第36話
食器を片付けて、使った鍋なんかを元あった位置に戻す。福宮さんも寝たし後は帰るだけだが、その前にもう一度スーパーに行ってヨーグルトや清涼飲料水を買ってきてあげることにした。
「どんだけ過保護なんだよ」
自分でも呆れるくらい過保護にしていると思う。だいたい、こんなことをしても自分の得にならないのに。
そこまで考えると笑いが込み上げてきた。
損得じゃないんだよな、これが。
ヨーグルトと清涼飲料水と、のど飴と、これくらいでいいか。さっさと買って足早に福宮さんの家に戻る。
戻るとトイレの電気がついているのが分かった。そういえば飲み物を飲ませたりはしていたがトイレに連れて行くことはしなかった。なんたる失態だ…。しかし福宮さんのことだから提案してもそれだけは意地でも拒否したと思うが。
部屋に買い物袋を置き、帰る前にひとこと「買ってきたよ」と言っておきたかったのであまりこういうのは良くないんだろうが、ドア越しに聞こえるくらいの声で言ってから帰ろうと思った。
コンコンとドアをノックすると「うーん」と声が聞こえた。
「福宮さん、ヨーグルトとか部屋に置いてるから気が向いた時に食べてね」
「あー、ありがと」
「じゃあ帰るから、ちゃんと戸締まりしないとだよ」
「待って、もう出る」
ドアが開き、フラフラと福宮さんが出てきた。
「オッチー、今日はありが…あっ」
急に福宮さんの全体重がのしかかってきた。咄嗟に避けるわけにもいかず受け止めたが、抱きしめるような体勢になってしまった。
「ごめん、体に力入らない」
「大丈夫…じゃなさそうだね」
「うん、大丈夫じゃない」
「そのまま力入れないでね」
「うん」
抱きしめるような体勢から右手で体を支え、左手で足を持ち上げた。いわゆるお姫様抱っこ、というやつだ。
「オッチー力持ちだね」
「まあね」
口ではそんなことを言っているがかなりギリギリだった。いくら福宮さんが女の子で軽いとは言え、人1人分の全体重が両腕にかかっているのだ。今すぐ千切れるんじゃないかと思うくらい腕の筋肉が悲鳴をあげる。
「よっと」
部屋の前についたので最後の力を振りしぼってゆっくりと下ろしてあげた。
まだ体に力が入らないのか、福宮さんは彼に寄りかかるようにして歩けずにいた。
部屋のドアを開け、もう一度お姫様抱っこで布団まで運ぶ。
「ゲホッゲホッ…ごめんね」
「いいんだよ、これくらい」
しかしこれでは戸締まりする人間がいなくなってしまう。病人が1人しか家にいないのに鍵をかけないんじゃ、あまりに無用心すぎる。
「福宮さん、親御さんはいつもいつぐらいに帰ってくるの?」
「ん、だいたい次の日の昼過ぎくらい」
「じゃあ朝方くらいまで用心棒代わりに起きとくよ」
「でも…ゲホッ」
「そんなんじゃ心配だしね」
「うー、ごめん」
次の日、午前7時まで起きていたが何事もなく、杞憂で済んだ。福宮さんも一晩寝たら少し良くなったみたいで、「少し頭痛がするくらい」と言っていた。
そのまた次の日、彼は見事に風邪をひいた。




