第45話
アルバイトに行く度に小田さんと顔を合わせるのがしんどい。前までは手が空くとすぐに喋ったりしていたのに、最近はまったく喋らなくなった。
「まだ落合さん達喧嘩してるんですかー?」
ニヤニヤしながら早川さんが話しかけてくるが、もう正直ほっといてほしいくらいだ。
「そうだよ、ちょっと今回は無理かもしれない」
「えーそれは気まずいです」
前までなら弱音やマイナス思考な発言は絶対に吐かなかったのに、今回のことがあってから度々口に出すようになった。そうやって吐き出さないといけないほどストレスが溜まっているのか、それとも同情を誘って味方を増やそうとしているのか、自分でも分からなくなる。ただ一つ言えるのは、こんなんじゃバイトリーダー失格だってことだ。
「ごめんね、俺が弱音吐いちゃダメだよね」
「いやー、別になんとも。確かに落合さん、弱い部分見せなくてすごいなーって思いますけど、強いだけがリーダーじゃないですよー」
「あはは、ありがと」
「だからもっと私や沙織を頼っていいんですよー、まあなにもできませんけどねー」
澄ました顔で自虐風に言ってくれるが、肩の荷が落ちるような感覚だった。福宮さんといい早川さんといい、最近の高校は良いことを咄嗟に、何気なく言えるようになる教育でもやってるんだろうか。だとしたらその授業を是非とも受けてみたいものだ
。
「あーほら、噂をすれば小田さん来ましたよ」
「おはようございます」と小さな声で出勤してくる小田さんを見て、内臓が嫌な感じでジワリと痛んだ。前にもこんな痛みを経験したような気がする。あれは確か…まだ福宮さんと小田さんがどうにか仲良くできないかと模索していた頃だった記憶がある。
今も昔も、小田さんは俺の内臓を虐めるのが好きらしい。否、自分が勝手に虐められているような気がしないでもないが。
「さて、今日も頑張るか」
小田さんとの気まずい時間をなんとかして乗り切るために気合を入れる。早川さんから「もう一日終わっちゃいますよ」と茶化されたが気にしない。それだけこの数時間に神経を尖らせておく必要があるのだ。
「じゃあ落合さん、私は小田さんと入れ違いなので上がりますねー」
ああ、早川さんが上がるとまた店を閉めるまで小田さんと2人か。
さっき入れたばかりの気合が早くもどこかにいきそうなのを感じながら残っていた締め作業にとりかかる。なぜ締め作業を残していたかというと、なにもしない時間が気まずくて気まずくて仕方ないからである。
「落合さん、ファイトです」
私服に着替えた早川さんが帰り際に右手で拳を作りながら小声で囁いた。
まったく人の気持ちも知らないで…。
「さて、今日も頑張るか」
もう一度気合を入れ直した。




