第7話
「おはようございまーす」
アルバイト先の挨拶は昼でも夜でも関係なく「おはようございます」だ。
「オッチーおはよ」
「福宮さんおはよー」
彼女が小田さんとの会話で少しだけ登場した福宮さんだ。
彼女はまだ高校2年生だが、高校生らしい若さがありつつも考え方や価値観なんかが妙に大人びている。そして彼とは特に仲が良い。なぜか分からないが「オッチー」と呼ばれている。
「オッチー、この前彼氏がさ」
「うんうん」
だいたい彼女と話す時の話題は学校のこと、彼氏のこと、家のこと、極めて普通の女子高生だ。
彼らはバイト中にも関わらずによく喋る。別に彼らが特別喋るわけでなく、この職場は最低限手を動かしていればあとはなんでもオッケーという緩い職場なので特に問題はないらしい。
「で、こっちが眠いって言ってるのに通話したいって」
「したの?」
「いや断った」
「わろた」
今日はえらく彼氏関係の愚痴が多い。彼女は告白されればとりあえず付き合うタイプだ。しかも自分から好きになったことはないらしい...。魔性の女だ...。
「彼氏のかまちょのレベルが低い、オッチーを見習ってほしいくらい」
「かまちょのレベルってなんだ」
それにしても今日は愚痴が多い。「好きでもないのに付き合うから」なんて言葉が喉元まで出かかる。しかしここはグッと堪えた。そんなことを言えばただでさえ悪い彼女の機嫌がより悪くなるのは目に見えている。それに、彼女の生き方そのものを否定してしまうようなことを言いたくはないからだ。
ある程度喋ったところで、ピークがきた。おしゃべりは一旦中止して、仕事に戻る。(厳密には今も仕事中だが)
「はいただいま!」
「16番さんお伺いです!」
「22番さん商品出ます!」
「お客様お帰りです!ありがとうございます!」
「いらっしゃいませ!」
「あとウェイティング2組だよー!みんな頑張ろう」
普段はあまり声を張り上げることのない彼も、バイト中はバチっとスイッチが入り活発になる。これはオンオフがしっかり切り替えてると言うべきか、普段はなにも考えてないと言うべきか。
「おはようございます」
ちょうどピークが終わりかけたくらいだろうか。締め作業要員の小田さんが出勤してきた。
「小田さんおはよう、昨日はお疲れ様」
「おはよう、よく寝れた?」
「まあまあかなー」
少し挨拶を交わしたところで、小田さんの後ろから福宮さんが近付いてくるのが見えた。
「オッチー、16番のバッシング手伝って」
小田さんが小さく「げ、福宮」と呟いたのが聞こえた。福宮さんの機嫌があまり良くないせいかは分からないが、語気が強く感じる。
「あ、うん。手伝おうか」
大人しくバッシング(=片付け)を手伝う。ついさっきまで動き回っていて疲れたのか、お互い無言のままグラスや皿を片付ける。
ふと福宮さんが辺りを見回してから一呼吸つき、呟いた。
「ねえ、あいつ嫌い」