第4話
「福宮のこと好きなの?」
「え?」
唐突な質問にハンドルを握る手が少し汗ばんだ。やはり女の子はそういう話題が好きなのかもしれない。
もしくは、小田さんが彼に好意を持っている可能性もあるかもしれない。
「まさか、ただの友達だよ」
さっきも書いたように、彼からしてみれば福宮さんはただの仲の良い友達だ。男女の違いはあれど、そこに恋愛感情は存在しないだろう。
「落合今まで好きな人いたことあるの?」
小田さんは彼が福宮さんを好きかどうか、ということよりも彼に恋愛という概念があるのか、ということに疑問が移ったようだ。
なんにせよ話題が逸らせそうだったので彼は内心ホッとした。
「それくらいあるよ」
「じゃあ、今まで何人いた?」
「....2人」
「あー、意外と少ない!」
"意外と"ということはもう少し軽い男だと思っていたということで間違いないだろう。
「その2人も、本当に好きって意味じゃないと思うけどね」
「え?どういうこと?」
彼曰く、1人は高校の時にお世話になった先輩で、彼が少し落ち込んでいた時期に、色々と話を聞いてくれたり精神的支柱になってくれたそうだ。
「その人がいたから救われたし、今こうして生きてるようなもんだよ」
そしてその人に救われたように、自分も誰かを救えたら、というのが彼の理想らしい。
「それはもう"好き"じゃなくて憧れだね」
「あはは、確かにそうかも」
もう1人は同い年の子で、その子も彼と同じく落ち込んでいた時期があったらしく、似たような体験を共有できたことが嬉しかったらしい。
「そういう"好き"はいいと思うよ!」
「そう?満足していただけたならなにより」
「あはは、なにそれー」
彼はむしろ、こっちの"好き"の方が違和感があるように感じている。『他の誰にも言えないような体験』を共有したことによる仲間意識のようなものだと考えているからだ。
ではなぜ"好き"だと思ったのかだが、たまたま、どこかで、好きなのかもしれないとそう思った時期があった。そしてそう思ってしまったのなら、それはもう、そういう感情だと、彼はそういう性格だった。
「じゃあ小田さんは今までに彼氏は何人いた?」
「えー...秘密!」
「え、もったいぶらずに教えてよ」
「どうしよっかなーっ」
この時、小田さんの顔が少し曇ったのを彼は見逃してしまった。
「えっとねー、1人いたよ」
「え、いたの?」
「こらー、いないと思ってたんかいー」
「いやいやごめんごめん、意外とモテるんだなって思って」
「こらーー」
このちょっとしたやり取りで小田さんの表情が元に戻る。
彼が気付かぬうちに損ねてしまった機嫌は、彼が気付かぬうちに直したようだ。