第8話
「あいつって小田さんのこと?」
「うん」
「なんでまた」
「私あいつと中学校一緒だった」
福宮さんは基本的に自分以外の人間に対しては好きも嫌いもなく、無関心だと、そう思っていた。だから唐突に出た「嫌い」という言葉に戸惑ってしまった。
しかし、一つだけ気になることがある。
「でも福宮さんとは3歳違いだから中学校は被ってなくない?」
「あ、ごめん間違えた。地区が同じで小学校一緒だった」
「ああ、小学校ね...」
地区が同じというのは初耳だ。だから小田さんは妙に福宮さんのことを気にするのかと少し納得した。
「でも小学校の時からなら仲良くできそうなもんだけどね」
「やけん嫌いって言ってるやん」
「いやほら、昔はそうだったかもしれないけど今は小田さんだって変わってるかもしれないじゃん」
「変わってないから言ってるんだよ」
彼はこの時初めて福宮さんを怖いと思ったかもしれない。何度も言うようだが、福宮さんは他人にあまり興味がなく、好きも嫌いもないと思っていた。
「なにがそんなに嫌いなの?」
小田さんはたまにふざけすぎることがあるくらいで、慣れないながらも仕事はきちんとこなすし、持ち前の明るさで、職場にもすぐに溶け込んだように見える。
そりゃ、好き嫌いは誰にでもあるものだろうけど。
「そのうち分かるよ」
この時はそう言って軽くあしらわれた。多分だが彼女も人の悪口はあまり言いたくないのであろう。
「じゃあオッチー、私上がるから」
「あ、もう10時か、お疲れ」
「お疲れ、またね」
「うん、また」
高校生は遅くても夜10時までには退勤しなければならない。本当は、職場を出ないといけないとかってことも聞いたことがある気がするが、まあそこは店長たちの管轄なので気にしないようにしている。
「落合くん俺も上がりますね!」
「はいはーい、山口くんおつかれー」
「木山くんもおつかれー」
「あ、お疲れ様です」
高校生たちが続々と上がっていく、ここからは社会人の時間だ。小田さんに昨日のお礼でも言っておこうか、そんなことを考える。
「落合」
背中越しに小田さんが彼を呼び止めたのがわかった。少し表情が暗い、というよりは苛立ってるように見える。
「私福宮のこと嫌い」
...今夜も長くなりそうだ。