最終話
「ほら、もう少しだよ」
「ホントだ、明るくなってきた」
口から白い吐息が漏れる。気温が0℃に近い朝方、いつかの河川敷に座って朝焼けを待っている。
蒼い空が、東の方向から段々と赤く染まってきた。
「これをどうしても一緒に見たかった」
「意外とロマンチストなんやねー」
やはり自分のイメージとは合わないらしく、隣の女の子がニヤニヤ笑う。
「寒い中待たせてごめんね」
「いいよいいよ、待つ時間もデートのうちでしょ」
さっきの延長線上で、今度はケラケラと笑う。デートってわけじゃないんだけどな…。
「私、こういうなにもしない時間も結構好きだよ」
「そう言ってくれるとホッとするよ」
「朝って意外と静かなんだね」
「でしょ、俺もビックリしたよ」
この時期の刺さるような寒さがより幻想的な景色を引き立たせてくれる。まるで世界の中心にいるような錯覚に陥る。
「あ、ねえ見て、綺麗な花」
「ああそれはカランコエっていう花らしいよ」
「へえー、物知りだね」
「たまたま知ってただけだよ」
あの後、いつか役に立つかもしれないと思って記憶を頼りにネットで調べていた。役に立ってよかった…。
「そろそろ日の出かなぁ」
「そうだね、もう少しだ」
それから間もなくして、陽が昇り始めた。
「綺麗…」
女の子はすっかり見惚れてしまったみたいだ。太陽をずっと見つめている。眩しくないのか、それとも眼球が麻痺してるのか。
「朝って、音、無いんだね」
「この時間に出歩くことってないもんね」
「うん、別世界みたい」
「非日常って感じがするでしょ」
「うん、もう少しだけ、ここにいよ?」
しばらく2人で朝日を眺めた後、影が伸び始める時間までお喋りをした。
「学校って、不親切だよ」
「急にどうしたの?」
女の子が不思議そうに顔を覗き込む。
「答えがあることしか教えてくれないんだもん」
「ふふ、まーたおかしいこと言ってる。
2人の仲に正解はない。




