第5話
彼らがドライブを始めてからそろそろ1時間になる。その時間のほとんどを恋愛の話題で過ごしているので、どこの世界でも恋愛事情というものはなんだかんだでみんな興味があるんだなと思わせられる。
「1人かー、いつ頃?」
他人の恋愛事情にはあまり興味がない方の彼も、ずっとこういう話が続くものだから、少し気になってきたようだ。
「高1の時、告白されて付き合ったけどすぐに別れちゃった」
「それは惜しいことをしたねー」
「いやー、別に?好きになろうとはしたけど、やっぱり無理だったからさー」
「せっかく好かれてたのにもったいないなー」
また小田さんの表情が一瞬曇る。
「好かれてれば誰でもいいわけじゃないから」
「一理、いや百理あるね」
「あははは」
また表情が元に戻る。
おそらく彼は無意識無自覚のうちにやっているのだろうが、完全に小田さんの心を弄んでいるように見える。
「でもさ、好かれてから好きになるパターンもあるんじゃない?」
「ないないないない」
「俺は大半の人はそうだと思うけどなー」
「あー...まあ人それぞれじゃない?」
「それはそうやねー」
人それぞれ、という言葉を使ってしまうと途端にその話題が終わってしまう。小田さんにとってこれは終わらせたい話だったのか、それともたまたまなのかは分からないが彼は少し寂しさを感じた。
「落合はなんで今のとこでバイトしてるの?」
すぐさま小田さんから質問が飛んできた。どうやら終わらせたい話だったようだ。
「俺は高校の時にバイトしててね、卒業して違うところに就職したんだけど、就職先があんまり良いところじゃなくてね、半年くらいで戻ってきたよ」
ふーん、と生返事が返ってきた。おそらくそこまで興味のある話ではないのだろう。本当に、ただ話題を逸らすためだけの話。彼はそれを分かって付き合ってあげることにした。
「そういう小田さんはどうしてうちに?」
「えー、なんか楽そうだった」
「マジか、まあ実際楽だしね」
彼らのバイト先は夜の12時、お客さん次第では1時頃まで開けておくことがある。しかし22時以降はほとんどお客さんも来ないため、締め作業なんかが終わってしまえばひたすら喋るだけなのである。
「それより喉乾かない?コンビニ寄ろうかなと思うんだけど」
「いいよ!私もなんか買う!」
運転しっぱなしもなかなかに疲れる。喉も渇いたが小休止を挟む意味でもコンビニに寄ることにした。