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第6話

コンビニで小田さんはお茶を、彼はコーヒーを買い車に戻った。


「あーもう低い!低いなあ!」


彼の車は車高が低く、慣れていない人からすると乗り降りが大変らしい。


「本当はもっと低くしたいんだけどねー」

「やばいね、腰がブレイクしそう」

「腰がブレイク!あはははは!」


腰がブレイク、という単語が彼のツボにハマったらしい。普段は感情を表に出さないクレバーな印象の彼が珍しく大笑いした。


「え、そんなに面白かったかな?」

「いやー、面白いよ!小田さんセンス良いね」


彼が無邪気にそう言うと、小田さんも満更でもない様子ではにかんだ。お互いに飲み物を一口ずつ飲み、再び車が動き出した。


「落合は車好きなの?」

「ん?嫌いな人がこういう車に乗ると思う?」

「思わないけど」


彼が乗っている車はトヨタのスポーツセダンで、2000年前後に作られていたものらしい。


「外で聞くと結構うるさいなって思ったけど中は静かなんだね」

「だってまあ...車検は通るし、内張り剥がしてないしね」


「なんでこの車にしたの?」

「気になる?結構長くなるけど」

「いいよ!気になる!」


そこから彼の話は長かった。エンジンが~という話から始まり、バンパーやらグリルやらといった素人では分からないような単語まで飛び出した。


今日一日だけで小田さんにかなり心を許したからこそ、こういうマニアックな話をしたのだと思うが、少々悪手だったようだ。小田さんは途中から生返事ばかりになり、お茶を飲む頻度が増えた。


「で、何が言いたいかっていうと」

「うん」

「この車が好き」


あれだけダラダラと話を続けた締めがシンプルだったせいか、それともようやく話が終わった安堵からか、小田さんの表情が少し和らいだ。


「あれだけ話して結局それかい」


冗談めかして笑いながらそう言ったが、おそらく本心であろう。本心がスラっと言えるということは小田さんも少しばかり心を許しているようだ。


さて、彼が自分の趣味をひたすら語っている間にもうそろそろ半島一周が終わってしまう。


明日も会うというのに、無駄なくらい「今」が惜しく思えるのはなぜだろうか。


時間は午前4時半、半島一周が終わり小田さんの車が停めてあるバイト先の駐車場に到着した。


「じゃあ小田さん、今日は付き合ってくれてありがとう」

「こちらこそやねー、楽しかった!また行こうね!」


後半はほぼほぼ彼の趣味の話だったが、それでも楽しいと言えるのは、きっと前半の恋愛話や、時々絡む彼の冗談のおかげに違いない。


「じゃあまた明日ー、ちゃんと睡眠取らないとだよ」

「それ今まで連れ回してた落合が言う?」

「うん、言う」

「あはははは」


また2人で軽く冗談を言い合い、帰路につく。


少しづつ交通量が増えてきて、街が音を取り戻していく。さっきまで2人で居たせいだろうか、帰り道がやけに寂しく感じる。

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