第47話
アルバイトが終わってなんとなく海岸線をドライブしてみる。最近胸のモヤモヤが収まらなくて、なんとなく、時速60キロでこのモヤモヤが吹っ飛んでいってしまえばいい。そんな淡い期待を込めたりもした。
綺麗な月夜だ。こんな日に1人でドライブしていて、寂しくないと言えば嘘になる。
そうだ、缶コーヒーと友達になろう。
途中コンビニに寄りコーヒーを買う。1人でプルタブを開けて2人になった。福宮さんや小田さんが頬に擦り付けていたのと同じ味だ。あまり好きではない、むしろ少し苦手な味だが、すっかり思い出の味になってしまった。
「はー、落ち着くな」
コーヒーを飲んでホッとひと息つく。寝静まった街でコンビニの明かりがやけに目に刺さる。意外とこの時間でも入れ替わり立ち替わりで車が入ってくるので案外落ち着かない。
早々にこの場を立ち去ることにした。
さて、ドライブを再開させる。今日はガソリンもないし適当にブラブラして帰ろう。
音楽はなにをかけようか。最近ランキングを独占している男性歌手にしようか、それとも人気のロックバンドにしようか。散々迷った挙句に今年大ヒットした映画の主題歌にした。短調のメロディーが今の自分と最高にマッチしているような気がした。半分、自虐のようなものだ。
「~♪」
なんとなく気を紛らわしたくて口ずさんでみる。ところどころ歌詞がうろ覚えだったが練習すれば歌えそうだ。今度福宮さんとカラオケに行った時にでも歌ってみよう。
なんとなく車が停めれそうな広い路肩に駐車し、海を眺める。テトラポッドから眺めた時より少し波は高かったが、それでも月は綺麗に写っていてノスタルジックな気分にさせられた。
なんとなくその場に腰を下ろしボンヤリと今立っている大地の外の世界に視線を向ける。波の音を聞いているとなんだか眠くなってきた。
海をみてもなんの感動もない。生命は海から生まれたというが水に母性を感じるわけでもないし、そんなことより中学の時に合唱コンクールで歌ったやたらと大地を讃えようとする歌の方がよっぽど共感できる。
しかしまあこういう感傷に浸りたい時になぜか海に来たがるのは生命の帰巣本能というやつだろうか、だとしたらこれほど面白いこともなかなかない。
このままずっとここにいても警察に職質されそう(車も路肩に停めっぱなし)だったので、シンミリするのはこれくらいにしてちゃっちゃ家への道に車を走らせた。




