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第37話

最近また小田さんから避けられている気がする。というか、確実に避けられている。挨拶しても返事はなし、話しかけても無視、他のアルバイトが上がって2人になった途端に裏で作業するとか言い出す始末。あまりに露骨だった。


「なんなんだよ、まったく」


普段バイト先ではマイナスなことは言わないようにしているが、あまりにイライラしたためついつい口に出してしまった。


「あはは、落合さん達また喧嘩したんですかー?」


早川さんが笑顔で話しかけてくる。案外この状況を楽しんでるようだ。この子は意外とメンタルが強いのかもしれない。


「喧嘩したかなぁ?急に避けられるようになったと思うけど」

「だから気難しいって言ったじゃないですかー」

「難しすぎだよ…」


「メンタルやられてますね」と心配したような顔で覗きこんでくる。後輩から心配されるようじゃ先輩失格だ。


「大丈夫、なんとかなるよ」と心配かけないように言うが、早川さんに言ったのか自分に言い聞かせたのか分からなくなり自嘲気味に笑ってみせた。


そしてまた2人になった。幸いお客さんがまだ1組残っていたので小田さんは裏で作業できずにいた。


これはチャンスだ。まだこの前のお礼も言えていないのでそれから切り出すことにしよう。もっとも、また無視されればそれまでだが。


「小田さん、この前は急に代わってくれてありがとうね」


小田さんは明らかに嫌な顔をして「返事するしかないか」といった様子で嫌々話し始めた。


「ああ、この前ね、楽しかった?」



「楽しかった?」とはどういうことだろう?遊びに行くために休んだとでも勘違いしているのだろうか?流石にそんなことはしない。


「楽しかった?って…別に遊んでたわけじゃないよ」

「ふーん」

「信じてないでしょ?」

「うん」

「うんって」

「落合」

「なに?」

「私帰る時福宮ん家通るんだ」


これは初耳だ。そういえば同じ地区とか言ってたような気もするな。


「この前代わった時、あいつん家の車じゃなくて落合の車が停まってたの見てさ、あんな車乗ってるの落合くらいだから間違いないよね?あの日遅くて1時くらいに通ったけど電気も点いてたし2人でいちゃついてたんでしょ?人が善意で代わってあげたのにあんまりじゃない?」

「それは違うよ」


大きく息を吸って一息で言ってしまった小田さんとは対照的に、自分でもえらく冷静なのが分かった。きっとこの誤解は解けると思っていたのかもしれない。


「いちゃついてたわけじゃないよ、福宮さんが風邪ひいたって言うから看病してた」

「夜中の1時まで?」

「その日親が帰ってこない日だったらしくて、病人を1人で置いとくわけにもいかないから側にいてあげたんだ」

「おかしいよ…おかしいよ落合、普通はそんなことしないよ」

「普通だよ、休んだ理由をすぐに言わなかったのは謝るから」

「なんなのさ、なんでそんなに冷静なのさ、やっぱり落合たちは狂ってる、狂ってるよ。おかしいよ。友達だって言ってるけどさ、明らかに一線越えた仲じゃん、男女なんだよ?そういう仲じゃないって言うんならちゃんと一線は保った振る舞いをしてよ!」


「男女だからって必ずしもそういう仲になるわけじゃない、前にも言ったはずだろ」喉まででかかった言葉がなぜか声にはならなかった。それはきっと妙に冷静だったからかもしれないし、声に出してしまうと小田さんとの仲は修復できなくなるかもしれないと直感的に思ったからかもしれない。


代わりに「ごめん」と一言だけ謝ったが小田さんからの返事は返ってこなかった。心から謝っていないと思われたんだろうか。


さっき言い止まるのがもう少し早ければ、口論に応じていなければ、後悔先に立たずなんて言葉を思い出した。

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