表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/53

第43話

今日はなんだかやけに月が近く感じる。中秋の名月とは真反対な季節だし、冬みたいに空気が透き通ってるわけでもない。逆に空気が透き通ってないからボヤけて大き見えるのかもしれない。もしくは意識していないだけでいつもこれくらいの大きさなんだろうか。


「で、落合、謝ることって?」


もうすっかり夜でも寒くはなくなった。外で話すにはちょうどいいくらいの気温かな。


「この前のこと。いや、この前だけじゃない、出逢ってからずっと、今までのこと。俺の男女の仲に対するズレた意識のせいで小田さんに嫌な思いをさせてしまったこと。更には福宮さんとの異常な距離の近さ、これに関しては福宮さんと関係の整理をしてきた。だからと言って許してくれなんて都合の良いことは言わない。とにかく、申し訳ない」


そこまで言って、頭を下げる。最近頭を下げることばっかりだ。こんなにヒョヒョイ謝ってたら心からの謝罪とは思われないかもしれない。だがこれ以外に許してもらう方法が思い浮かばない。


「謝りたいことって、それだけ?」


目を細めて、正面にいる俺を極力視界に入れないようにしながら小田さんは言った。


嫌われたものだ。言葉を選んで絞り出したつもりだが、「それだけ?」ということは謝罪の言葉も足りなかったのだろう。


「ごめん、これだけ」


今更急いで言葉を付け加えたところでそれに心はこもらない。正直に言った。


「そう、じゃ」


短めに返事をして小田さんは車に乗り込み、発進させた。ただ遠ざかっていく白い軽自動車をボンヤリ眺めるしかできない自分が恨めしく思う。


あまりに一瞬だった。


しばらくそこに立ち尽くし、現実を静かに受け止め数瞬空を見上げる。今日は本当に月が大きい。


叶わなかった。


仲の修復は不可能だった。


福宮さんとは自分の勝手な都合で距離を置き、小田さんには気持ちは届かず。


受け止めたつもりの現実が、胸からこぼれ落ちそうだった。こんな負の現実なんていっそこぼれ落ちてしまった方がいいのかもしれない。でもそれをするには自分があまりに滑稽に思えた。


この感情は、静かに胸にしまっておこう。いつかきっとこの感情が自分を強くする。今はそんな根拠のない予感に縋るしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ