第50話
「寂しかった。どこに行っても、散歩してても、海に行っても、少し感傷に浸る度に自分は今1人なんだって思うと、寂しくて、悲しかった」
「ごめん…」
「でも小田さんを恨めしく思ったことはないよ」
「…」
「小田さんは俺のことを1人にしたけど、同じくらい2人にもしてくれたから」
「なんで」
「だからむしろ、もっと小田さんと仲良くなりたかった。”許さない“なんて、そんなことは言わないよ」
「なんでなんでなんでなんで?
落合、分かってるの?今落合は勝手な都合で自分に迷惑をかけた相手を許そうとしてるんだよ?
ダメ、バカ、嫌い、落合なんて嫌い」
「なんとでも、俺は小田さんを咎めるつもりはないよ」
「嫌いだからね、落合が私を許しても、私は落合が嫌いだからね」
「じゃあ嫌われないように努力するよ」
「…後悔するよ」
「構わない」
「…」
「俺ともう一回、友達になってほしい」
「…バカァ、そんなの、そんなの断れないじゃん」
小田さんの目から涙がポロポロとこぼれ落ちた。
雌伏1ヶ月、俺は小田さんに勝ったんだ。
「ふふふ」
涙で化粧が崩れてしまった顔で笑っている。こんな状況じゃなければ不気味だと思っていたと思う。それも今は、照明で薄暗い視界と本当の意味で心から通じ合った高揚感で、とても綺麗に、艶やかに見えた。
「やっぱり落合はおかしいよ」
「そうかなあ?」
「そうだよ、おかしいよ」
喋らなくなるきっかけになった”あの時“と同じ文言を繰り返される。同じ言葉でも、今度の口調は優しく、噛み締めるように言っているのが分かる。
それを感じた途端、安心感で自分の目から涙が溢れてきた。
「あれ?なんで泣いてるんだろう」
「あはは、変な落合」
「そういう小田さんだって泣いてるじゃないか」
「違うこれは今日久々にねぎを仕込んだからそれで…」
「じゃあ俺もねぎのせいだ」
そのやり取りが面白くて、落ち着くまでずっと2人で笑いあっていた。
ねぎの花言葉は「愛嬌」「笑顔」「微笑み」今の2人にピッタリだ。




