第42話
「小田さん、この後時間ある?」
福宮さんとは関係の整理をしたが、問題は小田さんである。なにかいい謳い文句で誘えないものかとあれこれ考えてみたがまずはしっかり会話をするところから始めよう。
「ない」
バッサリ。いや、なんとなく予想してはいたがここまでバッサリ切り捨てられると怒りや悲しみを通り越して、通り越すどころか一周回って微笑ましく思えてくる。この状況でメンタルが鍛えられたのかもしれない。
「私、もう話すことないから」
「俺はある」
「いやないから」
本当に、心の底から嫌そうに小田さんが答える。なんだかんだで話しかけたら答えてくれるので良い人だと思う。これで会話もままならないようならそれこそ仲直りの「な」の字も出てこなかっただろう。
「あるよ、きっと小田さんもあるはず」
「ないって」
「ある」と「ない」をお互いに繰り返す。まるで近くにいるのに決して同じ色を示すことのない信号機のよう。
でも信号機と違っていくらでも色を変える術を持っているのが“人間”というものだろう。
「この場(アルバイト先)で言うのは控えようと思ったけど」そこまで言うとあれだけ避けてきた小田さんも顔を上げた。普段冗談半分のことしか言わない俺のいつになく真剣な表情に話を聞く気になったと信じたい。
「この前のことで謝りたいんだ。ほんの5分でいい、謝る時間をくれないか。それを聞いて小田さんが許してくれるとか、俺のことを見直してくれるとか、そんな高望みはしないから、俺の言葉を聞いてほしい。ダメかな?」
まさかアルバイト先で頭を下げることになるなんて、小田さんに頭を下げてるこの姿を見たら早川さんや福宮さんはなんと思うだろうか。俺への人望はなくなるかもしれない。
まあ見られてないから関係ないけど。
しかしその甲斐あってか小田さんも腕を組んで考え始めた。そして時計とにらめっこし始めた。5分がどれくらいの長さなのか確かめている風にも見てとれたが、きっとそこまでは考えてないだろう。
「じゃあ5分ね」
小田さんが5分という言葉を絞り出すまで何分くらいだっただろうか。2分もかかっていなかったように思える。
意外と5分って長いんだなあ。
どんな言葉で謝ろうか、頭をフル回転させる。決戦は目の前だ。




