさせる喫茶でしたが、ひょいっと桃子が谷間に挟まった札束を取り出し、アンジェに返しました。
「はい、お金は大切にしないとね」
「桃子さん」
「桃子でいいよ」
「あ……」
桃子の優しい笑顔にぽっとアンジェが頬を染めました。
「わ、わかりましたですわ。桃子の言うとおりにしますわ」
「うん」
「ううぅ、桃子は真面目すぎるし~し~」
「いやいや、当たり前のことだからな?」
名残惜しそうな目を札束に向ける喫茶へ、諭すように口にする赤也でした。
――オ~ホホホホッ! オ~ホホホホッ!
すると、何やら妙な笑い声がアンジェから聞こえてきました。
「あ、電話ですわ」
「着信音だったの!?」
吟子が驚きます。中々印象的な着信音ですね。
「はい、わかりましたですわ。すぐに帰りますですわ」
電話を終え、皆を振り返るアンジェ。
「残念ですわ。家に戻らないといけないですわ」
「うん、それじゃあまた明日だね」
「ええ、名残惜しいですが仕方ないですわ。それと、皆様もアンジェと呼ぶことを特別に許してあげても宜しくってよ!」
そう言い残し、アンジェはプールから去っていきました。
「何か嵐のようだったな」
「黄金の嵐ね」
「風より水がいいよ! 黄金す」
「はいストーップ! それ以上は女の子がいう台詞じゃないからね!」
慌てて吟子が葵の口を塞ぎました。
「ゴブ?」
「何だろねゴブちゃん」
「何か風紀が乱れる予感がしたであります!」
どうやらゴブも桃子も何のことかよくわからないようです。それは黄切も同じかも知れませんが、不穏な空気は感じてそうです。
「うぅ、あ~しの~あ~しの~の100万円が~が~」
「まだ言ってるのか喫茶。大体お前のじゃないだろう」
呆れる赤也です。100万円は大金ですが、確かに喫茶が受け取る理由のないお金です。
「それより結局振り出しに戻ったな」
「そうだね。ゴブっちをどうしようって問題が残ったままだし」
「それならいい手があるし~! るし~!」
喫茶がひらめいたといった顔を見せます。ですが、赤也と吟子がどこか心配そうな顔を見せます。
「いい手って、そこはかなとなく不安になるわね」
「たしかにな。聞かないほうがいいんじゃないか?」
「ひどいし~! し~! あーしだってやるときはやるし~! し~!」
喫茶が抗議の声を上げます。心外だといわんばかりです。
「私は聞いてみたいな。ゴブちゃんの為だし」
「ゴブッ!」
桃子に抱えられたまま、ゴブが右手を上げました。何となく自分の為に動いてくれているのは理解しているようです。
「流石桃子じゃん! じゃん! なら、みんなついてくるし~し~!」
そして喫茶が先頭を切って歩き出しましした。ちなみに葵はまだ泳ぎ足りないということでここで一旦お別れです。
「おいおい、まさか外に連れて行くのか?」
「そうらし~らし~」
「ちょっと大丈夫なの?」
「うん、ゴブちゃん、このまま大人しくしていてね」
「ゴブっゴブっ!」
こくこくと頷くゴブリンです。そして全員で学校を出ました。
そのままついていきますが当然いろんな人とすれ違います。ですが――
「ねぇねぇママ~あのぬいぐるみ欲しい~」
「それじゃあ今度の誕生日にね」
「やった~!」
母親に連れられて歩く幼女がゴブを指差しいいます。母親もゴブを一瞥した後、そんな会話を続けました。
「なるほど、動かなければぬいぐるみや人形にしかみられないってことか」
「確かにこれを見て生き物だって判断する人はいないかもね」
「流石桃子殿! 考えたでありますな!」
確かに中々のアイディアと言えるでしょう。ゴブは桃子に言われたとおりほとんど動くことはありませんでした。いい子ですね。




