第49話
「ごめんね落合、おまたせ」
「ああ、いや、大丈夫」
何を言われるのかが気になりすぎてまったく仕事が手につかなかった。良い方だろうか、悪い方だろうか。十中八九悪い方だとは思う。
「落合」
「うん?」
名前を呼ばれジッと見つめられる。しばらくするとその目から視線を逸らせなくなった。
「今まで、ごめんね」
絞り出すようにか細い声で小田さんは言った。
あまりに意外な言葉に、なにも言うことができなかった。
「嬉しかった、おかしくないよって言ってくれて
やっぱり私みたいな人間はさ、あんまり良い顔されなくて、イロモノで見られて、そういう扱いに慣れてたから落合が受け入れてくれてすごい嬉しかったんだ。
落合だけだったよ、普通のことみたいに言ってくれてさ、受け入れてくれたの。
色々優しくもしてくれて、落合といる時間って少し特別だった。
でもそれだけ怖かった。
私じゃ落合の気持ちに応えられない。
応えられないから、いつか落合は離れていくんじゃないかって思って、それなら自分から離れてしまった方が私は傷付かないなって思って、それであんな言い方しちゃって…
本当はずっとずっと謝りたかった。
落合に気まずい思いさせたことや、福宮のことでやたら落合に突っかかったこと、今までの全部を謝らせて。
あの時、落合はここで私に謝ってくれたよね、私も謝ろうって思ってたんだ、だけどあそこで謝ると、落合は優しいから絶対私を許してくれる。そしたら、私はきっと落合から離れられなくなる。
こんな私を、落合が愛してくれるわけがない。
私なんかが落合の気持ちを奪っていいわけがない。
今までだってそうだった、男でも女でも、最後は私を置いていくの。
だから落合も私のことは置いていって。
お願いだから私を許さないで
許さない、って言って」
「…」
「お願い」
「小田さん」
「早く」
「小田さんは1人で寂しくないの?」
「え?」
「俺は1人で寂しかったよ」




