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第39話

『福宮さんはそろそろ受験勉強しないといけないんじゃない?』

『いやいや、まだ6月だよ?』

『早い方がいいじゃん』

『後で頑張るからまだいいの』


他人同士の人間関係はもはやどうでもいいと思えるようになってきたが、自分の人間関係は大事にしたい。小田さんと仲良くしたいし福宮さんとも仲良くしたい。


絶対にそれができる方法があるはずだ。


威勢がよかったのもここまで、自分の都合のことしか考えていないことに気が付き嫌気が差した。


考え過ぎで痛くなってきた頭を冷やすため少し散歩しよう。いつだったかの心が震えたあの瞬間にまた出逢えるかもしれない。そんな淡い期待を抱いて家の外へ一歩踏み出した。


外はまだ真っ暗で、街は死んだように眠っていた。時間は午前1時を半時間ほど過ぎたところ、見慣れたいつもの街並み。


眠った世界に自分1人だけが取り残されているような寂しさに襲われたが、なんとなく1人になりたかったので心地の良い寂しさだった。


寂しいのが心地いいなんて、と自嘲する。たまにはそういう時があってもいいだろ、と今度は自嘲した自分を更に鼻で笑う。


なんとなく30分くらい歩き回って海に着いた。果たして計算されてるのかそれとも無造作に置かれてるのか分からないテトラポットが出迎えてくれた。


「よっ、ほっ」


テトラポッドの上を、隙間に落ちてしまわないように慎重に歩く。少ししたらそれにも飽きて海の方を見ながらあぐらをかいて座った。


海はとても凪いでいて、静かで、黒かった。


「~~~!!!」


なんとなく言葉にならない声をお腹の底から思いっきり叫んでみた。もちろん返事はないし、山ではないのでやまびこも返ってこなかった。正真正銘、1人だ。


「なんで俺がこんなことで悩まなきゃいけないんだよ」


「2人と仲良くしようとしてなにが悪いんだよ」


1人だということが分かったので、今度は言葉にしてハッキリと、でも小さく、誰かに話すように声に出した。


このまま海に飛び込んでみたらどうだろうか、あの2人は悲しむだろうか、小田さんはなんだかんだで悲しむかもしれない、福宮さんは…あの子はむしろ葬式とか来ないかもな。


そこまで考えて、やめにした。


自分の価値を、悲しむ人間がいるかどうかでなんて決められてたまるものか。俺はまだ生きている。自分の価値は自分で決める。


そこら中の映画やドラマで使い古されてきたセリフだが、今このモヤモヤした感情を振りほどくには十分な言葉だった。


そうだ、こんなところでなにをしている。行動しよう。小田さんとも、福宮さんとも仲良くできるように。


いてもたってもいられず、足早に家へと帰った。

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